第1章 3
それから程なくして、クエスター・ヴォイド・アリューションさんとの面談が始まった。
どうも事情聴取、という雰囲気でもない。
きっと粗方の事情は邪教徒が素直に吐いたのだろう。
「お待たせして申し訳ありませんでした。
改めまして、クエスター・ヴォイド・アリューションです。
クエスターは私の職務名ですので、今後はどうぞヴォイドとお呼びください」
私が待っていた部屋に入るなり、彼はぺこりと頭を下げてそう言い、私の座る目の前の椅子にラフに腰かけた。
明るい声だ。普段から陽気な人なのだろう、嫌味な感じがしない。
改めて私はヴォイドさんの様子を観察する。
体格はがっしりとしており、顔も負けじと顎回りがしっかりした印象だ。
明るい茶色の髪を後に流しており、清潔感がある。
年のころは二十代後半だろうか。
「あの、つかぬことをお伺いしてもよろしいですか?」
私がそう問うと、ヴォイドさんはやや目を見開きながらも、
「何でしょうか?」
「あのっ、この世界では、貴族以外が姓を名乗ってはいけないとか、そういうしきたりってあったりします?」
「いや、特に聞いたことも無いなぁ、何故です?」
ヴォイドさんが不思議そうな顔で私に問い返す。
「そうですか、安心しました。
いえ、本で読んだことがあるのですが、数多の世界にはそういうところもあるそうで……。
それでは改めまして私、エカール百八の神々の拳、エリカ・カザマと申します。
見ての通り神職に身をおいております」
「聖女様、ですよね?」
恐る恐る、といった様子のヴォイドさんから不意打ちを食らった。
エカール百八の神々の拳は華麗にスルーされた。
「ハイ?い、いえ、違いますよ?ただの聖職者ですよ?」
なんとなく、聖女であるという事を公にはしたくなかった。
バレたらどんなことになるかは、聖女ものの小説で色々想像つくし……。
「異世界から召喚された、聖女様ですよね?」
なかなか食い下がってきますな、ヴォイドさん。
「いえ、だから違いますって!
何かの間違いですよきっと!」
「いや、この部屋に張り巡らされた清浄感といい、先ほど邪教徒の尋問中に感じた大きなエネルギーの流れと言い、そうそうお目にかかれる代物ではありませんよ。
ただの聖職者にはとてもじゃないが真似できない事ばかりです」
ヴォイドさんの目は確信に満ちていた。
いやまぁ、そう思うよね。
でも私ゃ心のそこまでどっぷりモンクなんですよ。
モンクでありたい!
「あの、異世界から召喚された、というのは事実です。
それは認めます。
が、聖女なんて柄じゃないです私。
ちょっと戦えるだけの聖職者ですから!」
そうだ。私はこの世界の何者かと戦うためにこの世界に召喚されたモンクだ。
エカール百八の神々の拳であり、正義の鉄槌を下す者なのだ。
多分、きっと。
私が展開した聖域にしても、そこまで強力なものではないはずだ。
ゲームでしか使ったことはないけれど、こんなに大げさに驚かれるような代物でも無い、と思いたい。
「ちょっと戦えるだけの聖職者さんが、十三人の邪教徒相手にものの一、二分で全員を制圧ですか?
しかもただの風圧で魔法を打ち消すとか、一体どんな戦士なんです?」
今度はそっち側から攻めてきたか。
むぅ、さすがに戦う事に関しては弁解の余地は無い。
「修練を積んだ身であることは認めます。
修行で精神と肉体の鍛錬を積みました。
とはいえいきなり召喚された上にサキュバス呼ばわりされたので、その、キレちゃいまして、自分の鍛錬の未熟を感じてます」
そうだ。
こんな美女(自分で言う)つかまえてサキュバスとは余りにも失礼千万。
そもそも今身に付けている『聖域の使者』にしても、私が持っている装備の中では最も聖職者らしいいでたちだというのに。
「ところで、そこまで聖女にこだわるという事は、先ほどの魔導書はやはり、聖女召喚儀式の書だったのですか?
