第10話

「おやおや?明人君。聖剣やら魔剣やらはどうしたん?」

「手加減するならこっちのほうがいいんですよ。聖剣魔剣の類なんぞ使ったら、威力が高すぎるんです」


 ニヤニヤしながら尋ねてくる笹山にぶっきらぼうに返すと、こちらへと向けて振るわれた瀬戸大将の巨腕をヒョイと躱しつつ駆け出した。


「さっきの歩いてる姿からは想像出来ない程に機敏だな」


 いつの間にやら制空権を取ったミラはそう呟いてから、吸血鬼の代名詞とも言える鋭い犬歯で自らの親指に傷を作った。そして、小さな傷口から不自然な程に大量の鮮血が溢れたかと思うと、空中で球状に渦巻き、更に大量の細い針のように変化した。


「取り敢えず串刺しになれ。『血操術・血針雨』」


 ミラが自身の持つスキルによって作り出した血の針が一斉に瀬戸大将へ向けて射出された。


『ぐおオオオおっ!!』


 瀬戸大将へと突き刺さる無数の血の針。だが、瀬戸大将は一切怯まずに、ミラへと向けて腕を伸ばした。


「おや、全く怯まないな?何故だ?」

「ミラ……。瀬戸大将は元々ガラクタの集まり。痛覚なんざある訳ないだろ!!それにここには大量の肉体の素材スクラップがあるんだ。ちょっとやそっとの攻撃じゃ意味無い筈だ」


 ミラの天然な言葉に思わず突っ込むと、あっ!と口を丸く開け、間抜けな顔をした。


「瀬戸大将やゴーレムみたいな怪異は体の何処かに核がある。それを潰せば問題ないよ☆」


 笹山はミラへ向けてそう説明しつつ、両手に持った符を瀬戸大将へ向けて鋭く投げた。

 投げつけられた符は、糊も何も付いていないのに、瀬戸大将の身体へと張り付いた。


「『符術・蒼焔』」


 笹山がそう口にした瞬間、瀬戸大将の身体に張り付いた符が一斉に蒼白く燃え出した。蒼城い炎は高温の為、瀬戸大将の身体を構成する家電や廃材はまたたく間に消し炭か熔解した。


「っ!!見つけた!」


 それのお陰で、瀬戸大将の装甲が薄くなり鈍く赤黒く光る核を胸の中心に見つけた。


「そおりゃっ!!」


 俺は核を見つけるやいなや、助走せずに加速して、身体が再生する前に核を切り裂いた。


『グオおお……』


 小さなうめき声を上げる途中で、瀬戸大将の身体は力が抜けたようにバラバラと崩れ、元のガラクタの山に戻った。……正確には、約6割が融けたり炭化したりしているが。


「それで、今回核になっていたのは……」


 笹山はズカズカとガラクタの山をあさり、切られて光を失った核を引っ張り出した。

 引っ張り出された核に笹山が何かささやきかけると、核が一瞬だけ光り、そこから何かがポトリと落ちた。


「これは……恐竜のぬいぐるみだね」


 ヒョイと笹山は薄汚れた恐竜のぬいぐるみを拾い上げるとそれをポケットから取り出したビニール袋の中に放り込んだ。


「さて、今回の仕事はおしまい!お疲れ様!バイト代はいつも通りに明人君の口座に振り込んどくから」


 「じゃっ!」と片手を軽く上げると、笹山はぬいぐるみの入ったビニール袋片手にぴょーんぴょーんとガラクタの山を跳び越えて夜闇に姿を消した。

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