第12話

 「お嬢様。夕飯の支度が整いました。こちらへ。それと、だんな様からお預かりいたしまた鞄です」


 メアリーさんに起こされた。クリーチュさんは、鞄を受け取って来てくれていたので、さっそくルブックバシーが宿る『黒龍と聖剣』の本を入れる。そして、斜めがけして鞄を装着。


 「お、お嬢様……屋敷内ではその鞄は……」

 「いや!」


 全部言わせず、断固拒否。


 「……では、向かいましょう」


 それ以上言わず、メアリーさんは食堂へと案内してくれた。

 もうレーランさんは席についている。


 「レイリーが好きなモノばかりよ」


 レーランさんは、微笑んでそう言った。レイリーの好みは知らないけど、並べられている料理はおいしそう。


 「その鞄、気に入ったみたいね。でも食事の時は、置きましょうね」


 優しく言われたけど、メアリーさんのようにはいかず、隣の椅子の上に置いた。


 野菜とお肉、スープにパン。デザートまである。

 美味しいけど、ご飯が食べたいかも。


 「明日、お医者様がいらっしゃるわ。大丈夫。心配いらないわ」

 「………」


 はぁ……。別に何ともないんだけどなぁ。でも仕方がない。



 次の日、女医さんが来た。クリーチュさんも一緒。

 診察は、問診と体のチェック。この前みたいに隅から隅までではなく安心した。


 「大丈夫ですよ。体に傷はありません。記憶は、何とも言えませんが、幸いまだ幼いですので、これから普通に接していけば宜しいかと。ただ記憶が突然、大人になってからフラッシュバックする事の方がパニックになると思います」


 まあ普通はね。ショックな事だから記憶を封印したと思うだろうから。でも最初からそんなものないからその心配はいらない。


 「こちらにお引越ししてきたようですし、心機一転で新しいお友達でも作りましょう」


 私は、こくんと頷いた。


 「あの、ペットを飼うとかはどうでしょうか。よくいいと聞くのですが」

 「そうですね。怖がらないようでしたらいいかもしれません」


 レーランさんが聞くと、女医さんは頷く。

 ペット! だったらルブックバシーだわ。そうしたら隠さずずっといられる。ただどうやって、紹介するかだよね。

 そこら辺に居そうな猫じゃないから。うーん。さて、どうしましょう。


 「次回は、5歳になってからですね。毎月は必要ないと思います。もし何かありましたらお呼びください」

 「「ありがとうございます」」


 うん? 5歳になってから? え? 私まだ4歳だったの!?

 そういえば、5歳とは書いていなかった。5歳を過ぎたらと書いてあったからてっきり5歳になったものだと。まあ4歳だろうが5歳だろうが、あまり関係ないけどね。


 三人で女医さんを門まで見送りする。女医さんは、歩いて去って行くんだけど……。

 と、目の前に馬車が止まった。

 あ、女医さん。馬車の迎えが来ましたよ。


 「な、お前!」


 うん? え! 嘘。

 女医さんの迎えだと思った馬車からマリッタさんが、怖い顔つきで降りてきた。あぁ、とうとう修羅場だわ。


 「やっぱりこちらでしたのね。私との約束はどうなりましたの?」

 「………」


 マリッタさんとクリーチュさんがにらみ合う。レーランさんも怖い顔つきだ。


 「とりあえず、中へ入れ」

 「いいえ。結構です。レイリー、帰りますよ」

 「え!」


 突然、マリッタさんに手首を掴まれ引っ張られると、反対側の手をレーランさんに引っ張られた。

 いたたた。何よこれ! どっちが本当の母親でしょうってやつ!? どっちも違うから!!


 「痛い! 離して!」

 「やめないか、二人とも!」


 って、なんで二人とも手を離さないのよ。おかしいでしょう。うん? 二人とも私の母親じゃないからおかしくないのか。いや、レイリーの母親は離すべきでしょうに。


 って、クリーチュさんも加わってもう何がなんだか……。

 これ、どうやったら収まるの!


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