それと、あの魔法陣も?」
これは先ほど魔導書の中身をちらりと見た時から疑問に思っていたことだ。
果たして聖女の定義がこの世界ではどのような扱いなのかはわからないが、魔導書と魔法陣が本物で、それに書かれている儀式を実際に行った結果として私が呼び出されたのなら、私はまごうこと無き聖女なのであろう。
柄でもないし、認めたくもないが、何よりステータスにしっかりそう明記されている。
「間違いないですね。
そして、どうも連中は黒いローブを身に纏った何者かに唆されて、これは聖女召喚と偽って魔王を喚ぶための行いなのだと信じていたようなのですよ。
何とも馬鹿馬鹿しい話ではありますがね」
で、結果現れたのが私、というわけか。
笑えない冗談だ。
リライアの前で、呼ばれた世界に平和を取り戻すと決意した私の気持ちは何だったのだろう?
この世界に、私は本当に必要なんだろうか?
それに黒いローブの謎の人物って、これも『サンクチュアリ』ネタ?
いえね、そういう謎のキャラがいたんですよ。
割と重要なポジションで。
「あの、私がもし聖女なのだとしたら、私には何か特別な使命とかはあるのでしょうか?」
必要な存在であって欲しいなあ、と願いながら、私はヴォイドさんに問うた。
「嫌というほどあると思いますよ」
急に真顔になり、ヴォイドさんは続ける。
「世界は、戦乱に満ち満ちています。
一世紀以上にわたり世界中に戦争があふれ、世界中の人々やエルフ、ドワーフといった者たちはみな疲弊しています。
我々プラチナムハートも、主神マールの剣として、一刻も早く邪悪を断ち切り、世界に平和をもたらしたいと日々奔走しております。
今のこの世界にあなたのような力ある聖女が現れたとすれば、これはまさしく我々の反撃の狼煙となるでしょう。
何よりも敵の大半は邪神に仕える不浄なる悪魔ですから、聖なる力ほど心強いものはありません」
どんな世界においても、人々の安息を邪魔するのは悪魔だ。
私のいた現実世界には実体を持つ悪魔など実在こそしなかったが、概念としてのそれは存在したし、またそれは人の心の弱みに付け込むものだった。
『サンクチュアリ』の世界でも、悪魔の存在が人々をどれだけ苦しめていたことか。
そして、私が喚ばれたこの世界にも、また敵となる大勢の悪魔がいるのだろう。
ヴォイドさんが続ける。
「あなたにはまず、この世界の事から知ってもらわねばなりませんね。
詳しい事は後ほど文官連中から説明してもらいますが、まずは浅く軽く、私から説明しましょう。
まずこの世界、我々はエイトリージョンと呼んでおりますが、その名の通り八つの領域が重なり、一つの世界を形作っています。
何でも学者連中は多層構造とか言ってるそうですが、詳しい事は知りません。
各領域は、ゲートと呼ばれる次元の裂け目で繋がっています。
どのゲートがどの領域のどこに繋がっているかは、それぞれのゲートによって異なります。
ただ、ゲートは世界を行き来するための重要拠点ですので、多くの都市はゲートをを中心に築かれます。
領域はまず上から天界、龍界、浮遊界、精霊界、四元素界、荒界、冥界、地獄界と重なっています。」
何かどこかで聞いたか読んだかしたことがあるような世界だな、と私は考えを巡らせた。
ふと思い出す兄の顔。
お兄ちゃん。
……そうか、アレか。
兄が趣味にしていたミニチュアゲーム「ウォーブレイド エイジ・オブ・マール」の世界。
それが確か、こんな世界だったはずだ。
分厚い魔導書のようなルールブックをパラパラ見せてもらいながら、兄から聞いた話を思い出していた。
それとまるっきり同じかどうかは定かではないが、なんとなくイメージが重なる。
神様の名前がメインタイトルとも重なっているし、何やらあるのかもしれない。
「……どうしました?」
不意にヴォイドさんから尋ねられた。
いかんいかん、考え事してたら真剣に聞いてないと取られてしまう。
