第一話 蒼穹の記憶

 蒼穹が目を覚ますと、雲の切れ目から月明かりがさしていた。たとえ満月ではなくとも、静けさの中に雲から覗く美しさの美しさのあるこの空はとても好ましいものだろう。

 夜というのはたいてい静まっているものである。蒼穹が目を覚ましたも静けさがあった。だが、そんな静けさからは妙に胸騒ぎがした。


 記憶をどんなにさかのぼっても、戻ってこない。頭に浮かばない。

 この痛み。なぜこうなっているのか。それらすべてをかき消すような

 そのすべてが蒼穹を苦しめた。


 でも、気づいたのだ。蒼穹は、今白いカーテンに囲まれている。その中にある、一床のベットで横たわっていた。頭以外の痛みがないのは単に頭のケガのせいなのか。考えるだけでも頭が痛くなる。


(あぁ…もう嫌だ。なんで病院にいるんだろ)


 そんなことを考えていると、蒼穹はあることに気が付いた。


 ーー人が来るーー


 白衣に身を包んだ人間たち。

 蒼穹は唯々恐怖した。知らない人間が近づいてくることに。また、殴られる。

 そう思っていた。でも、その人達は殴るなんてことはせず、蒼穹なんていないかのような反応を示した。いや、正確には蒼穹を見て、蒼穹が見えなかった。この時蒼穹は、偶然いた目撃者により、病院へ搬送された。

 しかし、医師の努力むなしく蒼穹は息を引き取った。彼を見送ったものは一人もおらず、1人で死んでしまった。


 でも、そこにとどまり続けようとした魂は、絶対に消えない。まだ消えていないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る