第11話

 うーん。トイレ……。

 うん? あれここどこ?

 あ、そうだった。今日から住むお屋敷。

 私は、ベッドから出て扉に向かう。前の部屋より広いなぁ。そうっと扉を開けて、様子を伺うと誰もいる気配はない。

 お手洗いはどこよ。とことこと歩くと話し声が聞こえてきた。男性の声も聞こえる。

 クリーチュさんとレーランさんだわ。

 ダメだと思うけど、盗み聞きする為そっと覗くと、キスしているではないか!!

 あぁ本当に愛人なのね。


 「あの女を問い詰める手配は整った」


 ぼそっとクリーチュさんが言う。


 「そう。よかった」


 すぐに修羅場がやってきそう。


 「では、一応向こうに戻る。明日、医者が来るから私もここにこよう」

 「はい。お待ちしています」


 あわわ。

 ダッシュして自分の部屋に戻った。


 『どうしたの? 幽霊でも出た?』

 「あははは。なんかもうどうにでもなれって感じ?」

 『……大丈夫?』

 「あぁ、龍の事より自分の事の方が大変じゃないかぁ!」


 龍の事なんて後回しだ。きっと噂になると思われる。5歳児じゃ何か言われる事はないだろうけど、大きくなってから嫌な思いしそう。

 ううう。日本に帰りたい。

 って、トイレ―!!


 私は、部屋を飛び出した。彷徨っているとメアリーさんに会い、無事に済んだわ。5歳児とはいえ、おもらしは恥ずかしいから。


 「旦那様がお医者様を手配してくださいました。ちゃんとしたお医者様です。……お嬢様。おそばを離れて申し訳ありませんでした」


 部屋に戻るとメアリーさんが謝罪してきた。

 一応解雇になったんだよね? というか、そういう事にして愛人の侍女になった……。


 「あっちを首になったんだから仕方がないし」

 「いえ。そのことではなく、あの日に離れた事です」


 なるほど。彼女が出かけている間にレイリーは召喚を行ったわけね。ちょうどいい機会だった。こうなったのはメアリーさんのせいじゃない。レイリーのせいよ。


 私は、首を横に振った。


 「ここは、お嬢様の為に作られた部屋です。少し予定が早まりましたが、おくつろぎください。夕食の前に湯船に浸かりますか? ご用意いたしますので少しお待ちください」


 入ると言っていないのにメアリーさんは、支度を始めるのに隣の部屋へと向かっていく。お風呂場も隣接しているのね。

 パステルピンクの部屋。レイリーが好きな色なのかしら? それともレーランさんの好み?


 うん? あれは?

 部屋を見渡していると、棚に宝石箱を見つけた。黒い宝石箱は、それこそ宝石がちりばめられ大きな白い龍が描かれている。

 ここにも龍だわ。この世界の人は龍が好きね。

 何が入っているのかしら。普通は宝石よね。

 って、開かないわ。カギがかかっている。使用人に盗まれないようにかしら? でもこれごともっていかれちゃったら意味がないような。


 カサカサ。

 振ってみると音がするも、硬い物が入っているようには聞こえない。


 「いったい、何が入っているのかしら?」

 「お嬢様、ご用意が出来ました。こちらに」

 「はい……」


 ちょっと気になるけど、言えば開けてもらえるでしょう。きっと。


 湯船には、かわいいらしい花びらが浮いている。

 夢見たバラ風呂ならぬ花風呂。いい香り。

 こっちに来ていい事なんてなかったけど、お風呂だけは良さそう。


 子供用なので小さいバスタブだけど。これロマンチックというよりほのぼのって感じのシーンよね。

 メアリーさんが、髪を洗ってくれる。頭もマッサージしてくれて、私はうたた寝してしまった。気づけば、ベッドの中。


 まあよく考えれば、誰が母親でもいいか。私の本当の母親は、日本にいるんだし。それと英雄になる人物は、特別な見た目ではないみたい。今日すれ違う人々を眺めたけど、銀の髪の人は普通にいた。どちらかというと、黒い髪がいなかった。私の方が珍しいのかもしれない。

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