「あ、いえ、なんとなく知っているような懐かしい感じがしたので、色々記憶を巡らせてました。すみません、集中します」
私はそう言い、ぺこりと頭を下げる。
ヴォイドさんは不思議そうな面持ちで私の顔を見つめる。
「懐かしい、ですか。過去にこの世界に生きた方の生まれ変わりなのかもしれませんね。そうであったなら、尚のこと現状が無念かと思います」
もしそうだとしたら、確かに無念だろうな、と思う。
百年以上戦争が続き、未だ終わりが見えないのだ。
過去の人々が無念に思いながら未来の人々へ命をつなぐ。
だがそれらも蹂躙されるのだ、戦争という悪に。
「さて続けますね。
天界は我らが主神マール様がおられる領域で、我々プラチナムハートは天界より各領域に派遣されています。
主神と我々が必死に抑えてはいますが、天界とはいえ無事で済んではおりません。
龍界はこの世界の素を形作った古き神々がかつて住まわれていた世界です。
今は古き神々のただ一柱の生き残りでもあり、古き神話の時代から世界を見守っている龍神ドーラ様と、その末裔である龍人が住まう領域です。
今現在、唯一戦端の開かれていない領域です。
浮遊界はその名の通り数多の浮遊大陸が形を成す領域で、特殊な鉱物が採れることからドワーフが古くから住んでいます。
比較的、戦争の少ない領域ですが、あくまで地形が特殊だからでしょうね。
精霊界は自然が豊かな領域で、多くのエルフや様々な精霊が住んでいます。
現在、半分近くが邪神達の領域となっており、相当に苦しい状況です。
四元素界はこの世界で最も広い領域で、主に人間を中心に、エルフ、ドワーフ、龍人、その他の亜人が入り交じって暮らしています。
今や世界の中心とも呼べる領域ですが、それゆえに邪神の侵攻も激しく、現状三分の一の領域が邪神に支配されています。
荒界は亜人の中でもオークやゴブリン、オーガ、巨人といった荒々しい連中が住まう領域です。
が、こちらも珍しい鉱石が多く取れることから、ドワーフも多く暮らしています。
暮らしている亜人たち、特にオークなどは生来の戦争好きでもあり、そういう意味では邪神にとって不利な領域でしょうね。
それでも領域の四分の一は奪われていますが。
そして今我々がいるのがここ、冥界です。
生きた人間と、様々な種族の死者の魂が共に暮らす領域です。
といっても、共栄共存している土地は三割ほどで、四割はアンデッドの領域、残り三割が邪神の勢力圏となっています。
冥界には二柱の死の神がいるのですが、どうにも二柱の折り合いが悪く、邪神の勢力に対して共闘出来ず好き放題にされている、といったところでしょうか。
最後が地獄界です。
各領域で罪を犯した者たちが送り込まれる領域で、意外に思うかもしれませんが邪神の侵攻が余りない領域でもあります。
罪人なら邪神信仰に宗旨替えしても良さそうなものでしょうが、その名の通り環境が過酷ゆえ、地獄界送りとなったものは生きることで精一杯なのかもしれません」
八層が重なっている世界。何とも不思議な世界だ。
そして、話の中にはいくつもの知っている固有名詞が出てくる。
『サンクチュアリ』の世界観では亜人(デミヒューマン)こそいなかったが、アンデッドには嫌というくらいお世話になった。
今いるのが冥界こと死の領域だということはここに連れられてくる間に教えてもらったから大丈夫。
けれどこの領域に召喚されたことが、どうも私の『死を纏う者』と無関係であるとは思えない。
この領域に転生したという事は、まずはこの領域を何とかしろ、というエカールの神々の思し召しなのだろう。
多分私の能力ならば、対アンデッドは御しやすい。
「敵についても教えてもらえませんか?」
今度の敵は悪魔ではない、邪神だ。
悪魔はその尖兵に過ぎない。
ゆくゆくは神と戦うとか?
いや、さすがにそれはちょっと無理かな……?
