04話.[本当に余計だね]
「これでよし……っと」
休みだからと言ってダラダラし続けるのも違うから片付けをしていた。
別に部屋を汚くしているというわけではないから三十分ぐらいで終わる、そしていま終わったということになる。
あとは柔らかいベッドに寝転んで休んでおけば幸せな時間を過ごせ、
「誰か来ちゃった……」
そう、ではなかった。
今日は母も妹もいないため仕方がなく出てみると、
「よう」
なんか大きなバッグを持った佐久間さんがいて挨拶をする。
「あ、どうしたの?」
「家出をしてきたんだ」
「え」
と、とにかく、玄関前で話し合っているのも微妙だったから上がってもらうことにした。
飲み物を渡して詳しく説明してくれるのを待つ。
これからどこに行こうとしているのかは分からないけど、知らないままだと気になって眠れなくなりそうだったからだ。
「喧嘩をしてな」
「もう、駄目じゃん」
「もっともだ」
私だって喧嘩までにはいっていないというのに。
こっちが向き合わなければ喧嘩にはならないことを知った。
とりあえず言いたいことを言わせておいて、こっちはそれを受け取るだけでなにも言わなければ暴走することもない。
まあ、そのひとつひとつが結構ダメージになったりもするけど……。
「睦の家に行こうと思ったんだけど断られてな」
「え、そうなんだ」
仲、いいのかな……?
出禁の件もあの後嘘だと分かったぐらいだし、実際のところはそうでもないのかも。
あ、それかもしくは、この前の私みたいに当日に仲直りするべきだと考えているとか……。
「別にこういうときに受け入れるのが普通とか言うつもりはないけど、あたし達の関係なんてこんな感じだから勘違いしてくれるなよ」
「うん」
「基本的にそのときにならないと分からないんだ、誘ってきたりするのも唐突だしな」
そもそもいつから一緒にいるのかが分かっていないから考えたところで意味がないか。
それに正直に言ってしまえば佐久間さんのことだけで十分というか。
所詮、友達の友達だからどうにもならないんだ。
私にはそんな遠いものを意識していられるような余裕はない。
彼女にいてもらえるように努力をすることだけがいま必要なことだった。
「だから頼む、泊まらせてほしい」
「私的にはいいんだけど、家には鬼がいてね」
「母さんと仲良くないのか?」
「うん、妹とも仲良くないよ」
家族だろうと人間だから仕方がないと片付けている。
勇気はないから泊まりたいなら、……薄情だけど自分で頑張ってもらうしかない。
普段してもらってばかりなのに本当に使えなくて申し訳ないと思っている。
母もそう外出してばかりというわけではないからお昼頃には帰ってきた。
怖いから彼女単身で向き合ってもらうことにしたんだけど、
「お姉ちゃん最低、普通ひとりで行かせないでしょ」
母と一緒に帰宅した妹にちくりと言葉で刺されてしまった。
これがあるからやっぱり外にいるのが一番なんだよなあと内でため息をつく。
が、泊まることは許可してもらえたみたいだったから気にせずにいた。
まあ、ふたりに佐久間さんを取られてしまったんだけども。
「ストレス発散装置かなにかかな?」
わざわざ嫌いな相手の顔を見に来るなんて妹も物好きだ。
リビングの扉を少しだけ開けて覗いてみたら楽しそうにやっていたから外に出た。
部屋以外の空気が嫌いだ。
なにかを言われるぐらいなら喜んで出ていく。
「あ、この前の」
同じぐらいの身長の男の子と楽しそうにお喋りしながら歩いていた。
つまり仲直りできたということだから少しだけ嬉しくなった。
頑張ったのはあの子だから誇れるようなことではないけど。
「丸山ぁあ!」
ビクッとなって声が聞こえてきた方を向いてみたらこっちに向かって走ってくる怖い存在が見えてしまった。
