第2話  立候補

 僕達は二人共魔法が使える。魔法適性がある者の数は大体1割位であり、今住んでいるこのマーナダブルの町もごく一般的な地方の町で、小さくもなく大きくもない。魔法適正のある者は強制的に10歳で勇者学園に入学させられる。そこで一般的な教養以外に、剣や弓などで攻撃する攻撃の仕方、魔法について勉強する。


 卒業後最低3年間は冒険者として活躍し、一定以上の数の魔物の退治をしなければならない。この世界には魔物が多くおり、町も魔物の侵入を防ぐ為に大きな壁で覆われている。そして貴族の娘だろうが、王族だろうが関係なく勇者学園に放り込まれてしまう。王都の学園には王族もいると聞いていた。因みに勇者とは勇気のある者の事であり、特別な力を持つ者、例えば救世主になるような者の事を指してはいない。かつてはそういう使い方をしていたようだが、今は違う。そういった者は真の勇者と言われ、尊敬される。


 勇者学園には10歳で入学し、16歳で卒業になる。ライ達は16歳の為、今年卒業する。各地の勇者学園はクリアするとギフトが得られるというこの特別なダンジョンに毎年6人組のパーティを一つ送らなければならなかった。王都の場合は2パーティーだ。


 生涯に一度のみしか挑めなく、しかも16歳の者しか入れない。正式には試練のダンジョンと言うのだけれども、学園生は皆、死練のダンジョンと揶揄し、攻略メンバーに選ばれませんようにとビクビクしていた。


 先日試練のダンジョンに挑む者の立候補が始まったが、誰も立候補する事はなかった。

 死亡率が高く、弱い者達のみで挑むと1階層をクリアできるかできないかで、少なくとも1階層をクリアしないとダンジョンからは出られないと言う。


 毎年4割から6割の者が帰還しない、つまり死んでいると言うのだ。しかし生還した者は何かしらのギフトを授かり、中にはレアで強力なギフトを得られているケースもある。16歳、この年齢限定であり、尚且つ一度しか挑めない。例外なく2度と入る事が出来無いのだ。しかも毎年11パーティーしか入れない。と言うか11パーティーが入る必要がある。リスクが高く、自ら立候補するのは王都の生徒のみというのが通例だった。その為各勇者学園から1パーティーを送り出す必要があった。メンバーは抽選で選び、選ばれた者達で無理矢理パーティーを組ませ送り出していた。連携が取り難いにわかパーティーで挑む事が死亡率を上げる一因に成っていると言われているのだが、そこを改善する事はなかった。


 ダンジョンアタックの目的は、ギフトを得られれば魔物との戦いに対し有力者となる可能性が高い。その為強い戦力を確保するのが目的だと言う。当然のことながら強力な力を得られる可能性もあるが、戦いに役に立たないような外れのギフトしか得られない場合もある。


 リスクが高過ぎるのだ。その為、当然ながら誰も立候補しない。ライ達のいる学園でもトップと言われている者も尻込みして立候補しなかった。


 毎年の事だが、王都以外の町の全てが同じなのだが、数年に一度しか立候補する者がいないと言う。そこで当然の事ながらいつの日から始まったのか抽選になるのだが、箱の中に対象者の名前の書かれた紙が入れられており、学園長が皆の前で箱の中に入った紙を引き、選ばれた6名がダンジョンに挑まなければならない。拒否をすると反逆罪で捕らえられ、一生投獄されるか、奴隷落ちとなる。もし、逃亡するなら国を捨てる事になるが、国を出るには危険な魔物がいる国境を少ない人数で通るのだが、それは自殺行為だ。三択が迫られる。ダンジョンに行く、反逆者として捕まり一生投獄されるか奴隷になるか。町から逃亡し危険生物の生息する町の外で一生を過ごすかなのだ。大抵ダンジョンに行く事を選ぶ。一人ではやっていけないからである。


