第2章  3

 その後、なんやかんやと元・負傷兵の方々に囲まれ、気が付くと夕食時だった。


 食事は前線基地の大部屋で取ることとなっており、戦う兵士からは不満が多そうな貧相なメニューだった。


 前線基地の人員はウルバーン砦の駐留者によるシフト制で、砦に駐留している者なら多かれ少なかれ、ここでの任務に当たることになっているのだそうだ。

 もちろん、ヴォイドもその例外ではなかったのだが、今回の私の従者という人事をもって、彼の所属はウルバーン砦ではなくなり、この基地へのシフトもそれに伴い無くなるのだという。


 夕食も終わり、本来ならほっと一息つくであろうタイミングで、私はヴォイドに声をかけた。


「さて、行きますか」


 え?という返事が返ってきた。


「どこにです?」


 まさか、先ほどの負傷兵の治療だけで終わったと思っていたのだろうか?


「ウォーミングアップですよ、決まってるじゃない」


 きっと負傷兵の治療だけで終わらせたかったのだろうなぁ、と彼の顔を見て思う。

 だが、私にとってはむしろここからがメインなのだ。


「何なら場所さえ教えていただけるなら、私一人で行きますけど?」


 むしろそれならそれで都合は良い。

 極論、ヴォイドに死なれても困るのだ。

 私一人で行ったところで、先遣隊の一つや二つ、全滅させるくらい雑作も無い。

 そう言う意味では、聖女活動をフリーにしてくれた方が、実を言うと私にとっては都合がよかった。


 無論、ヴォイドが戦えないとは思っていない。

 そもそもクエスター(探究者)という独自行動色の強い職務についていた戦士であるし、付いてきてもそう足手まといにはならないだろう、と思っている。


 けれど、私自身は自慢じゃないがソロプレイが得意なのだ。

 何より他のプレイヤーの事を気にすることも無いし、何が起きても自己責任だ。


 もちろんパーティプレイの経験もそれなりにはある。

 が、マイクを使ってのチャットも苦手だし、他のプレイヤーを気遣ってのプレイもなんとなく胃がチクチクする。


 そう言えば……と思い、保管箱に手を伸ばした。


 『サンクチュアリ3』の従者には、死ななくなる装備というのが存在した。

 装備させると本当に死ななくなるのだ。

 なので好き勝手に連れまわせたというのもある。


 ……あった。従者用の死ななくなる装備、『無傷のネックレス』。


 その名からは想像しにくいであろう細いチェーンの先に十字型の金属の本体があり、その中央にか弱そうで儚げな紅い宝石がぽつんと埋め込まれている。


 念のため。


「『鑑定』」


 小声でスキルを発動する。


『無傷のネックレス:従者専用装備。このアイテムを装備している従者が死ななくなる 区分:アーティファクト』


 説明変わって無いじゃん。

 てことは、こっちの世界でも使えるってこと?

 これ、チート中のチートアイテムじゃないの!