逃げられるような走力ではないから諦めて降参ポーズ。
「はあ、はあ、馬鹿やろう!」
「ま、待ってっ」
「待つか馬鹿やろう!」
私だったら敵地にひとり放り込まれるようなものだから気持ちはよく分かった。
でも、いればいるほどダメージを負うだけなんだから仕方がないんだ。
ただ、彼女はそれを知らないからこうして怒りたくなる気持ちもよく分かると。
「ごめん」
実際のところ、妹の指摘はもっともだった。
仮に自分で言わせるとしても近くに存在しておくのが最低限の常識みたいなもの。
私は自分が怒られることになったら嫌だからと逃げた存在だから、言われても仕方がないぐらいのことをしているわけで。
「はぁ、もういいわ」
「ありがとう」
「別にそんなの言わなくていい、あたしは泊まらせてもらう側なんだからな」
彼女からしたらいい妹といい母親らしい。
確かに母の方はそうだ、冷たくてもご飯とかを絶対に用意してくれるし。
だけど妹の方は完全に暴君だからそうとは思えなかった。
いつだって仲良くできたらいいと考えている自分だけど、さすがに自由に言われ続けている限りはそういう評価からは変わらないぞ。
なんてね、向こうが変わらないぞと言っているだろうね。
「公園は最強だなー」
静かにしているからこの場所を無くすとかやめてほしかった。
ただ、本当に寂しい場所だからどうなるのかは分からない。
ちなみに、いまではすっかり姉妹みたいに楽しそうにしている佐久間さん。
あれからきちんと言ってから出るようにしているものの、もう一切気にしてはいないみたいだった。
彼女から聞いた話では、妹は「馨さんがお姉ちゃんならいいのに」と何度も言っているらしいのでそのままあげようと思う。
いいのさ、元々仲良くもなかったんだから。
「ねえ」
「あ、どうしました?」
急に影ができたから見てみたら高身長の女の子がいた。
「あんた松崎睦って知ってる?」
「まつざき……ああ! 知っていますよ」
「そ、じゃあいまから案内して」
実はあの後松崎さんの家も本人が教えてくれたから力になれそうだった。
いやあ、しっかし隣を歩いているのも申し訳ないぐらい整っている人だ。
松崎さんはどちらかと言えば可愛い人なのと、キャラが全然違いすぎるからどういう風に繋がっているのかが気になるところで。
「はーい、お、丸山さん来てくれたんだ」
「はい。ただ、今日はこの方が松崎さんに会いたかったみたいで」
「お、そうなの?」
この反応を見るに知っているわけではないようだ。
とにかく、私はしっかり案内をしたからと帰ろうとしたらがしい! と腕を掴まれた。
で、何故か私も上がることになってしまったという……。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「あなたも」
「ありがと」
いや、やっぱり松崎さんのまとっている雰囲気は柔らかくていいなあ。
余裕がないからあれだけど、もし余裕ができたら仲良くしたいと思える存在だった。
「それであなたはどこのどなたさんなの?」
「内海
それ以外は言うつもりはないようで飲み物を飲んでいた。
松崎さんも特に気にした様子もなく「そうなんだ」と言っている。
……こういうときに必要なのは佐久間さんみたいにグイグイいける存在だ。
ツッコミ役などが存在していないと沈黙に包まれるようなそんな空間になってしまう。
「あ、そういえば聞いたよ? 馨が丸山さんのお家に泊まっているって」
「あ、はい、なんでも喧嘩をして家出をしてきたみたいで」
「珍しいこともあるものだね、確かに仲がいいとは言えないけどさ」
そういえば全く帰る気がないけど大丈夫なのだろうか?
