第一章
第3話
平穏無事とは言い難いが、俺、山田明人は今日この日をもって高校生となる。進学先はツキハナで主人公達が通う私立月谷学園だ。
モブとして目立たず生活したいが、俺もツキハナの一ファンとして、リアルの主人公達を見たいのだ。そして、押しヒロインである東城夏凛をこの目に焼き付けたいと、勉強を頑張ったのだ。
……そう、月谷学園は進学校な上にネームバリューがある為、倍率が高いのだ。俺の場合は前世の知識がある分、数学などは有利だったのだが、歴史などは前世とは違いが多く、大変苦労した。
「しかし苦労して歴史や地理を勉強したかいあって、合格出来た。後は目立たずひっそりと主人公達を遠目で見るだけだな!」
今年から始めた一人暮らしの為に、借りた実家から少し離れた場所にあるアパートの一室で月谷学園から届いた合格通知を手に持ちながら、ニヤニヤとしていると、足元の俺の影から透き通るような女の声が聞こえてきた。
「先程から一人でニヤニヤと独り言を呟いて、気味が悪いぞ。主殿?」
足元を見てみると、俺の影から少女が顔だけを出して呆れていた。
「五月蝿いよ、ミラ。……というか、中途半端な形で影から出ないでくれる?見ててなんとも言えない気分になるから」
俺がそう声をかけると、顔だけを出していたミラは、ヤレヤレといったように首を横に振ると、「よっこいせっと」と、どこかオヤジ臭い掛け声と共に姿を現した。
「お前、見た目だけは完璧な美少女なんだけどな……」
「見た目だけとは何だ。私は中身も完璧な美少女だぞ」
ミラは紅玉のように真紅の瞳を細めながら心外そうに言うと、光を反射しキラキラと輝く
「全く……。主殿は女の扱いが下手だな。もし相手が見つからなかったら私が主殿の相手になろうか?」
「謹んで断る」
俺が間髪入れずに即答すると、ミラは幼子のように頬を膨らませた。
「むう。主殿は私の何が不満なのだ。家事炊事はある程度はできるし、自画自賛になるが容姿は整っている方だし、これでも私は尽くすタイプだぞ?」
「だからといって吸血鬼に手は出さねーよ」
俺がそう言うと、ミラは「怪異差別はんたーい」と、ベッドにゴロンと寝転がりながら言った。
彼女、ミラ……カーミラは俺と契約を結んだ怪異の内の一人で、数少ない
何故俺と契約したかというと、ドラマティックな出合いとかでは無く、吸血鬼狩りと戦って、油断してダメージを受けて血が欠乏して行き倒れていた彼女に、血を上げたら「好みの味だ!」とか言って懐かれたのだ。
「む?私をじっと見つめたりしてどうしたんだ主殿?私の顔に何か付いているか?」
ベッドの上で足をバタバタとさせていたミラを見つめながら出会った当初の頃を思い出していると、不思議そうに首を傾げられたので「可愛らしい目と鼻と口が付いてるよ」と返すと、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分といった様子で顔を赤らめると、ベッドにうつ伏せになって枕に顔を埋めると、先程よりも激しく足をバタつかせ始めたのだった。
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