第31候 黄金の麦に満たされる

5月31日 曇りときどき雨


朝から眼鏡をなくして探し出すのに20分以上かかり、とても疲れた。洗面所に置きっぱなしにしてしまっていた。見つかってよかった。


後悔したこと:買い物の荷物が重すぎて指が痛かった。原付で行けばよかった。もしくは買い物カートを、合法的に持ち出しても良いという法律を作ってほしい。



・・・



喫茶店のバイトをはじめてから最初の給料日だった。


2号店では茶封筒にそのまま入れられて渡されていたけど、今回はちゃんと口座振込になっている。通帳の額が増えているのも嬉しいけど、オーナーから直接「今月もありがとう」と言われて渡される給料袋の嬉しさというのも、きょうびなかなか味わえないものになってしまったな。


昨年末まで働いていた居酒屋では、制服代だとか、まかないだとかと色々な理由をつけられ勝手に天引きされていたけれど、今回はしっかり純粋な給料が入っていた。当たり前に働いたぶんが、当たり前にお金になって入ってくることが、これほど嬉しいとは。


オープニングにあたっての加算もあり、それなりの額だ。電気代やガス代を払って、服を買って家賃を払ってもまだ余裕がありそうだ。いつもより膨らんで重い財布が、先月の頑張った自分を、肯定してくれているような気がする。


ATMコーナーから出て、いつもより大きなスーパーをぶらりと歩き出す。商品棚から商品を手に取って、カゴに入れるまで悩む時間がいつもより段違いに短い。


こんなペースで色々買ってしまえば、レジで合計金額を見て、ちょっと後悔するんだろうけれど「頑張ったんだからいいよね」なんて言い訳をつけて、いつもは選ばないような、ちょっといいシュークリームを、またひとつカゴに放り込んだ。


カラカラとカートを押しながら目的もなく店内を歩いていると、アルコール類の棚に入り込んだ。ビールも知らない間にずいぶんいろいろ種類が増えたものだ。


クラフトビール、果汁メインのもの、ラガー、エール、ホップ、クリアだとか生だとか。それに黒ビールっていうのもよくわからない。知らないだけでこの世の中にはたくさんのものがある。ワインやブランデーなんかもきっとそう。それが大好きな人はたくさん飲み比べて、自分にとっての宝物をこういうところからでも探し出すんだろう。


僕はいつも果実酒、なかでも梅酒がすきだった。ビールの味の違いは僕の舌ではよくわからないけれど、梅酒ならある程度わかるつもり。


結局、パッケージデザインに心惹かれたビールと梅酒とよくわからない英語の瓶を3本カゴにいれた。外見だけじゃわからない。それが素敵かどうかは開けてみてのお楽しみだ。


案の定、レジの清算中どんどん増えていく数字をみて、少し呻くことになったけれど、まあ今日は自分にご褒美ということで。帰ったらウィッシュリストに入っている映画を観ながら、桃葉を相手にクダを巻いてやろう。どうせ明日はお休みだから。ゆっくり過ごそう。


なんともないただの休日を、心のままに過ごせることに、なんだか安心する日々が重なっていく。


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