ティータイムに角砂糖
自己紹介や簡単な事情の説明をできるほどに落ち着いた少年をダイニングキッチンに招いた。
少年―――美鄕勝利は両親の喧嘩が怖くて家を出た瞬間、ここに迷い込んだらしい。
「祐護さん!今日は桃の香りの紅茶だよ!」
木製の丸いダイニングテーブルにティーポットと三人分のティーカップを運んで、ツカサが俺に笑いかける。
「今更だけど……勝利は紅茶、好きかな?」
「甘いのが、いい、です……」
ツカサが「了解」とつぶやいて勝利の紅茶に角砂糖を突っ込んでいく。
一個、二個、三個、四個……七個。
「限度があるでしょ、限度が」
「子供なんてこのくらいしないと飲もうとしないだろ」
困り顔の勝利が、砂糖まみれの紅茶にゆっくりと口をつける。
「凄くおいしいです!」
満面の笑みを見て、俺はほんの少し勝利の将来が心配になった。
「まぁ、年齢上がれば砂糖の量も減る、か……?」
「祐護さんは砂糖一個、と」
「そこは普通なんだ」
勝利がクスクスと小さく笑う。
「……仲が良くてうらやましいです」
「普通だよ、毎日顔をつきあわせてるからね」
仲が良いという言葉への喜びを隠して、当たり前という顔をする。
「パパとママは普通じゃないのかな。最近はずっと喧嘩してるし……」
「……どんなことで?」
勝利がこわばった表情で震える唇を開く。
「えっと……その……ごめん、なさい……」
勝利の目にみるみる涙がたまっていく。
俺はツカサに目配せすると席を立った。
震える勝利を抱え上げて、玄関を目指す。
「ちょっと、祐護さん!……もう!」
怒っているようなあきれているような声が聞こえたが、ツカサはきっと応えてくれると俺は確信していた。
涙ぐむ勝利を抱きかかえたまま、暗い玄関に入る。
首から提げた鍵に意識を向けた。
「開け」
『あの人』が『アガパンサスの鍵』と呼んでいたそれが、俺の胸元で左右に揺れる。
呼応するように、玄関ドアにはめ込まれた宝石が緑の光を放つ。
「きれい……!」
目を擦っていた勝利が、手を下ろして感嘆の声を上げた。
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