 もう自分がチートの宝庫に思えてきた。


 まあいいか。

 これで私の安心が買えるなら占めたものだ。

 ヴォイドは間違いなく私の従者だ。

 ならばこの効果も間違いあるまい。


「ヴォイド、これあげる」


 私はそう言って彼に『無傷のネックレス』を差し出した。


「何です?これは」


「お守りよ。あなたが死なないように」


 私はそう言って微笑みながら、ヴォイドの手にネックレスを握らせた。

 別に何かを企んで微笑んだわけじゃない。

 ちゃんと、本心から、彼の身を案じて差し出したのだ。


「今ここで付けてもらえると嬉しいんですけど?」


 私の言葉に、ヴォイドは不承不承といった体でネックレスを身に付けた。

 さてこれで一安心。


「じゃ、行きましょ?」


 言って、問答無用で私は立ち上がった。




 外は、満天の星空だった。

 私がつい先日まで暮らしていた東京の空とは大違いで、星の光が地上まで降り注いでいるためか、特に光源が無くとも歩き回れるほどだ。


 ただ、夜空の色そのものは見慣れた濃紺のそれではなく、若干紫がかった色だ。

 これは冥界特有の夜空の色なのだとヴォイドが教えてくれた。


 そういえば、この世界は八つの領域が重なり合って一つの天体を成しているのだと教わった。

 とすれば、最下層に近いこの冥界の上には荒界の地面が見えて良いはずなのだが、それらしき影はどこにもない。

 本来であれば、夜空の光すら届かないはずだ。

 やはりファンタジーの世界には、不思議なことがたくさんある。

 この世界の構造自体がそもそも不思議だ。


 さてビーダスによると、敵の先遣隊は基地からさほど遠くない廃村に駐留しているとの事だった。

 その数およそ千体ほど。

 大半はスケルトンだが、ワイトの姿ももちろん確認されている。

 そしてワイトの騎兵。

 指揮官も騎兵を率いてるとのことだった。


 この世界のスケルトンは、話を聞く限りでは本当にただの雑兵で、スケルトンメイジやスケルトンアーチャーというものが存在しないらしい。

 何よりもスケルトンは「笑わない」と聞いた。

 私(の肉体)が元いた世界のスケルトンは、いわばこちらでのワイトやリッチ並みのようで、ケタケタと笑いもすれば矢も打ってくるし平気で魔法も飛ばしてくる、中々にバラエティに富んだ存在だった。

 ファンタジーの世界も色々多様性があるのだな、と感じる。


 ではスケルトンとワイトの見分け方は?と問うと、動き方や纏っている雰囲気でわかるのだそうだ。


 スケルトンは全身をカタカタ言わせながら武器を引きずり襲い掛かってくるのだが、ワイトは人だった頃の心をそのまま持っており、動きも割合人間に近いのだという。


 なるほど、言われてみれば容易に見分けはつきそうだ。

 とはいえ、見分けがついたところで結局倒すことには変わりはないのだけれど。



 前線基地から二時間ほど北に続く道を進んで、目的の廃村近くまで辿り着いた。

 廃村の周りは森に囲まれており、敵の目を盗んで隠れて進むには申し分ない。


 すっかり夜も深い。

 私はパッシブスキルの『第三の目』が発動しているので夜の視覚も全く問題無いのだが、果たしてヴォイドはどうなのだろうか?


「夜目は利きます?」


 心配になり、そう尋ねた。


「問題無いですよ、ほら」


 そう言うとヴォイドは剣を鞘から半分ほど抜いて見せる。刀身に彫られたルーン文字が光を帯びていた。

 『光の神マールの加護あれ』と読める。

 なるほど、マールは光を司る神だったのか。


「主神のご加護で夜でも昼と変わらない視力を得ていますから」


 確かにその剣を見せられた後でそう言われると説得力が増す。


 ならば問題なし。


 道から脇の森にルートを変え、ゆっくりと廃村へ向けて進む。

 別段敵に発見されても戦闘に不都合はないのだが、折角の機会だから奇襲で試したい事もあった。


 退魔、俗にいうターンアンデッドのようなものだ。

 どのくらいの規模で、どの程度の距離から退魔できるのかを把握しておきたかったのだ。

 退魔は詠唱を伴うため、いざ戦闘が始まってしまうとそうそう使えるようなものでもない。

 囲まれてしまってからではなおさらだ。

 ならば敵に気付かれる前に使うべきだろう。


 これがパーティ戦ならば話は変わってくる。

 他のメンバーに敵を引き付けておいてもらっているうちに詠唱ができる。

 だが今は無理だ。

 ヴォイドと二人だけの状態で取るべき作戦ではない。

 却下。


 そうこう考えているうちに、廃村の入り口近くまで来ていた。


 いた。


 スケルトンの見張りが十体。


 もっと数はいないか、と奥の方へ目を凝らす。


 どうやら村の中でも十体前後の群れが幾つか、それぞれ好き勝手にウロウロしているようだ。


 特に意思があるでもなく、かつ昼夜問わずに活動するスケルトンに、統率という言葉は無い。

 それを率いるワイトならば統率力はあるのだろうが、非戦闘時である今は、それが発揮されている様子はない。


 そのワイトらしき姿は見えない。

 廃村のもっと奥、中心部にでもいるのだろう。

 ここからでは遠い。


 もっと大量の集団相手に退魔を試してみたかったのだが仕方がない。

 村の入り口近くの集団で試すとしよう。


「ヴォイド、ここから動かないで待っていてもらえる?