電話が何度もかかってきているというわけではないし……。
普通はご両親が気にして帰る、という展開になりそうだけど。
「あの」
「うん?」
聞いておかなければならない。
彼女とふたりだけでいられることなんて滅多にないからいまここで。
そうしないと気になって寝る時間が遅くなってしまうから頑張るしかない。
これもあれだ、少年には頑張らせておいて自分は頑張らないなんてできないのだ。
「松崎さんと佐久間さんって仲いいんですか?」
「え、普通に仲いいけど」
「あ、そうですよねっ。あのっ、私が勝手にそういう風に考えてしまっただけなので許してください……」
ここに来たのは私だけではないから黙っておく。
これで気になっていたことを全部――ではなくても知ることができたんだから問題ない。
夜はそれはもうぐっすり寝られることだろう。
「睦でいいよ」
「え、あ、そうなんですか……?」
「うん。あ、私も光って呼んでいい?」
「は、はいっ、どうぞ!」
ふへへ、これでまた学校がもっと楽しくなるというものだ。
私の横に座って違う方を見ているこの子のおかげでいい展開になった。
やっぱり誰かのために動くと他人は見ていなくても神様は見てくれているのかも。
「ひかりって漢字そのまま?」
「あ、はい」
漢字を聞かれた際に答えやすいから実は気に入っている。
まあ大抵は聞かれないし、仮に聞かれて教えても無意味な情報になりかねないからあれだ。
「光、ちょっと違うところに行こ」
「え、あ、ちょ!?」
あー! 睦さんと仲良くなれる予定だったのに!
この子は結局なんなのだろうか?
どうしてピンポイントで睦さんの名字と名前だけを知っていたのか。
「私も名前で呼んでくれればいいわ、あと、敬語は使わないで」
「あ、そうな……そうなの?」
「うん」
怖い子ではないみたいだから従っておくことにした。
これからあの学校に通うみたいだし、友達が増えるのは悪いことではない。
いや、もし簡単に一緒にいられるような関係になれれば、ぐへへ、もっとよくなるぞ。
「あと、私が松崎を知っているのは会場で会ったことがあるからよ」
「部活関連のこと?」
「違うわ。まあ、それで終わってしまう話だから」
「教えてくれてありがとう」
少し気になることがあるとすれば、それは誰とも連絡先を交換できていないことだ。
このままではあくまで表面上だけの関係になってしまう。
やっぱり連絡先を交換してこそ、夜にやり取りをしてこそ友達だと思うから。
「あれ、そういえば前の学校でいた友達とは離れ離れ――」
「いなかったから」
「あ、そ、そうなんだ」
あまり触れない方がよさそうだったから終わりにしておいた。
今日のところはこれで解散となったから特に問題もなく終えられてよかったな。
「光ー」
「あれ、ここは嫌なんじゃなかったの?」
空を見ていたら睦さんが来てくれた。
ここを気に入ってくれたということなら嬉しい、けど、別に無理してまで来る必要はないと思っているからこれまでも彼女らしくいてほしかった。
「汚れないし別にいいかなって、それにあのときは光がいたからさ」
「あ、慣れない相手とはいづらいよね」
「そうそう、友達の友達だったからさー」
それでもいまは違うんだ。
自分も自然に話せているからいまだったら友達だと判断してもらえそうだ。
「あ、聞いてよ、馨を誘ったんだけど行きたくないって言ってきてさ」
「戻るのが少し面倒くさいから仕方がないかな」
「んーでも、光に会えるんだよ?」
「い、いや、佐久間さんはそこまで私のことを気に入ってくれているわけではないし……」
この様子だと雅美さんが同じクラスだった、ということではなさそうだ。
というか、そもそも同級生かどうかも分かっていないからどうなるのかは分からない。
ひとつ言えるのは、大丈夫だろうけど私みたいにはなってほしくないということだけ。
「あ、そういうことか」
「え?」
「私と馨が仲いいのか聞いてきたのは馨を独り占めしたいからだよね」
そんなことを考えたことは一切なかった。
私はただ、急に現れた
いや、実際のところは彼女と佐久間さんが仲いいのか、それが分からなくなってしまったからだと言える。
