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「水森真白」






その名前は、吹奏楽をやってきた者は必ず知るであろう、避けては通れない者の名前だ。






水森真白は中学の部活から吹奏楽を始めた。

担当楽器は主にフルート。

他にも、サックスやホルン、ドラムなど、多数の楽器をこなせたが、あまり自分からはやりたがらなかった。

フルートを手に取って数分で音が出せ、初日で初見の曲を吹けるようになり、数日で先輩を抜いて1stを任されるようになり、しだいにコンクールなどでは水森真白の見せ場を作るため、必ずフルートのソロパートがある曲を持ってきた。

水森真白は、入って一年足らずでそこの中学の吹奏楽部の絶対的エースとなったのだ。

水森真白のソロパートがあれば、必ず金賞を取れる。

そう言わしめたほどで、吹奏楽界の中では超有名人になってしまった。

無名だったその中学が、今では吹奏楽の名門にまで登りつめたのは、水森真白の存在あってのことだろう。

全国の上手い吹奏楽部員が載る、吹奏楽の雑誌の表紙を飾ったこともある。






水森真白は、とんでもないほどの音楽の才能に恵まれた。

ゆえに、あんなことが起きたのだろう。






「・・・さん!・・・ずもりさん!水森さん!」

「・・・!」






突如、頭の中で響いた中性的な声。

男子にしては高いその声は、私の耳に入ってきやすい。






「なに」

「なにって、聞いてた?水森さんがここにいるとは思わなかったよって話!」






この金髪男子が言っているのは、なぜ山口の中学だった私が、ここ、東京の月風高等学校にいるのかってことだろう。






そう、私は山口県にある中学に通っていた。

なぜ高校を東京にしたか。

それは、単純に私を知っている人に会いたくなかったから。

もう、静かに過ごすと決めたのだ。

だったら、吹奏楽をやっていた私を知る人がたくさんいる県内の高校には通いたくない。

そう思うのは必然だろう。

けど、私の知名度というのを、私自身甘く見ていた。

こんなところにまで、私を知っている人がいようとは。

吹奏楽の顧問は仕方ないにしろ、まさか生徒の中に知っている人がいるとは思わなかった。






「なんで、ここに来たの?」

「・・・放っておいて」






私がぶっきらぼうにそう言っても、金髪男子はまだ何か言いたそうだった。






「ほら、入学式始まる」






私は、このおさまりが悪い空気をぶった切るように、金髪男子から離れ、廊下に並んだ。


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