 ちょっと試したい事があるの」


 彼にそう告げて、私はその場からもう少し入り口の集団に近づくように移動する。

 凡そ五十メートルほど離れているだろうか。

 まだもう少し近付きたい。

 せめてあと二十メートルほどは進みたい。


 ゆっくりと慎重に進む。

 夜は音が響きやすい。

 幸い、今は無手だ。

 武器は保管箱にしまってある。

 いつもならば背中の鞘に差して持ち運ぶのだが、偶然ぶつけてやらかした、などというドジは踏みたくなかった。

 距離、およそ三十メートル。

 ここからならば射程範囲には入るだろう。


 下手に気を勘付かれるのを避けるため、気門開放はせずに試す。


 注意深く、小声で。


「エカールの神々よ、不浄なる生ける死者を祓い、清浄なる世界へ還し給え……『退魔』」


 詠唱を終えると同時に、十体ばかりのスケルトンがいる場に、エカールの聖典文字が魔法陣のように淡い光を発して現れた。

 と同時に、その骨が塵へと化してゆき、やがて跡形もなく消え去った。

 退魔完了。

 何の問題も無い。

 感触的にはもう少し遠くても行けた気がするが、そのあたりの探求は追々だ。


 さて、問題はこれで連中が奇襲に気付くかどうかだ。

 幸い近い距離に敵はいないので、私はささっと一度ヴォイドの元へ引き返した。


「綺麗に消えましたね、さすがは聖女様」


 そう言われ、私はふと疑問に思う。

 この世界の聖職者にはターンアンデッドの概念とかは無いのだろうか?

 聞いてみた。


「ありませんね、始めて見ました。

 そもそもこの世界の普通の聖職者は、エリカ様のような強力な力は持っていませんですし。

 先ほどの治癒だってとんでもないですよ。

 あそこまでの治癒力で、しかも広域発動なんて普通じゃないです」


 つくづく規格外なんだなぁ、と思い知らされる。


「ヒールくらいはあるんでしょ?」


「それも聖職者や魔術師に寄りますね。

 でもエリカ様ほどの威力は無いですよ。

 仮にあったとしても、魔法陣での前準備も必要ですし術式にも時間がかかるでしょうね」


 治癒魔法……?

 いわゆる白魔法、黒魔法みたいな区別があるのだろうか?

 まあその辺りは追々教えてもらおう。


 さて、敵さんの方はどんな様子だろう?と遠目を凝らしてみる。


 特に動きは無い。きっと気付いてもいないのだろう。


 突撃前に、私は瞬間的にヴォイドに追従結界を二つばかりかけた。

 治癒結界と、聖属性結界だ。

 治癒結界は徐々に傷が回復するもので、聖属性結界はアンデッドや悪魔の術や技への抵抗が増す結界だ。

 追従結界とは、場所ではなく対象にかける結界で、魔法で言うところの支援魔法などのバフのようなものだ。

 ちなみに私自身はパッシブスキル『エカールの光』で常に全属性の追従結界が張られている状態だ。


「準備OK。んじゃ、行きますか」


 言いながら、私は保管箱から光龍杖を取り出した。


「あの、エリカ様?昨日から何気に疑問だったんですが、一体どこから装備の出し入れをしているんですか?」


「見えない保管箱を持ってるんですよ。一種の魔法みたいなものだと思って下されば」


「なるほど」


 果たしてこれで納得するかどうかは甚だ疑問だけど、事実なのだからしょうがない。


「村の入り口から左の方に一隊、奥の方に一隊いるので、ヴォイドは左の方をお願いできる?