「んー、あの子は特定の誰かと凄く仲良くとはしない子だからなあ」
「ちょ、ちょっと待って、私はあくまで友達として仲良くしたいだけだよ?」
「え、うん、寧ろそれ以外の形があるの?」
それはまあ……うん、最近は同性同士で恋愛することだってあるみたいだし。
それこそ最初は彼女が佐久間さんのことを好いているように見えたぐらいだ。
だからこそ怒られるんじゃないかってソワソワしていたんだからね。
「あとね、凄く面倒くさ、痛い!」
「勝手なことを言うな」
「ほらあ! 正にこういうところだよ!」
サボっていたときは佐久間さんより彼女の方がしっかりしているように見えたけど、今回は残念ながらそのようには見えなかった。
「睦のそういうところこそ残念なところだな」
「でも、睦さんは話しやすいし、私にも優しくしてくれる人だから好きだよ?」
「おお! 光は分かってるねー!」
それこそ優しくして当然みたいな思考はできないし、するつもりもないけど、なかなかできることではないから本当にありがたい話だった。
例え裏で悪く言われていたとしても、いまこうして顔を合わせているときだけは明るく優しくいてくれているわけだしね。
寂しいけどそれは仕方がないことなんだと片付けられるから。
「ん……?」
「どうしたの? あっ、顔になんかついてたっ?」
もしそうならかなり恥ずかしいことをしていたことになる。
昔はご飯粒をつけたまま登校して笑われたことがあったからそのときのことを思い出して微妙な気持ちになった。
「いや、なんか違和感があってな」
「違和感?」
いまここには私と睦さんと彼女しかいない。
格好が変わっているとかそういうことでもないし、私にはなにも分からなかった。
「馨は疲れているんじゃない? さっきだって突っ伏していたわけだしさ」
「んー……」
「あ、睦さんと私が一緒にいるから――」
「それだ! なんで名前呼びになってるんだ?」
隠す意味もないからGWのときのことを説明しておく。
そうしたら睦さんが「あーあ、ふたりだけの秘密だったのにー」と言ってきたものの、私としては隠しておくことができなかったのだ。
もしそうしてしまったら嫌われてしまう可能性があったから。
「なるほどな、なんか意外だな」
「意外? 私が光といるの、そんなにおかしい?」
「おかしいわけじゃないけど、相手が丸山だからな」
ああ、そういえば確かに簡単に受け入れすぎていたか。
昔であればどうせ終わるだけだからとか考えて要求を受け入れていなかった。
それで何度チャンスをつぶしたことか……。
「ま、いまみたいな丸山の方が絶対にいいからな」
「うん、私達がいてあげれば本来の光らしくいられると思うんだ」
「だな」
本来の私、か。
誰かがいてくれようと変わらないものだと考えていた。
そんな理由で変わるのなら苦労しないだろとよく自嘲気味に笑っていた。
だけどもし、これで変われるのなら。
少しだけでも可能性があるなら私はそれを信じて動いていきたい。
「ここにいたのね」
「お、内海ちゃんじゃん」
よくここが分かったなと思って見ていたら……。
「い、一年生だったんだ」
「ん? あ、そうね」
一年生なのに私よりも大きくて、綺麗で、スタイルもいいと。
なんでここまで違うんだ……。
やっぱりしっかり食べて、しっかり寝るを実行してこなかったからか!
「そいつは誰だ?」
「内海雅美ちゃん、今日からこの高校に通うことになった子だよ」
「へえ、あたしは佐久間馨だ、よろしく」
「よろしくお願いします」
「「え」」
何故か佐久間さんにだけは敬語を使う雅美さん。
だけどすぐに少し怖いからだと判断したことで落ち着くことができた。
決して私達が先輩らしくないから、ということではないみたいだからね。
「ふたりしてアホ面で固まってどうした?」
「余計なお世話だよ、馨はそういうところが本当に余計だね……」
先輩ばかりがいるこの空間で全く気にしていない感じの一年生さんがすごかった。
私がもし向こうの立場なら涙目になっていますぐに逃げたかっただろうから。
なので、これから頑張って真似をしていこうと決めたのだった。
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