第2話
『月下の約束と麗しの華たち』通称ツキハナ。現代日本を舞台に繰り広げられるギャルゲーだ。
このゲームには『怪異』と呼ばれる化け物も登場し、主人公やヒロイン、その仲間達がそれらの起こした事件の解決へ向けて奔走するというオカルトやらファンタジーやら謎解きやらバトルアクションやらの要素が混ざっているが、基本はギャルゲーである。
俺もこのシリーズにはのめり込み、全5作全てプレイした。
なぜこんな話をしているのかと言うと、俺がこの『月下の約束と麗しの華たち』の世界に転生したからである。
その事に気がついたのは5歳の頃だった。元々、自我がはっきりし始める頃には前世の記憶を取り戻していた。その頃は元の世界との違いを見ても、「並行世界に転生したのだろう」と考えているだけだった。
そんなある日、どこか見覚えのある化け物に襲われた俺は無意識に勇者時代のスキルを使って撃退した。
そしてそこで気が付いた。「あれ?現代日本にスキルとかないじゃん」と。そのまま勇者時代の感覚で「ステータスオープン」と唱えれば、現代日本では見れないはずのステータス表がウインドウとして空間に投影された。しかし、投影されたのは勇者時代のステータス表ではなく、ツキハナでよく見たステータス表だった。
それによくよく思い返せば、有名な学校の一つとして名前が上がる私立月谷学園はギャルゲーの舞台として描かれた学園であるし、有名ジュニアアイドルの名前がまんまシリーズ第3作目に登場するヒロインの名前だし、なんなら先程瞬殺した化け物はゲームに出てくる『邪鬼』と言う名の雑魚キャラだし……と、一度そう思えばもうそれ以外に考えられなくなっていた。
大好きだったギャルゲーの世界に、少しトラウマ気味な勇者時代の頃のステータスとスキルを持って、モブキャラとして転生した俺は、心に決めた。「このまま目立たないモブとして暮らそう。しかし、俺の平穏や大切なモノに危害を加える奴はぶっ飛ばそう」と。
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