1-1
「おはよう」
「おはようー」
「おはようございます」
四方八方から聞こえてくる、朝のお決まりの挨拶。
私は、その中の誰とも挨拶も会話もせず、一人、淡々と校門をくぐる。
校門の前には白い看板が立てかけられている。
そこには「月風高等学校入学式」の文字。
ここ、月風高等学校は、都内でも随一の偏差値を誇る高校である。
偏差値が高い、つまり、頭が良いと言われているところの制服はダサいという説があるが、ここは割と可愛いのだ。
冬服は紺のセーラー服に白のリボン。
夏服は白のセーラー服に黒の細いリボン。
特に夏服が可愛い。
中学の時の先生に偏差値が高いけどあなたならと薦められた学校だったが、私はほぼ制服で決めたようなものだ。
しかもここは、偏差値が高いかつ校風が自由。
さすがに派手髪は無理だが、明るい茶髪に染め、ピアスという人も結構いる。
と言っても、私はさすがにそこまでの勇気が出なかった。
というより、する必要がないと思ってるから。
ここでは私は、とにかく静かに過ごすのだ。
もう二度と、中学の時のようなことは起こらないように。
クラス発表の紙が、下駄箱に張り出されていた。
水森・・・。水森・・・。
すぐに見つけた。
Aクラスか。
周りには、同じクラスになって喜んでいる二人組や、下駄箱から一番遠いDクラスで嘆いている者、様々な反応でごった返していた。
早く教室・・・。
私は人混みが嫌いなのだ。
すぐにローファーから上履きに履き替え、下駄箱からすぐのAクラスに向かう。
ガラッとドアを開け中に入ると、一度は私に視線が集まるが、興味が湧かなかったのかすぐに友達との会話を再開するクラスメイトたち。
まあ、私地味だから。
それでいいんだけど。
ここでは三年間、暗く静かに過ごすと決めている。
そんな私にとって、それは好都合だった。
黒板に張り出されている小さな紙を見て、座席を確認する。
名前順のようで、私は結構後ろ、というか一番後ろだった。
良かった。
誰かに見られるということが起きない。
逆に、私は自分の所からほとんどの人の背中が見えるというのは、なんというか落ち着くものだ。
席に着いて、担任が来るまで読書をしていようと家から持ってきていた読みかけの小説を開くと、
「ねえ、あなた、どこ中学出身?」
いきなり声をかけてきた者が。
読書にふけっていたいのに。
私は、その声をかけてきた子の顔を見る。
これまた明るい髪色。
見ただけで分かる。
この子は、陽のキャラの人だと。
まあ、どうせすぐ興味もなくなって、私に話しかけることはなくなる。
「教えたくない」
「・・・ふーん。そっか」
ほら、すぐ私の席から離れた。
私は静かだし、暗いし、面白くないから、大丈夫。
この反応を徹していれば、誰も私に興味を抱くことはない。
3年間、何事もなく終われる。
そう思っていた。
始業のチャイムが鳴ってしばらくすると、このクラスの担任だろう先生がやってきた。
「はい、私がこのAクラスの担任を任されることになった、原田です。部活は吹奏楽部の顧問をしています。皆さん、この一年間、よろしく」
吹奏楽部・・・か。
聞きたくもなかったその単語は、妙に私の心をかき乱す。
いけない。落ち着け。
私は、自然と下を向き、机の木目を眺める。
その時、バンッと大きな音が教室内に響いた。
「すいません!遅刻しちゃいました!」
息を切らしながらやってきたその男子は、金金の金髪。
さすがにその髪色はやばいんじゃないのか。
だが、担任はそれには一切触れず、遅刻したことを咎めた。
「もー、わかってますって!明日から、遅刻しません!」
その時、その男子と目が合った。気がした。
途端に、
「あー!水森真白!」
声を上げ、指を指してくる金髪の男子。
「えっ!?水森真白さん!?」
それに反応して吹奏楽部の顧問だと言っていた担任にもバレる始末。
いや、いつかは吹奏楽部の顧問にはバレるだろうとは思ってたけど、まさかこの形で。しかも初日。最悪だ。
まさか、私を知っている人がこのクラスの生徒の中にいるなんて。
「はあ・・・」
私は小さくため息をついた。
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