どちらにせよ、戦うなら情報は必要だ。
「わかりました。
敵は一世紀ほど前にゲートとは違う謎の次元の裂け目より現れた、邪神に仕える悪魔と、その邪神を信仰する邪教徒です。
邪神は五柱、戦と血の神ゴア、病と不浄の神ネグヌ、魔術と不協和の神ティヌト、誘惑と快楽の神ゲフール、陰謀と破滅の神ジェラウです。
五柱、とは言いますがそれぞれが共闘することは少なく、また神によっては敵対している者もいます。
そして、不思議な事に五柱をひとまとまりとして信仰する邪教徒などもいます。
邪神が直接こちらの世界へ赴いた、という話は聞いたことはありませんが、このまま敵の進軍が続けば、奴らが直接現れることも充分に考えられます」
話を聞いてるだけでお腹いっぱいになりそうな邪神の面々ですね。
表立って動くのが大好きそうな奴から、いかにも裏工作で色々してますって奴まで。
そういや奴らもそうだったなぁ、と『サンクチュアリ』の天使と悪魔の面々を思い出す。
どうして神々(とそれに近しい立ち位置の連中)ってこんなのばっかりなんだろう?
結局は人間は巻き込まれているだけで、どうにかしようにもどうにもできない事ばかりだ。
そして私、というかエリカのような特別な人間が現れ、事態を解決していかなければならなくなる。
『サンクチュアリ3』における主人公は、実は人間ではなく天使と悪魔の間に生まれた存在(通称イズニフと呼ばれている)で、両親に色々あった末に育児放棄された結果、それぞれのクラスに就くきっかけとなる場所に捨てられ、そこで育てられ、事件に巻き込まれた末に天使と悪魔との戦いに身を投じていく、という設定だ。
エリカの場合はモンクの修道院に捨てられ、そこで育てられ、修道院が悪魔に襲われて師匠を失った結果として魔王討伐を目指した。
そして、その戦いを終えて、エンドコンテンツを何年も遊びまくった結果がエリカのバケモノのようなステータスに繋がっている。
それにしても、だ。
そりゃあこれだけ戦乱が続いてる世界なら、聖女の一人や二人喚び出したくもなるだろう。
いや、一人二人じゃ戦況がひっくり返るわけがない。
聖女で軍隊でも作らないと、とてもじゃないが領域の三分の一を支配している邪神の軍隊なんて壊滅できまい。
……それで私か。
私なのか。
自慢じゃないが単身で邪教を二つ壊滅させ、アンデッドの王国を丸ごと消し去り、悪魔に敗れかけていた国の戦争を単独でひっくり返し、天使の国に攻め込んだ悪魔の軍勢を魔王ごとつぶし、天界を裏切った堕天使軍をこれまた一人で壊滅させ、倒した魔王の数八体(含む堕天使)、と戦歴を挙げれば枚挙にいとまがない。
だがなぜ敵対している邪教徒が聖女召喚など行ったのだろうか?
しかも謎の男に魔王を召喚するためだと騙されて?
これだけ邪神が好き放題やっている世界に、更に魔王なんか呼び出そうとするなんて邪教徒共も何を考えていたんだろう?
「あの、話を割って申し訳ないのですが、邪教徒はなぜ、自分たちの信奉する邪神の悪魔を呼び出そうとしたのではなく、宗旨と無関係の魔王なんかを呼び出そうとしてたのですか?」
するとヴォイドさんはああ、と呟いて続けた。
「よその世界の魔王を呼び出して、自分たちの支配下に置こうと思ったらしいですね。
といっても、もし仮に本当に魔王なんてものを呼び出せたとして、あの程度の魔術師なら贄にされてお終いでしょうが。
私が推測するに、彼らの言う謎の男は大方あなたのような聖女を呼び出したいけれども、自分たちにそこまでの魔力や知識が無いゆえにとんちをきかせたのではないか、と思います」
なるほど、とんちですか。
……まあそういう考え方もあるか。
とはいえ相手は曲がりなりにも魔術と不協和の神の信徒だ。
そこまで安易に騙されるとも思えない。どうやらその謎の男に何か大きな秘密があるのじゃないだろうか?
