第13話

 もう夫婦の争いに私を巻き込まないで~。


 「きゃ」

 「いた」

 「うわぁ」


 って、突然三人が私を離した。そして代わりにルブックバシーが、私の胸を飛び込んでくる。

 ルブックバシーが、三人の手を引っ掻いてくれたみたい。


 「ありがとう。ルブックバシー」


 私は、ルブックバシーをぎゅっと抱きしめた。


 「猫……」


 驚いてぽつんとクリーチュさんが呟く。


 「みんな、嫌い!」


 涙目で、三人を睨みつけた。


 「すまなかった、レイリー。とにかく決着をつけよう。中に入ってくれ」

 「仕方ないわね」


 しぶしぶマリッタさんが承諾すると、はらはらと見守っていたメアリーさんが、応接室へと案内する。

 ソファーがあるのに誰も座らないで立ったままにらみ合い。


 「結論から言うと、離婚する気はない」


 口火を切ったのは、クリーチュさん。だけど離婚をする気はないですって! どういう事?


 「なんですって。では、あなたが私に乱暴をしたと噂が出回ってもいいと?」


 そう答えたのは驚く事にマリッタさんだ。

 ちょっと待って。彼女が妻でレーランさんが愛人じゃないの? もしかして逆?


 「嘘の噂を流すというのか?」

 「嘘ですって? その時の子がルークよ」

 「残念だがそれはあり得ない」


 クリーチュさんがそう返すと、マリッタさんの顔が引きつる。

 話が全然見えないんだけど……。


 「では誰の子だというの?」

 「クリフト・アジルダ男爵。彼の子だろう? 彼の瞳は水色だったな。私は紺」

 「瞳の色だけで判断なさるのですか? ではレイリーはどうなりますの?」


 そう返されたクリーチュさんは、深いため息を漏らした。


 「私がいいたいのは、瞳の色で私を納得させようとしていたからだ。だからまず、それを言っただけだ。ちゃんと証拠もある」

 「な、証拠ですって……」


 いや別に昼ドラの様に繰り広げてもいいんだけど、4歳児の私が見ている前でいいの?


 「お嬢様……」


 メアリーさんが横に来た。私を違う部屋に連れて行く気なのね。でも聞きたい。そう思っていたらなぜか、私の横で両ひざをつき目線を私に合わせた。


 「本来ならお見せするような場面ではありませんが、記憶がないので本当の母親が誰なのかわからないでしょう。マリッタさんは、お嬢様のお母様ではありません」


 まあ今の流れから違うのはわかったけど、じゃなぜ一緒に住んでいたのよ。


 「レーランがレイリーを産んだ次の日に、君がルークを宿したのなら計算が合わないのだよ。それが証拠だ」


 え! 本当にレーランさんが母親!? 愛人じゃなかったの? って、何やってるのよクリーチュさんは。どっちにしても、マリッタさんと一夜を共にしたって事でしょう。


 「合わないって。そんなはず……」

 「早産だったそうだな。つまり本来なら一か月遅い誕生日だ。君は、アジルダ男爵と結託し、私の妻になる計画を立てた。そして、私の子でもないルークを次期当主にしようと企て、私の屋敷に居座った」

 「ち、違うわよ。それに……」

 「君と私の間には何もなかった。あの日、新しい商談相手だったアジルダ男爵は、偽名を使い私と商談していたのだよ? 子が生まれ浮かれていた私はまんまと策にはまった。まさか、数年後に脅されるとは思わなかった。だから狼狽えたが――」


 ふん。

 突然マリッタさんが、何か紙を突き出し、クリーチュさんに見せた。

 突然なんだと、まじまじと突き出された紙をクリーチュさんは見つめる。


 「策にはめたのはその女の方よ。自分の娘に記憶喪失のふりをさせてね」


 え! なぜそうなるのよ。というか、その紙が証拠なの? あれ? ちょっとまってそれって、レイリーの置手紙じゃない。捨てずに持っていたのね。で、なぜにそれが証拠なのよ。


 「何よ。変な小細工するのね」


 レーランさんが、そんなもの知らないと言う。そりゃそうだ。


 「いいえ。知っているはずよ。これは暗号なのよね」


 と、私に振り向いて聞いて来ないでよ。そんなわけないじゃない。

 私は、知らないと首を横に振るしかなかった。

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