第3話  覚醒

 メアリーだけは常に庇ってくれたが、それが余計に男子の顰蹙を買っていた。また、クズオだのカスオだの言われていたが、メアリーが常に傍らにいるからいじめには至っていなかった。また、女子ウケは良かった。前世の知識からか、無意識に女性を立てたり、さり気なくエスコートしていたからだ。それが余計男子の顰蹙を買い、男子からは孤立していた。


 そんなメアリーも最上級生になってから急に素っ気なくなり、ちょっとした事でも直ぐに突っ掛かってくるようになっていた。


 それでも僕は咄嗟の判断や最適解を出すのが早く、昨年の年末試験では学年ナンバー10に入っていたんだ。


 模擬戦や対戦試験も初級魔法を駆使し、相手の苦手属性を使ったり、めくらませなど小癪な!と言われる手を使い、泥臭い試合をして成績を上げていた。それと、全属性の魔法に適正があると言うのは、全属性に対して耐性があるから、レベル3の魔法程度では殆ど僕には効果がない。ただ、物理攻撃に対しては、相手がゴリ押しでくるとどうにもならなかった。ただ、実際にそいつらと命のやり取りを本気でしたら多分僕が勝つ。彼らに勝とうとすると殺す事以外思いつかず、殺さずに勝つ方法が無い為に負けていたんだ。


 僕は中々正々堂々と戦わなかった。だから10位の成績でもクズと言われていたのだが、メアリーは魔物は正々堂々とか関係ないわと、形振り構わず泥試合をする僕の事を見習えとまで言ってくれた。そう、僕はしぶとく泥臭いんだ。足を舐めたら見逃してやると言われたら僕は迷わず舐める。そうやって命乞いをしてでも生きたいと思うんだ。悪い事だろうか?生きてさえいれば巻き返しが出来るが、死んだらそれまでだ。でもメアリーの為なら死ねる・・・男の悲しい性だったりするんだよね・・・


 僕は目覚めた。ただ地面に倒れていただけだったが、まだ自分が生きている事に驚いた。


「メアリー!僕はまだ生きているよ!」


 つい叫んでいた。どれくらい気絶していたのか分からないが、ボスの姿はそこにはなかった。ただ、ボスを倒した時に出るドロップの魔石と衣のようなアイテム、ギフトを得る為の宝玉が出現していた。また、ボスに刺さっていた剣や短剣を回収しようとしたが、今まで使っていた剣が見当たらず、代わりに柄や鍔に宝石が散りばめられた上等な剣が一本転がっているのが分かった。どう見ても業物だ。それと短剣が二本に増えていた、もとい、やはり業物っぽいのが二本有った。


「これって僕の剣だよね?」


 ボソッと呟いた。手に取るとかなりしっくりくるような感じがする。ロングソードより少し長いが重さは今まで使っていた剣の半分もない。何か秘めたる力を感じるが今はそれを見る時ではなかった。剣が軽いのか、自分が強くなったのか片手で振り回せた。もう一回り大きいと大剣と言われる大きさだ。ただ、見慣れたロングソードと違い、極東地方で使われていると言う太刀に似ていた。

 僕は知っている。これが日本刀だという事を。ただ、何故?と言われるとよく分からなかった。日本?とは思うが、小さい時から時折だけれども、誰かの記憶が断片的にフラッシュバックしていたのと関係が有るのだろうか?更に時折、もう時期立つ時が来ると、時が来れば全てを思い出すであろうとその夢には毎回出てきたのを思い出した。

 

 だだ、痛みや今のこの状況からそれらの夢?の事を記憶の隅に押しやり、取りあえず使える武器が手元に有る事に、ある意味ホッとした。


 そして僕は冷静に今の状況を整理した。どうやらダメ元の起死回生の一手が嵌ったようで、これまで誰もなし得なかった最下層のボスを倒したようだった。何故ここが5階層だと分かるのかと言うと、扉の所に5とあったからなんだよね。


