三ツ森ツカサの執着

 ダイニングキッチンでは予想通りツカサが待ち構えていた。


 俺の進路を塞ぐように立って、素早く俺の手首を掴んでしゃがみ込む。


「今、撫でろ」


 笑顔でこちらを見上げながら、掴んだままの俺の手首を揺さぶる。


 ツカサのまっすぐさに心が揺れるのも事実だ、だが、それ以上に。


(俺はこれ以上ツカサに近づいていいんだろうか)


 ツカサとは関係のない、過去のいろいろなことが呼び起こされる。


 それらを振り払うように、首を横に振った。


「あんまり勝利を待たせたくないから、あとでゆっくりにしようね」


 さらりと、期待を持たせないように放った言葉に、ツカサの笑みが深くなった。


「言質取ったからな」


 軽い口調なのに、背筋に悪寒が走るような、じっとりとした執着が感じられた。


 ツカサがペインターパンツのパッチポケットからボイスレコーダーを取り出す。


 再生ボタンを押すと、この部屋に入ってから今までのやりとりが再生された。


「『あとでゆっくり』してくれるんだよな?」


 上機嫌のツカサが跳ね上がって、俺の首に腕を回す。


「うん、わかった。そこまで執念見せるなら、うん」


 感情が冷めて、それ以上抵抗する気にはなれなかった。


「引かないでくれよ、焦らし続けた祐護さんが悪いんだからな!」


 俺を責めつつも、ツカサはどこか楽しそうだ。


 俺の首を解放したかと思うと、ボイスレコーダーをパッチポケットにしまって、ティーセットやオイルランプをトレイに乗せはじめた。


「ボイレコなんていつ渡したっけ……」


「忘れるまで待った。奥の手ってやつ」


「ああ、うん、勝利の前ではそういうの言わないでくれよ」


 軽い足取りで外に向かうツカサを見送る。


 俺は外に出したテーブルとセットの椅子を取りに、書斎と反対側の廊下へ向かった。

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