第5話

 2組のクラスへと入り、自分の座席に座って俺はため息を吐いた。確かに、主人公達の物語をすぐ近くで見てみたいと思ってこの学園に入ったが、主人公のすぐ後ろの席って、近すぎるにも程があるだろう。


「主人公ってかなりの頻度で怪異絡みのトラブルやら事件に遭遇しているから、俺も巻き込まれそうなんだよな」

『いや、主殿は私を含め、いろんな怪異に遭遇して、巻き込まれているから今更ではないか?』


 ポツリと小声で呟くと、ミラから念話でツッコミが入った。……そうだね、確かに凄い巻き込まれているね。

 今度は先程よりも深くため息を吐くと、俺の視界に影が差した。


「入学初日からため息なんて、どうしたんだ?」


 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはあのゲームのイラストと変わらない美形の男が居た。そう、主人公の御剣翔だ。

 御剣は、爽やかな顔で首を傾げながら俺の反応を待っていた。俺は、慌てて御剣に返事をした。


「いや、今朝黒猫を見かけてな。なんか不吉だなーって思って」

「うっわ、それは縁起悪いね。何事も無ければいいね」


 俺の前の座席に座りながら御剣はそう言うと、ハッと何かに気づいて、俺へと改めて向き直った。


「そういえば自己紹介してなかったね。俺は翔、御剣翔。翔って呼んでくれ。君は?」

「明人。山田明人。まあ、これから一年同じクラスの人間としてよろしく」


 俺が手を差し伸ばすと、翔も笑顔でその手を握った。


「これから友達としてよろしくな!」

「……ああ、よろしく」


 正直言って、そこまで深く関わりたく無かったが、ここで拒否するのも不自然だし俺は少しぎこちない笑みを浮かべて返答した。


『なんじゃ。眺めるだけだと言っておったが友人になったのか?』

『うるせぇよ』


 影からミラが愉快そうに念話を送ってきたので、俺も念話で言い返した。すると更にミラから笑いの思念が流れてきたので、またため息を吐きそうになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る