第4話

 意識が戻ると、見知らぬ場所に打ち上げられていた。どうやら命拾いしたようだ。乗っていた船は跡形もなくなっていた。どうやら流されてしまったようだ。ここは船着き場ではなく岸辺のようだ。また別の船を探す必要があるだろう。他の船に乗っていた連中が気になるが、今の状況を把握することが先決だろう。おそらく想定外の場所に打ち上げられたにちがいない。大量の船を運搬するために急な高低差が設けられており、それが滝にみえたのではとも思えたが、本当にそれが事実かはわからない。

 赤っぽい地面に立ち上がると、周りを見渡す。例によって白い服を着た作業員がせわしなく行き来している。

 よく見ると、ガスボンベのようなものを背負っていた。

 何に人もの作業員が、ガスボンベを開き、中の空気を放出する。明らかに淀んだ空気が辺りに満ちた。

 空気の流れは、一定期間で上に向かい。新鮮な空気となって戻ってきた。

 新鮮な空気が戻ってくるタイミングで、作業員がなにやら機械を使って、ボンベに詰め込んでいる。

 ボンベは見覚えがある。私が前にいた工場で見たのと同じだった。どうやら、ここで空気を詰めていたようだ。

 ここは息がしやすい。新鮮は空気が満ちているようだ。上を見ると、うっすらと赤い空のようなものが見えたが、よく見通すことはできない。

 空気の流れは、一定のリズムを持って、対流しており、淀んだ大気は上の方に吸い上げられて、浄化されて戻ってくるようだ。どうやらここは換気施設のようだ。

 あたりを見渡すと、はるか向こうに壁のようなものが見えた。

 作業員は何も言わず、淡々と大気をボンベに詰め込んで、他のものに手渡している。その目はうつろで、表情というものはなかった。

 ボンベを運んでいく作業員についていくと、出口らしい穴が開いている箇所があった。

 一方通行らしく、入った作業員は戻っては来ない。

 突然、醜悪な臭いがする気体が、空より舞い降りてきた。

 毒だと思わせるような、灰色がかったガスは辺りに充満し、吸った作業員はもがき苦しみながら死んでいった。

 私は思わず地面に伏せ、息を止めた。

 地面は妙に生暖かく、嫌な感じだったが、ガスを吸うよりはましに思えた。

 やがて、毒ガスは薄れる。次第に清純な空気が辺りに満ちると、立ち上がり思い切り息を吸い込んだ。

 喰屍鬼が、何十体もいずこともなくなだれ込み、作業員の死体を食い荒らしている。

 毒ガスを吸ってしまった喰屍鬼自身の死体も、仲間から貪り食われている。

 吐き気と、嫌悪が襲ってきて、喰屍鬼どもから距離を取る。

 地面に倒れもがき苦しんでいる作業員の一人に近づき、抱きかかえた。

 蒼白の顔だったが、何とか生きているようだ。

「大丈夫ですか?」うつろだった作業員の視点が定まり、こちらを見た。僅かに意思を感じられる。

「君は……」

「そんなことより、ここは危ない。離れましょう」

「そのようだな」

 ふらつくように作業員は立ち上がった。

「あなた方は何故、盲目に働き続けるのですか?」

「さあ? 考えたこともないな。そういうものなんじゃないのか?」

「ここは何かおかしい。みんな死ぬために生きているみたいに見えます」

「そんなこと考えたこともないな」

「もっと命を大事にしてもいいはずです」

「言われてみればそんな気もするな」

「ここから離れましょう。ここは毒ガスが発生しているようです」

 フラフラと、作業員は私の後について歩こうとした。強烈な破裂音が響いたと思うと、次の瞬間。作業員の頭は内部から破裂したように爆発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る