 私は奥の方に行くわ」


「わかりました。左手の方はお任せください」


 私はうん、と頷くと同時に駆け出した。




「『風刃円』!」


 走りながら小声でスキルを発動するとともに自分の周りを取り囲み回る無数の風の刃を呼び出す。


 気付かれる隙もなく、私はスケルトンの集団の中に飛び込んだ。

 既に風の刃が周囲の数体の骨を刻んでいる。


 私は光龍杖を大きく回転させ、前方一八〇度の敵数体に打撃を叩き込む。

 突然の襲撃に咄嗟に避ける間もなく、光龍杖を叩き込まれた前方の敵が激しく後の仲間にぶつかる。


 ようやく現状を把握したのか左後方のスケルトンが槍を向けてきた。


「遅いっ!」


 のろのろとした槍に光龍杖を叩きつけ真っ二つに折り、立て続けに相手の頭部を殴打する。

 バキッと乾いた音と共に頭蓋骨が砕け散り、その一体はのけぞり、後ろに倒れた。


 面白いくらいに攻撃が簡単に入る。


 膂力のないスケルトンでは、回り続ける風刃円の圧に押し負けてこちらを上手く攻撃できないようだ。

 一方的にこちらが敵の一隊を圧倒する。ものの二分とかかっていない。


 左方のヴォイドの方を見やる。

 彼も苦戦どころかいい調子で敵の半数は仕留めている。

 その光景に安心し、私は次の一隊を探す。


 さらに奥にもう一回り大きな集団がいた。


 さすがに今の戦闘で気付いたのか、敵もこちらに向かって前進してくる。

 三〇体ほどだろうか?


 いくら数が多かろうとも、動きも遅ければ力もない連中が何体来ようが敵ではない。

 この程度ではウォーミングアップにもならない。


 叩きつけ、蹴り飛ばし、打ち砕き、骨の山を積み重ねていく。


 乱戦の騒ぎを聞きつけてか、スケルトンの数が増していく。

 足の踏み場もないほど人骨が散乱している中、いつの間にか私は百体以上のスケルトンに囲まれていたようだ。


 けれど私のワンサイドゲームに変わりはない。

 何体来ようがスケルトンはスケルトン。

 殴れば骨の山に変わるだけだ。

 しかも連中の装備は錆だらけの剣や槍、中には盾を持っている者もいるが、私からすれば何の防御の足しにもなっていない。


 囲まれているためヴォイドの様子を見ることは敵わぬが、先ほどの様子を見ていた限り、心配することも無いだろう。


 周囲を薙ぎ払いながら、気を巡らせてみる。

 思った通り、おおよそ百体くらいに囲まれているが、その向こうからやや強い気を持った敵が迫って来ていた。

 やっとワイトのお出ましだ。

 その後ろには更に多くのスケルトンが付いてきている。


 と、スケルトンの動きが変わった。

 今までのてんでばらばらの動きから、連携の取れた動きに変わってきたのだ。

 だからとて、こちらのやることも変わりはない。

 いや、むしろスピードを上げてサクサク行きたいところだ。


「『気門開放』!」


 全身に気が溢れてくると同時に、風刃円の威力が桁違いに上がる。

 敵の骨を刻むレベルから、スパスパと敵を切り刻むほどになった。

 自分から手を出さずとも、挑みかかってくるスケルトンが自壊するほどだ。


 私は光龍杖を大きく振り回しながら、ぐるりと敵の集団の中を駆け回る。砕け散り、無残にも飛び散る骨、骨、骨。


 うっ……私、このスピード感、苦手かも。


 これ酔うわ。

 いわゆる3D酔いに近い。

 思わぬ弱点が発覚した。

 何か対策立てないと、このままじゃ具合悪くなっちゃって戦闘どころじゃなくなる。


 駆け回っていると、普段の自分のそれの何倍も動きが早い。

 視界に入ってくる情報量があまりにも多くて、頭が上手く処理できてないというか、付いていくのがやっとというか。


 さてどうする、私?


 周囲のスケルトンをほぼほぼ壊滅させ、私は向こうから迫ってくるワイトらしき存在が率いる一隊が近付いてくるまで一息つきながら考える。


 後の方では倒し溢したスケルトンにとどめを刺しながら、ヴォイドがこちらに向かってきていた。



 先に私の元に到着したのは、ワイトの方だった。


「私はペイニング陛下が配下、ウルバーン方面軍の騎士ダクサである!

 貴様は何奴だ!」


 近付いてくるなり明らかに周りのスケルトンとは装備の格が違うワイトが、私に向けてそう名乗る。

 突然襲い掛かってこないだけ、さすがは元騎士とでもいうべきか。


 生前はさぞ忠臣だったのだろうな、と思わせる。中々美声というのがまた憎い。


 私は風刃円の威力を弱めて、相手に姿を見せながら名乗ることにした。


「私はエカール百八の神々の拳にして聖女、エリカ!

