第16話
「大した事はありませんが、しばらく安静になさるといいでしょう」
「ありがとうございます」
お父様がお医者様にお礼を言うと、ルークに寄り添い泣くマリッタに近づいた。
「少し時間をくれないか」
「それは、彼女と離婚をして私と結婚してくれるという事でしょうか?」
「え?」
お父様は、驚いた顔をしている。
「違うのですか? でしたら認知するのに時間がほしいと?」
「そ、そうだ」
「なぜ?」
「なぜって、本当に私の子だという証拠を……」
「この瞳が証拠ではありませんか! それにルークを殺そうとしたあの女の罪を許すと言われるのですか!」
「こ、殺そうとなんてしておりません」
マリッタの言葉に、お母様は反論した。
「では、つい手が出たと? その子より小さいのよ?」
「ですから私は……」
お母様は、俯く。私はお母様の横に立っていたので、唇をかみしめているお母様の姿がよく見えました。ギュッと手を握りしめていて、悔しかったのだと思います。
「わかった。レーランとも話をする。それでいいか?」
「結果を聞いてからにしますわ。もし認知すらしていただけないならそれなりの行動に移します」
ルークを見つめつつマリッタはそう言った。
「レーラン、大丈夫だ」
お父様は、お母様に優しく語り掛ける。三人一緒に部屋を出てお母様の部屋に着くと、お母様は青ざめてソファーに座りとうとう泣き出しました。
「お母様……」
どうしていいかわからない私も半べそです。
「まずは、こんな事態になってすまなかった」
「どうして……こんな事に。私、何もしていないわ!」
「わかっている。君がそんな事をするとは思っていない」
お父様は、お母様をそっと抱きしめた。
「ただそうなると、ルークが自分で転んでそういう芝居をした事になる。彼女を普通に追い返してもムダだろう。彼女はたぶん、この家の妻の座を狙っている」
お母様は、こくりと頷く。
「そこでだ。君たちは、ちょっと早いが新しい屋敷に移り住んでくれ」
「え? あなたはどうするのですか?」
「彼女らとここに住む」
「何ですって!」
「監視をするんだ。わかってくれ」
「それは……」
無理だとお母様は首を横に振る。
「お金を渡せばいいじゃない」
「……あの様子だと、受け取ってもまたせびりにくるだろう。それにルークを認知すれば、あの子が次期当主になる可能性がある。私の子だとは到底思えないが、認知してしまえばそうなるからな」
「……その、絶対に何もなかったのですね?」
「………」
お母様の質問には、お父様は何も答えなかった。いえ答えられなかった。記憶がないからしていないとは言えなかったのでしょう。
「あの時逃げずに彼女に聞いていれば、その時に問題を解決できていた。何もなかったと証明できていただろう。だが今となってはそれも難しい。いや時間がかかる。あの時は、君に知れるのが恐ろしかった……」
「わかりました。あなたを信じます。でも一緒に住む必要があるでしょうか?」
「彼女は、ルークを盾に訴えると言っている。あの状況だと、君が不利だ。最低でもルークを認知させたいようだからな。君と離れて暮らすだけでは納得してくれないだろう」
子供を使ってこんな事を考えるなんて狂っている。って、私が言えたことではないかもしれませんが。
結局、まずはお母様と私が新しい屋敷に移り住む事になった。もちろん、マリッタには追い出したと告げる。それでも納得しない時は、親子関係を築いてからと言って一緒に住む。そうすればマリッタも油断するだろうと。
だけど、そうはいかなかった。
「出て行くのは、その女一人よ。レイリーは伯爵の子だわ」
その言葉にお父様もお母様も驚きを隠せない様子。だって、我が子を次期当主にと企むなら私も追い出した方がいいから。
「大丈夫よ。ちゃんと私が一緒に面倒を見てあげるわ」
「なんですって!」
こちらから提案せずとも向こうから一緒に住むと言ってきたのだった。
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