1-3
「新入生代表挨拶、倉田颯馬」
その名前が体育館中に響き渡り返事をしたのは、私のちょっと前に座っていたあいつ。
金の髪が、窓から差し込む太陽の光に照らされ、輝いている。
新入生代表挨拶は入試トップがやると決められていた。
なぜなら、ここは都内でも随一の偏差値を誇る学校。
成績を重んじるのは当然のことであろう。
まさかだわ・・・。
あいつが入試トップ、ね。
まあ、私には関係のないこと。
「次は皆さんお待ちかねであろう、部活動紹介の時間です!」
入学式自体は終わり、教室に帰るのかと思われたが、司会の人がマイクでそう言う。
それを聞いて、周りの子たちは期待の声を上げた。
当の私は、それとは正反対の思い。
「まじか・・・」
誰にも聞こえないように呟く。
私の思いを無視するように、部活動紹介は進んでいく。
先に運動部を済ませ、ついに文化部。
「続いては、吹奏楽部です!どうぞ!」
その司会の声とともに、壇上にざっと2~30人くらいだろう、それくらいの部員がそれぞれの楽器を持ってパイプ椅子に座り始めた。
男女の比率はやっぱり女子の方が多いが、男子もそこそこいる。7:3くらいだろう。
自然と、目はフルートパートにいってしまう。
ピッコロとフルートを吹き分ける人が一人、フルートのみが二人。
まあ、多くもなく少なくもない、妥当な人数だろう。
部長だろうか。
指揮棒を持って部員たちの前に立つ女子生徒。
こちらを向き、一礼する。
また、部員たちに向き直る。
そして、指揮棒を構える。
振り下ろされた瞬間、始まる演奏。
私は思わず下を向いた。
それは、期待にそぐわなかったゆえの行動。
そう、私は期待していたのだ。
ちょっとは、ここの吹奏楽の実力がどれほどだろうかと、気にはしていた。
だが、期待外れだったようだ。
普通の普通。平凡中の平凡。良くもなく、悪くもない。
「まあ、そりゃそうか」
凄い吹奏楽なら、私が中学の時から学校の名前が知れ渡っていてもおかしくなかっただろう。
でも、中学の三年間、「月風高等学校」という名前を噂で聞いたことは一回もない。
それは、そういうことなのだ。
きっと、いわゆる本気じゃない、金賞をとることが目的じゃない、楽しくやれればそれでいいと考える部なのだろう。
まあ、推測しようが私には関係のないことだが。
入るわけじゃあるまいし。
気づくと終わっていた演奏。
こちらを向き、一礼する部長さんらしき人。
その顔は、達成感に満ちた、清々しい表情をしていた。
部活動紹介も終わり、教室に戻ってきた。
今日はこれで終了らしい。
部活見学に行く者、友達と帰路につく者、しばらく教室に残って駄弁る者、さまざまいたが、私は一人で帰宅しようとすると、
「水森さん!」
大きな声で呼ばれた。
まだ教室に残っていた数人が、こちらを見る。
本当、迷惑だからやめてほしい。
私の元にやってきた金髪の倉田颯馬。
「お願いだから、私に関わらないで」
「なんで?」
「・・・」
聞き返されたが、言葉を返すのも面倒で、私は無視し、教室を出ようと足を動かすと、
「待って!」
急に腕を掴まれた。
「・・・ちょっと、触らないでくれる」
「あ、ごめん!」
パッと手が離れ、腕が自由になる。
「部活見学、してかないの?」
「・・・」
何を勘違いしてるのか。
きっと世間の誰もが、私が高校でも吹奏楽部に入ると思っているのだろう。
「私、もう吹奏楽は辞めたの」
「え・・・」
私がそうぶっきらぼうに言うと、倉田颯馬は気の抜けた声を出した。
「私のことは放っておいて」
少し強めに言い放ち、倉田颯馬の横を通り過ぎる。
私は振り返らず、自分の家に直行した。
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