 今宵は私のデビュー戦に思う存分付き合っていただきます!」


 言いながらも、気門開放酔いの対策をどうしようかと悩む。


 ダクサと名乗ったワイトが剣を抜き、盾を構えたのに合わせ、私も光龍杖を構えた。


「参る!」


 中々に鋭い剣捌きでダクサが上段から中段への二連撃で攻めてくる。

 無論動きは余裕で読めるので、私は杖を使うことなく上半身の動きだけで躱してみせる。


 下手に派手に動き回っても気持ち悪くなるだけだ、最小限の動きでやり込めたい。


 再びダクサの連撃。

 私は難なく身を躱し、ダクサが剣を引いた隙に光龍杖を眉間に向かって突き立てる。

 まずは様子見だ。

 もちろん敵も盾で杖先を防ぐ。

 なるほど、やはりスケルトンとは違う。

 動きも読みも人間のそれだ。

 ぎこちなさもない。


 盾で弾かれた杖先の方向に身体を一回転しながら屈み、くるぶし付近を目掛けて脚で払う。


 スパーン、と綺麗に足払いが決まった。

 激しく横転するダクサに向け、私は瞬時に立ち上がり光龍杖でみぞおち付近をドン、と突き入れる。

 ダクサのプレートメイルの胸元が大きく凹んだ。

 普通ならこれで終わりだが、ダクサは違った。

 杖先を盾で押しのけながら、剣で牽制し、立ち上がろうと試みる。


 が、無駄だ。

 牽制を躱しながらも、光龍杖の先にグッと力を込める。

 力負けはしない。


「ハッ!」


 気を吐きながら、杖にひねりを加え捻じ込む。

 と同時に、乾いたベキッという音がなると共に、杖先が鎧を更に押し込み、その先の背骨を砕いた。

 ダクサの下半身から力が抜ける。


 それでも両の手に懸命に力を込め、ダクサは抵抗する。


「戦いは終わりだ」


 私はそう言って、光龍杖でダクサの首を薙いだ。

 その衝撃でダクサの頭は在らん方角を向き、やがて腕も動かなくなった。


 毎回こう上手くもいかないよなぁ、と私は思う。


 今みたいに大した派手さもなく大きな動きもない戦いなら、酔いで気持ち悪くもならないだろう。

 だが、まだ敵の四分の一程度を倒したに過ぎない。

 騎兵もいると聞いている。

 何とかする方法は無いだろうか?


 ひとまず再び風刃円を大きく展開しながら、ダクサの後ろから迫って来ていたスケルトンを蹴散らして、それから少し考えよう。


 それからワイト二体(やはり生真面目に名乗っていた)を含む敵おおよそ二百を倒すと、ひとまず周辺からは敵の気が消えた。

 あとはこの廃村のより奥にいるのだろう。

 敵の指揮官もそこにいるはずだ。


 私が気門開放酔いで一休みしていると、残党狩りを終えたヴォイドがやっと追いついた。


「まるで嵐ですね」


 半ば呆れたようにヴォイドは言う。


「これで大体半分は殲滅したのでは?」


「そうね、でも問題はこれからよ。

 まだ騎兵もいるはずだし、敵の指揮官もいるわ。

 きっと村の奥だと思うけど」


「では行きますか?」


 スケルトンが骨の山と化すのが見ていて気持ち良かったのか、ヴォイドは目を爛々と輝かせて立ち上がろうとする。


「待って、少し休ませて」


 酔いからなかなか復調しないので、できればもう少し休みたい。


「もしかしてエリカ様、スタミナ切れですか?」


「違うわよ、酔ったの」


「いつの間にお酒飲んだんですか?」


「飲んでないわよ、失礼ね。

 動きの速さに目と頭が付いていけなくて酔ってるのよ」


 『サンクチュアリ』シリーズではゲーム酔いすることなんてついぞなかった。

 それもそのはず、視点がクォータービュー(斜め見下ろし)なら酔うなどあり得ない。


 一人称視点や背後からの三人称視点は昔っから酔うのだ。

 マ○オですら酔った。


 そして今がまさにその状態だ。

 まるで一人称視点の『サンクチュアリ3』なのだ。


 でも、泣き言も言っていられない。

 これを克服するには何かが必要となる。

 そして、克服しなければこの先戦っていくのはきっと困難になるだろう。


「面白い事を仰いますね。

 自分の動きの速さですよね?

 むしろ動きを極めれば周りの景色はゆっくり見えるようになると思うのですが?」


 それだ!


 達人の域になると集中している瞬間瞬間がスローモーションになるというやつだ。


 私のスキルにもあるじゃん!


 一気に酔いも吹き飛んだ。


「ヴォイド、ありがとう!それじゃ続きいきますか!」


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