涙が星になって
ツカサの指と、自分の膝に、茜のことで傷ついて泣いていることを認めさせられた。
茜との別れを思い出して、涙が出たんだ。自覚する。受け入れる。茜との別れは、俺がずっと持ってた傷なんだ。癒やそうともせず、向き合おうともせず、大切な人との別れが俺の運命だって。
「茜に、一緒にいて、ほしかった……!」
茜に叶えてもらえなかった願いを、はじめて明確に口にした。口にすると余計に涙が溢れた。けれど泣き顔を両手で覆うのも、茜との別れに心が負けたと行動で示してしまうみたいで嫌だった。
「……その茜より俺の方がよっぽど祐護さんのこと好きだから言うけどさ」
ツカサの両手が、すくい上げるように俺の頬に触れた。そんな気持ちじゃないのに、ツカサにそうされると顔を上げそうになってしまう。
「俺はここで祐護さんと出会って、祐護さんへの感情をたくさん変化させてきた。心配だったり、安心したり、大切だったり、ドキドキしたり」
俯いたまま、ツカサの声を頭に浴びる。俺を思う声は彼が淹れてくれる紅茶のように暖かく、俺の痛みを包むように心に降り注いだ。少し痛くて、それなのにもっと欲しくなる心地よさで。
「俺が祐護さんへの気持ちを自由に変化させてきたみたいに、ここの景色だって祐護さんの自由に変化させても良いんじゃないか」
ツカサの片手が俺の頬から離れて、眼前に見覚えのあるカードが差し出された。
「……祐護さんが俺の幸せを願うように、俺だって祐護さんに、幸せに手を伸ばしてほしいんだよ、わかるよな?」
ツカサの誕生日プレゼントに紛れ込ませたメッセージカードの余白には、こう付け足されていた。
「『俺は祐護さんと一緒に幸せになりたい』……」
間違いなくツカサの文字だ。俺の頬を優しく撫でるツカサの手から離れるように顔を上げる。星空を背負ったツカサが、優しさを湛えた瑠璃色の瞳で微笑んでいた。
「できれば、茜ってヤツのことなんか忘れて、俺と二人で、幸せに生きてほしい」
ツカサの人差し指の背が、俺の涙をゆっくりと拭う。その瞬間、確信めいた思いが心に瞬いた。
(「必ず大切な人がいなくなる」なんて単なる思い込みだって。きっと、信じられる。ツカサとなら)
ひときわ強い夜風がツカサの背後から吹き付けて、ぎゅっと目とつむった途端にすべての涙をさらわれた。乾いた瞼をゆっくりと押し上げる。ツカサの頭上の星が一粒、空を流れるのが目に入った。
「流れ、星……?」
それに続くように、糠星が夜空を滑る。進む時を見せつけるかのように、新たな星が生まれて、光の線に加わり、遙か上空を巡る。
「ツカサ、見上げて!流れ星しかない!」
「は?え?いきなり何……って、なにこれ!?」
ツカサの動揺になど目もくれず、すべての星は輝きの尾を引いて流れる。俺は両手を合わせる代わりに、ツカサが手にしたままのメッセージカードをつまんで、目を閉じた。
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