泣いている少年

 玄関ドアに続くを開いて、静かに泣く男の子にそっと近寄る。


(かわいそうに。ここに迷い込んだころの俺やツカサと同い年くらいか……)


 どの世界からも隔絶されたこの場所『アスタリスク』に迷い込む人間に共通しているのは、たった一つ。


 それを思うとやるせない。


「はじめまして。怖いことがあったのかな?」


 俺はしゃがんで、少年の頭をゆっくりと撫でた。


「もしもそいつが暗殺者だったらそうするんだよ……」


 ツカサは誰かが来る度にこういう冗談を言う。


「はいはい、ツカサの頭もいつかは撫でてあげるから、歓迎の準備しててね」


「……歓迎の準備したら、本当に撫でてくれよ」


 拗ねたような物言いをしたツカサが、書斎を挟んで反対側のキッチンへと消えた。


 今度こそ本当に紅茶を淹れてくれるのだろう。


「ぐすっ……」


「落ち着くまで泣いていいからね」


 俺は目の前の少年を安心させるため、視線の高さを合わせ、努めて笑顔を向けた。

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