第14話

 「自分の娘に指示を出した。違う? 私を追い出すためにね」


 どうだと言わんばかりのどや顔。どうしてそういう発想になるのだろうか。

 そもそも追い出すって、居座っているのにというか、普通に母親面していたんだけどなんで??


 「あはは」


 突然、クリーチュさんが笑い出した。


 「それが証拠だと? レーランが書いたと言うのか?」

 「そ、そうよ。レイリーが隠し持っていたわ」

 「それは、レーランが書いたのではなくレイリーが書いたものだ」

 「じゃなぜ……」

 「その証拠を持ってこよう」


 証拠? どういう事?

 証拠を持ってくると言って部屋を出て行くとすぐにクリーチュさんは戻って来た。そのクリーチュさんの手には、あの黒い宝石箱。

 まさか、それに証拠が入っているの? 一体何が……。


 みんなが見守る中、カギを開け中身を取り出した。それは――封筒。


 「三年後のレイリーへ。4歳のレイリーより。こう書いてほしいとレイリーに言われ私が封筒に代筆した。本来は、勝手に読むべきではないが、事が事だったので開けて読んだ。いや読めなかった」


 封筒から出した手紙を見せてくれた。そこにはなんと日本語が書かれていた。


 「それって……」


 つい、そう口走っちゃった。


 「何か思い出したのか!」


 クリーチュさんが、私の言葉に食いつく。


 「えーと、それ見てもいい?」

 「いいとも」


 まあ三年後、私が読むはずの手紙だしね。


 ――この手紙を無事手にしているという事は、ストーリー通りにならずに親元にいるという事でしょう。一安心です。

 まずは、謝らせて下さい。巻き込んでしまってごめんなさい。それと、ちょっと騙した事もごめんなさい。

 両親がどうなっているかわかりませんが、母親と書いたマリッタは、母親ではありません。レーランという人が本当の母親です。

 言い訳になりますが、嘘を書いたのにはわけがあります。

 何もわからないあなたは、記憶喪失という事になるでしょう。だったら何も知らない方がいいと思ったのです。

 普通にマリッタが母親だと思った方が自然な状況だったでしょう?


 さて、私レイリーですが、マリッタが来た時に起きた事故により、前世の記憶がよみがえったのです。

 両親の事もあり、その世界に居たくありませんでした。一か八かにかけたのです。

 あの日は、マリッタが出かける曜日でした。そして、メアリーも少し用事があり私から離れるというので、チャンスだと思ったのです。

 この手紙を急いで書き、父親に預けました。そうすればあなたと暮らしている限り必ず渡してくれると思ったからです。

 もう一枚の紙には、両親に何があったのか書いておきました。必要なら読んで下さい。

 許して下さいとは言いません。いえ、一層の事憎んでもいいです。本当にごめんなさい――。


 なんと、わざと嘘の人物紹介を書いていたのか。

 そして、また漢字だらけ。三年経ってもここでは漢字は学べないからね。本来なら読めてないかもしれない。


 「どうだ?」


 はっとして、顔を上げればマリッタさん以外が様子を伺っていた。マリッタさんは、じろっと私を見ている。

 私は、えへへと首を傾げた。


 「ごほん。あぁそういうわけで、レーランは何もしていない。君の事は訴えさせてもらう」

 「何ですって!」

 「脅して居座り、レイリーに対してした行為、忘れたとは言わせないぞ」


 どうやら証拠固めに時間をかけていたみたいね。


 「レイリー。怖い思いをさせてごめんね」


 私の前に膝をつき、そういうとぎゅっとレーランさんは私を抱きしめた。

 脅されて娘を残しここで暮らしていたのなら辛かっただろうね。しかも夫は、浮気したかもしれないんだから。そして、事件が解決したらもとに戻ると思っていたらレイリーは記憶喪失。

 めでたしめでたしとはいかないか。はあ……。疲れるわ。

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