第9話

 河川を渡りきった俺とミラはスクラップ工場に足を踏み入れた。


「いらない忠告かもしれないけど、気を付けるんだよ~」

「本当にいらない忠告だな」

「貴様の方が気を付けるべきだな」


 少し遅れて入ってきた笹山の言葉にそれぞれ返すと、


「……ふたりとも辛辣だね~。ぼかぁ、本気で泣きそうだよ」


 と呟いたので、ミラと口を揃えて「泣けば?」と言うと、実際に泣き始めた。


「……なあ、主殿。流石に言い過ぎたか?」

「いや、どう見ても嘘泣きだろ」

「あら、バレてた?」


 罪悪感を覚えたのか、少し心配そうにするミラにそう答えると、両目を手で覆って下を向いて泣き声を出していた笹山がケロリと顔を上げ、笑いながらそう言った。


「こいつがこんぐらいでメンタルやられる様なたまじゃないこと知ってるだろうに」

「……また騙された」


 ミラの言葉からわかるとおり、笹山は頻繁に泣き真似やら起こったフリをして騙そうとしてくるのだ。そのせいか、同僚からも嫌われているらしい。まぁ、自業自得か。

 ミラもそれを知っているのに、根っからの善人(この場合善吸血鬼か?)である為、毎度毎度騙されるので、笹山からはよくターゲットにされてしまうのだ。


「さて、お巫山戯もこれぐらいにしてぱっぱと仕事を終わらせようか☆」

「一番巫山戯ていた奴が何を言う」


 パンッと一度手を鳴らすと、笹山は真面目くさった顔になったので、俺が呆れつつ言い返すと、笹山は「テヘぺろ♡」と舌を少しだけ出して、握り拳で自分の頭をコツンと軽く叩いた。


「「きもっ!」」

「シンプルな言葉は時として一番人を傷つけるものだよ」


 思わず口から出た素直な俺達の感想に、笹山は顔を無にしながらそう口にした。……今更まともなことを言われても。


『グおおオおオおッ!!』


 既に敵地に来たというのに3人揃って中身の無い話をしていたら、ガラガラと音を立てて、近くにあったガラクタの山を崩しながらそれは現れた。

 無数のガラクタで出来た4メートルはゆうに超えるその人形ひとがたの体から、ポロポロとガラクタが零れ落ちる。しかし、それを気にせずに俺たちの元へ向けてのっそりと近づく様はまさに巨人だった。


「……瀬戸大将って、瀬戸物の付喪神だったよな?」

「まあ、そうなんだけど……。現在の定義では無数のガラクタや廃材、廃棄された機械なんかの集合体型の付喪神を指すようになってるんだよね」

「まるでガラクタリ……」

「それ以上言うな」「それ以上言っちゃだめだよ」


 何か色々と行けない事を呟きかけたミラを止めると、改めて瀬戸大将に向き直った。


「それにしても、今回のは大物だね」

「だとしても、ぱっぱと片付けるだけですよ」


 笑いながら笹山は懐から大量の符を、俺は自身の魔力を練り上げ、光で擬似的な剣を作り上げ、瀬戸大将へと向け構えた。

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