また飼葉を分けあう日まで

 アスターはアスタリスクの玄関付近で、水の入ったバケツの中に顔を突っ込みながら俺たちを待っていた。

 

 東京競馬場から出てだいぶ調子を取り戻したツカサに、バケツとアスターの手綱を任せて、玄関ドアを少しだけ開く。

 

「……やっぱり」


 ほんの少しの隙間から、暗いムクロジの森へと青い光がうっすら漏れた。振り返ると、察したツカサがアスターの手綱を引きつつバケツを玄関ドアが目に入らない方向へ持って行く。

 

 アスターの身体が反対側を向いたのを確認してから玄関ドアを全力で引っ張ると、ムクロジの森に青い輝きが広がった。バケツを置いたツカサがアスターを大きく旋回させる。アスターの身体がゆっくりとアスタリスク玄関の方を向いた。

 

「アスター、この光は大丈夫かな?」


「なんか青いけどどうしたの?」


 非常にのんびりした、肩の力が抜ける反応に思わず吹き出しかけた。


「……アスターはスペースに会うことだけ考えてれば良いからな」


 アスターの隣に立つツカサが穏やかに声をかけて、玄関に向かって手綱を引いた。

 

 

 

「キューシャだ!」


 玄関に立つアスターは、玄関ドアの向こうに自分が預けられている厩舎を見ているらしい。無論俺には青い光しか見えない。ツカサにもそうだろう。


「……スペース、見つかるといいな」


 ツカサがアスターの手綱から手を離して、祈るように語りかけた。

 

「みつかるよ!ツカサにもあわせたげる!」


 アスターは尻尾を持ち上げて、気持ちよさげに目を細めた。


「俺も会っていい?」


 二人だけの会話にならないように、俺も割り込む。


「いいよ!」


 アスターはさらに気を良くして、耳をピンと立てた。ツカサとアスターの関係一人と一頭の仲の良さに複雑な感情を向けていた自分が情けなくなる程度にはさっぱりとした回答に、アスターから目を背けたくなったが別れの間際なので我慢した。


「兄ちゃん、待ってろよ~!」


 アスターが再会への意気込みを声高に発し、前脚を大きく上げる。ツカサがアスターから離れて、俺のシャツの背をぎゅっと握った。

 

「絶対ケガとかするなよな」


「スペースを探すのも大事だけど、自分が走るのもちゃんと頑張りなよ」


「わかってるよ~、も~!……じゃあね!」

 

 アスターが玄関ドアの向こうへ、軽やかに飛び出していく。アスターの蹄鉄の音がドアの向こうに消える頃には、いつも通りの暗い玄関に戻っていた。

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