 そんな中抽選が始まった。

 メアリーは珍しく、僕の横でずっと僕の腕を掴んで離さなかったんだ。頼られているのかなと少し嬉しかった。


 学園ナンバー2と言われている者以外4人目までは、物理攻撃が僕と大差のないどころか下の実力しかない平凡な実力の者が選ばれていた。そして5人目が問題であった。


 よりによってメアリーが選ばれてしまった。彼女はその場で僕に抱き付き泣き崩れていた。そんな!いやだよ!どうしよう?と唸っていたのだ。また、4人目も問題だ。ユリカと言う学園で五本の指に入る美少女で、ユリカちゃんが選ばれた時、メアリーは半べそだった。


 6人目を選ぼうと、抽選箱の中に手を入れ、6人目の紙を取り出し開こうとしていた。


 僕は咄嗟に手を挙げ立ち上がり叫んだ。志願します!と。


 隣にいたメアリーがえっ?と驚いていた。現在の実力であれば何もかも戦闘能力はメアリーより僕の方が上だ。体格もそうだが、やはり男女の戦闘能力の差というのが出てきている。


「大丈夫だ。メアリーの事は命に代えてでも僕が守る」


 意外そうにメアリーは感謝をした


「ライ君ありがとう」


 最近にしては珍しく邪険にしてこなかったどころか、抱きついて泣いてさえいた。


 皆から僕に拍手喝采が起こった。そういう風習なんだ。立候補する者がいれば、みんなが拍手で送り出すけど、僕も見た事がないんだ。そして僕はメアリーの手を引き壇上に上がった。そして一人一人に対し学園長が握手し頼んだぞと言っていた。最後は僕だったけど、握手をされた時に学園長が最後に引いた紙をそっと握らせてきた。何の事はなかった。笑うしかなかったけれども僕の名前がそこにあったんだ。立候補しなくても僕が選ばれていたんだよね。あははははと学園長に対し僕は笑ったが、誰にも言う必要はないと言われ、黙って頷いていたんだ。

 

 そして僕は拍手喝采をされた。周りから立候補する者は尊敬されるのだ。メアリーもからかわれた。僕が何故立候補したか分かるからだ。


 周りから、きゃーメアリーってばライ君に愛されてる!羨ましいわ!と言われメアリーは真っ赤だった。


 勿論メアリーからも感謝をされた。


「本当に、本当にいいの?私の為にありがとう。やっぱり私のライ君だ。好き!」


 メアリーが感謝していた。あれっと思う事もあったが、その時は悪い気はしなかった。そうあのボスの一撃を食らい左腕を持っていかれるまでは。


 ダンジョンの道中もそうだが、彼女の態度は彼女の背丈を僕が超える前の昔の彼女に戻ってくれていた。普段彼女は僕の事を何かと頼ってくれていた。


 後悔は無い。好きな娘の為に命を投げ出すのは男の役目だと格好をつけており、実際風前の灯となっていた。


 今回選ばれたのは女子2人と男子4人だ。


 リーダーは偉そうにしている2位のダザリオだ。脳筋系で、魔法は強化型に特化している典型的なファイターだ。


 メアリーは風系の魔法をレベル3まで取得し、物理攻撃は弓を得物とし、風を操り攻撃したり、弓の威力を高める。

 因みに魔法はレベル5で上級だ。


 メアリーの実力は魔法はトップの実力だが、近接戦闘に難があり、総合成績は真ん中位なのだ。


 他の者は似たりよったりで、大した事はない。僕以外は皆得意属性のレベル2を取得していた。


 問題は僕だ。やはり何もかも中途半端で、ロングソードを両手で使うが、クラスの中での剣の実力は真ん中だ。強くもなく弱くもない。


 魔法は駄目だ。雑魚や底辺扱いだった。

 魔力量は学園一、国一番とも言われているのだけど、如何せん全属性に適正があるとはいえ、どう頑張ってもレベル1の超初級魔法しか使えず、光属性のヒールが使える事から回復要員とみなされていた。


 入学当初は全属性が行ける者として天才現る!と大騒ぎだったのだけれども、一向にレベル2以上を取得できず、段々皆から遅れていった。最初の2年は学年主席だったのだが・・・


 

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