 体のあちこちが痛かった。最後のポーションを使ってしまい、回復の遅いレベル1の回復魔法を使い、傷を癒していく。


 強く魔力を込めてヒールを使うも、失くした腕と目は残念ながら戻らなかった。だが、痛みが引いて動けるようになった。足を捻った筈だけど、痛みはもうなかった。


 辺りを見渡しボスや敵がいない事を確認した。どうやら僕が落ちてきたのはボスのみがいる所謂ボス部屋という所だったらしく、あの魔物を倒したとしても他の魔物にやられていた可能性があった筈だが幸いボス部屋の為、他の魔物もおらず意識を取り戻すまでの間に襲われる事もなかったようだ。


 ギュルルルルとお腹が鳴り、お腹がかなり空いている事が分かった。


 そういえばと思い出したのは、1階層のボスを倒した時の事だった。1階層のボスをサクっと倒せてしまったので、その為、俺達って強いんじゃないか?とリーダーが言いい、そのまま2階層に行こうぜとギフトを取得し、扉が開くと強引に二階層へ向かう扉に入った。慌てて皆が付いていった次第だが、ボスを倒した後に出現した宝玉に触れ、ギフト取得を終えたその時は扉が二つあった。ご丁寧に地上へというのと2階層へという看板までがあった。そしてリーダーが2階層への扉の方に行ってしまったのだが、扉を潜ったその瞬間に地上へ行く方の扉が消えてしまい、下へ降りるしかなくなってしまったのだ。つまり全員が一緒に探索を打ち切るか進むしかない事が分かった。つまり一蓮托生で行くしかないのだ。そして地下に行く扉を潜ったらその扉も消え壁となっていた。戻る選択肢が消えてしまい、否応無しに先に進むしかなくなった。


 そして不安がるメアリーが僕の服の裾を掴んで進んでいた。彼女にしては珍しい。そしてもうひとりの女子のユリカちゃんはそんなメアリーの裾を握っていた。


 1階のボスを倒し地上に戻る者は多いのだ。僕らの町の学園ではその先に進んだ者も今までで最高が3階層をクリアした者だ。但し、王都の学園では過去に5階層に行くと告げていた実力のあるパーティーがいくつかいたが、戻ってきた者はいないが、4階層をクリアした者は数10年に一度いたようだ。


 どこまで進んだかが正直分からない。全員戻るか全員進むかで、行動を共にしないのは死んだ者だ。


 今いる所は頭上の遥か高い所に穴が開いており、僕はそこから落ちてきたんだと分かる。だけどそれ以外にどこか進めそうな所がなかった。扉があったが開かなかった。とてもじゃないが落ちて来た穴は登れる高さではなかった。そこはただ落ちるだけの穴のようだった。


 よくこんなところから落ちて助かったよなと呟いていたが、己の体を確認してため息をついた。片目が見えないし、傷は治ったが完全に目を持っていかれているのだ。そして致命的なのは左腕がなかった事だ。肩のところから先がもぎ取られていて、傷口自体はポーションにて塞がっていたが、まだ薄皮一枚といった感じだ。片腕になったのだ。そして片足が折れていた筈だが、それは気絶している間に治ったようで、まだ少し痛みはあるが、歩けるようにはなっていた。


 1階のボスを倒した時の事から分かっているが、台座の上に置かれているオーブが気になって仕方がなかった。

 なので早速そのオーブに触れる事にした。オーブに触れた途端に「クリエイティブ」と言う声がどこからともなく聞こえてきた。そう1階のボスを倒した後にライオットを取得した時もライオットとだけ聞こえてきた。


 なんだろうと思うが、クリエイティブということは何かを作る?錬金術なのかな?とつい首を傾げていた。試したい衝動に駆られたが、あらかじめ言われていた。もしギフトを得ることができたら、その場で使ってはならないと。理由は気絶してしまうからと、魔力の制御が出来ず、最大量が強制的に使われるからだ。新たに取得したギフトを一番初めに使った時は体が慣れていない為例外なく皆気絶するという。今まで気絶しなかった者は聞いた事がないというのだ。しかもこんなダンジョンの奥深くで一人で使うのは危険だという事もある。


 ライオットとは名前の通り雷もしくは電撃の類を放った筈だった。1階層のギフトであのようなギフトだったという事は、このクリエイティブというギフトは相当期待しても良いのではないかと僕は感じた。そしてメアリーがどうか無事でいますようにと祈るのであった。

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