夜の紅茶

 重ねた椅子を持ってアスタリスクの外に出る。


 待たせていた勝利はひときわ大きなムクロジの下で、キラキラ星を歌っていた。


 ツカサはすでにオイルランプと紅茶のセッティングを終えている。


「そっとしておこうか」


 俺はテーブルの周りに円形の椅子を置いていく。


 ツカサはそれに座ると頬杖をついて目を細めた。


 俺も椅子に座る。


「……また今度、二人だけでこうしない?」


「気が向いたらね」


 ティーカップを口元によせ、紅茶から立ち上る桃の香りを楽しんだ。


「やっぱり、人が淹れてくれる紅茶は良いな」


「俺が淹れたのが一番だろ?」


 香りに誘惑されるまま、一口いただく。


 澄んだ流れが喉を下り、暖かさを体に伝える。


「うん、一番だ」


 どうしようもなく頬が緩んでしまう。


 ツカサが満足げに口の端をつり上げた。


「ゆうごさん、ツカサさん、お待たせしました」


 勝利の声に弾かれるように、表情を引き締める。


 たくさん歌った勝利がこちらに向かってきて、ほぼ砂糖の紅茶を一口飲んだ。


 椅子に座って、遠い星空を見上げる。


「すごく、綺麗です!」


「『アスタリスク』はずっと夜なんだよ。日が当たらないからカルシウムとビタミンD……牛乳とか魚とかを多めに食べるんだ」


 俺の話を聞きながら、勝利は細めた目を擦った。


「あの、今は何時ですか?」


 左にはめた腕時計を確認する。


「十九時だね」


「そう、ですか……」


 勝利が脱力したように椅子の背もたれに寄りかかる。


 俺は立ち上がって勝利を抱え上げた。


 ツカサに睨まれるが、お構いなしで勝利に笑顔を向ける。


「疲れたとか、眠いとか、そういうことは言ってくれて大丈夫だから」


 うつらうつらする勝利を揺らさないようにゆっくりと自室のベッドに運んだ。

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