第11話

 夜が明けて、俺はキッチンで二人分の朝食を作っていた。


「ミラー」

「主殿、私の名前は最後の方は伸ばさないでくれ。鏡になってしまう」

「何言ってんだよ……。まあ、いいや。もうすぐ出来るから机の上片付けといて」

「はーい」


 ソファで寛ぎながら、朝のニュース番組をぼんやりと見ていたミラは返事をするやいなや、ぱぱっと机の上を魔法で綺麗にした。


「おいおい……。そんな事で魔法使ってたら、あいつ怒るぞ?」

「その本人もだらけグセが凄いんだ。文句言われても言い負かす自信はある」


 部分と胸を張るミラ。すると、ピンポーン、と玄関からドアホンが鳴る音が聞こえた。


「はいはい、ちょっと待って……って」

「む?主殿、誰が来たのだ?新聞か?テレビか?もしや、怪しい宗教か?」


 扉のスコープから外の来客を覗き見、少し動きを止めた俺の様子に、興味を湧かせてミラが尋ねてきた。


「いんや、噂をしたらなんとやら……って奴だ」


 俺はそうミラに答えながら鍵を開けて扉を開ける。するとそこには、青白い髪を右側に纏めたサイドテールの少女が居た。


「お久しぶり。そしておはようございます。マスター」


 アーモンド型の蜂蜜色の瞳をクリクリとさせながら、ペコリと少女は頭を下げる。すると、身に纏っていた白色のローブがフワリと少しだけ揺れ、その下のとてもたわわなものも揺れた。


「ああ、久し振りだな。ウンディーネ」


 彼女の名前はウンディーネ。『水の大精霊』とも呼ばれる彼女もまた、その可愛らしい姿からは想像がつかない程の力を持つ、伝説クラスの怪異である。


「む?主殿、まさか本当に駄精霊が来たのか?」


 リビングに居たミラの声には少しの驚きが混じっていた。流石に噂していた張本人が来た事に少なからず戸惑ったらしい。


「……カーミラ、聞こえている。そして私は駄精霊ではない。少し……そう、少しおちゃめなだけだ」

「少しおちゃめなだけで、タルタロスが目覚めかけるとは思えないのだが?」

「う……」


 ミラの言葉にウンディーネは「痛い所を突かれた!!」とばかりに顔を顰めた。俺は、少しの溜息を漏らすと、


「廊下に居られたら邪魔になるし、取り敢えず入って」


 と、ウンディーネを部屋へ引き入れたのである。

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