『アスタリスク』の外
玄関ドアはギシギシと音を立て、自ら外への道を開く。
「……なんで外がおうちじゃないんですか?」
興奮と不安の混じった表情で勝利が見上げてくる。
「僕はおうちからこの玄関にきたはずです」
玄関の向こうには、ムクロジの木が生えた暗い森が広がっていた。
「ここ『アスタリスク』はちょっと変わった場所なんだ。勝利が元の世界に帰りたいって心から思えば、この玄関から元の世界に帰れる」
「……そっか、僕はおうちに帰りたくないんだ」
納得したように、勝利が独りごちた。
「帰りたくなるまで、ここにいていいから」
ゆっくりとアスタリスクの庭に踏み出す。
重たいモノを運ぶとき特有の、のしのしとした足音が背後から近づいてきた。
「祐護さんっ、テーブルっ、持ってきたよっ!……っはぁ。絶対あとで頭撫でろよな!」
ツカサが外にプラスチックテーブルを置いてアスタリスクに戻った。
俺は勝利をテーブル付近におろして、しゃがんで勝利と視点の高さを合わせた。
「勝利、ちょっと難しいかもしれないけど。同じ場所にずっといると見えなくなるモノってあるんだ」
「ええっと……」
勝利が人差し指を唇に当てて、考え込む。
「だから気分転換に外でお茶をしようって思ったんだ。待っててね、椅子と紅茶も持ってくるから」
アスタリスクからわずかに漏れる明かりの近くでムクロジを眺める勝利を残して、俺はアスタリスクの中へ戻った。
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