「何か気になりますね、その謎の黒ローブの男。
何か詳しい事は聞けたんですか?」
「いえ、ほとんど手掛かりのようなものは得られませんでした。
ふらりと彼らの隠し神殿に現れて、活動資金だと言って割と大きな額の布施を渡して、その話をしていったらしいです。
ああ、それと一つだけ気になる事を言っていたようです。
今夜、世界に八つの流星が堕ちる、と」
流星が八つ?
「堕ちたのですか?」
「私は直接確認していませんが、砦の見張り番は遥か北東の方に流星が堕ちたようだ、と報告してきましたね。
時間的には私たちがあの魔法陣の部屋に入った頃だったようです」
一瞬、流星が堕ちたと聞いて、召喚された私が流星だったのでは?と思ったのだが、杞憂に過ぎなかったようだ。
「それと、私達が乗り込む寸前に、その魔法陣の部屋に一筋の光が飛び込んだ、という報告も上がってますよ。
あなたですね?」
あー、やっぱりそれっぽい演出があったのか、と私は苦笑した。
「さて、話を戻しましょうか。
今、この冥界では大きく分けで三つの勢力によって戦乱が続いています。
我々死者生者共存派と、アンデッドによる支配を行っている国々と、そしてその混乱に乗じて攻め入った邪神の一柱、ティヌトの軍勢です。
そしてここ、城塞都市ウルバーンは現在、隣接するブルフェーンを支配するワイトの王、ロード・ペイニングの軍勢と交戦中です」
ワイト。
見た目は全身鎧で着飾った強そうなスケルトンの強化版みたいな連中だ。
だが、違いはそれだけではない。人間同様の知性を持ち生前の記憶を有している。
配下はもちろんスケルトンだが、軍勢の中には王と手を結んでいるネクロマンサーもいるかもしれない。
とすれば、リビングデッドの存在も想定すべきだろう。
そしてワイトの軍勢ならば騎兵もいる。
ワイトの事を知性を持ったスケルトン、と馬鹿にしてはいけない。
特にワイトの王となると元々が王族で、怨念を持ったまま死してなお野望のために戦うような存在なのだ。
配下にはノーブルワイト(貴族階級の上位ワイト)もいるだろう。
ワイト自体も騎士階級であることが多い。
なにより人間同様の知性を持っているということはつまり、組織立って行動もすれば知略も用いるのだ。
もちろん会話に不自由もない。
だが、アンデッドならば私には不利は無い。
弱点も知り尽くしているし、遠慮なく戦えるというものだ。
ワイトやスケルトンの千や二千など、今の私には何の問題にもならない。
ここでふと疑問がよぎる。
「そういえば、冥界の神様事情ってどのようになっているのですか?」
「先ほどお話ししたとおり、冥界には二柱の神がいます。
一柱は死の女神ネフィーラ、生者と死者の共存を推進している神です。
そしてもう一柱、冥王ガイストモアは、死の領域をアンデッドによる支配とするためにネフィーラと敵対してます。
一月ほど前の事なのですが、冥王の邪悪な企てが明るみになり、ハイエルフの大賢者にして知識の神でもあるパリアス様によって討たれ、今は沈黙しています。
ただ、冥王の配下はそれぞれ我が強い連中が多いですから、神輿がなくとも好き勝手に暴れているのが現状です。
ロード・ペイニングもそんな連中の一人ですから」
そうか、さっそく悪魔共と一戦交える、というわけにはいかなそうだ。
まずは目の前の戦争を終わらせ、その次を考えなければいけない。
「聖女様の力なら、アンデッドの軍勢の一つや二つ祓う事は雑作もないのでは?」
割とまじめな顔をしてヴォイドさんは恐ろしい事をさらっと言ってのける。
いや、そこまで恐ろしくもないか、実際にできそうだし。
正直、聖職者としての私の能力では、確かにできなくはないだろうが、殲滅にはやや時間がかかると思う。
聖女として召喚されたのなら、求められているのはそちらの能力だろうし。
けれど、私の本心は違う。
戦いたいのだ。
拳と拳で、肉体と肉体(この場合相手は死体だが)でぶつかり合いたいのだ。
多分その方が圧倒的に早いし。
「マア、ソウデスネ」
とりあえず、片言でそうとだけ答えた。
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