第15話

 ――それは、この手紙を書く事になる一か月前になります。

 突然マリッタが現れたのです。赤髪、ブルーの瞳のルークを連れて。


 「き、君は……」

 「覚えておいでのようですわね」


 お父様は、狼狽えておりました。その様子にお母様は不安げな様子。もちろんこの時は、普通の4歳の子供だった私は、目の前の事に理解などしておりません。


 「お姉ちゃん? 僕ルークだよ」


 そう言って私に近づいて来ました。


 「な、なんだね、君は……」

 

 とっさにお父様は私を抱き上げ、そう言ってマリッタを睨みつけると、彼女は冷たい眼差しをお父様に向けた。


 「覚えておられるのでしょう? ルークはその時に出来た子です。認知して頂きたく訪ねてきました」

 「なんですって!」

 「な、何を言う!」


 お母様もお父様もそれはもう、見た事もない顔をしておりました。


 「今更何を言いに来たかと思えば……」

 「今更? あなたが私にひどい事をしておきながら逃げたので、探すのに時間がかかったのです。こちらはあなたのせいで、まだ独り身ですのよ。認知してくださりますよね?」

 「………」


 お父様もお母様も青ざめたまま、しばらく放心しておりました。


 「その子はいくつです?」

 「4歳です」

 「なんですって!」


 お母様は質問の返信を聞き涙目に。なぜ泣きそうなのか、お父様が私を抱きしめる力が強くなったのもなぜなのかあの時はわかりませんでしたが、両親を虐める女としてマリッタは映りました。


 「あなた、彼女の言っている事は事実なのですか?」

 「そ、それは……」

 「どうしてはっきりと違うと言って下さらないのですか!」

 「落ち着いてくれ、レーラン」

 「これをどう落ち着けと? あなたは、レイリーが私のおなかにいる時に浮気をしたと言う事でしょう?」

 「それは、違う!」

 「そうね。それは違いますわね」


 お父様が否定なさるとそれをマリッタが肯定したのもだから、二人は彼女を「え?」という顔つきで振り返る。それをただ私は、ぼーせんとして見つめていたわ。今思えば、子供に聞かせる話ではないですが、そんなところではなかったのでしょう。


 「正確には、産んだ次の日ですわ」

 「「………」」


 二人ともマリッタの言葉に言葉を失っておりました。


 「私には、その時の記憶がない。目が覚めたら君がいた。だから……」

 「だから、逃げだしたとでも? 私は彼からあなたが目が覚ましたら、酔ってしまって寝たので連れてきた事を告げてくれと言われました。彼は、違う商談がありすぐに行かないといけなかったのです。それで目を覚ましたあなたにそれを告げようとすると、あなたは私にひどい事を……」


 そう言ったマリッタは、俯いて両手で顔を覆い泣き出しのです。


 「………」

 「その記憶はない。その……レーラン!?」


 突然お母様が、その場所から去って行こうしたのでお父様が呼び止めるも、マリッタがお父様の腕を取る。一瞬振り向いたお母様ですが、そのまま去って行く。お父様は、それ以上何も言えないのか追う事もできず去って行くのを見つめるだけだった。


 「うわーん。ママー」


 突然鳴き声が聞こえ、マリッタとお父様がハッとする。辺りを見渡してルークがいないとわかると、慌てて泣き声の方に駆け付けると、倒れて泣いているルークの姿が。そして、そのそばで、ぼーせんとして立ち尽くすお母様がおりました。


 「ルーク! あなた、子供に手をあげるなんて!」

 「ち、違います! 目が合ったとたん転んだのです」


 お母様は、そういうけどマリッタは信じていない様子。キッとお母様を睨みつけルークを抱き上げようとすると……。


 「ルーク!!」


 大声を上げたのです。理由は、頭から血を流していたからだった。


 「い、医者を!」


 お父様が慌ててそう執事に言う。お母様は、青ざめた顔で「違う」と呟いていた。

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