第10話

 大きなお屋敷だわ。

 それを私は、ポカーンと眺めた。

 今住んでいるお屋敷より大きい。ただ王都だからお庭はない。門をくぐればすぐに玄関だ。いや日本にはない一軒家だよね。本当にでかい。まあ王都でも端の方みたいだけど。


 「待っていたわ」


 門をくぐれば女性が出来てきた。濃い紫色のストレートの髪。清楚な感じ。

 あ……。近づいてみれば、瞳は灰色だ。

 彼女は、笑顔で迎い入れてくれた。

 その彼女に、クリーチュさんは何かを耳打ちすると驚きの表情になる。


 「なんて事……」


 泣きそうなんだけど……。

 どうしたらいいんだと、私はクリーチュさんを見ればなぜか頭を撫でられた。


 「今日から彼女をお母さんだと思って過ごすといい」

 「え……」


 どういう事?


 「私は、レーラン。あなたに会った事があるのだけど思い出せるかしら?」


 私は、首をフルフルと横に振った。すると、悲し気な顔になる。


 「レーラン。大丈夫だ。とにかく中に入ろう」

 「はい」


 屋敷に入ると、メアリーさんがいるではないか。


 「お嬢様……」


 ちょっと困り顔。


 「メアリーお茶をお願いね」

 「はい」


 私たちは、部屋に入るとソファーに腰かけた。私の右隣にレーランさん。その隣にクリーチュさんが座った。


 「一息ついたら医者の手配をしてくる」

 「はい……」

 「大丈夫だ。後少し我慢してくれ」

 「はい。私は、あなたを信じております」


 って、この二人は何を横でやっているのだ。見ちゃいけないものを見てしまった。

 妻がいるのにクリーチュさんは、レーランさんを抱きしめている。まさかの愛人か。

 あの意地悪マリッタさんを追い出し、彼女と結婚するつもりかもしれない。もしかしてマリッタさんが意地悪するのも愛人がいる事を知っていて、私に八つ当たりしているのかも。

 というか、記憶がないからと言って、隣でいちゃつくな~!


 クリーチュさんは、紅茶を飲んで一息つくと名残惜しそうに出て行った。

 はぁ……。なんか気疲れしたよ。


 その後私は、部屋に案内されたんだけど驚いた。もうすでに私の部屋が存在していたのだ。本当に彼女に乗り換えるつもりらしい。先にこの屋敷に住まわせているんだわ。

 どこが抜けている人なのか。ちゃっかりしているではないか。


 「ここは、あなたの部屋よ。ところでその本は? ずいぶん大切そうに手にしているけど」


 レーランさんは、私が抱きしめている本をジッと見て聞いてきた。


 「………」


 マリッタさんも好きじゃないけど、レーランさんも……優しく接してくれるけど。


 「その本、読んであげましょうか?」


 にっこり微笑んで言うけど、まず無理でしょう。

 私は、首を横に振る。


 「そう……」

 「……寝る」

 「え? そうね。疲れたわね。メアリーよろしくね」

 「はい。奥様・・


 もうすでに、奥様って呼ばせてるの!?


 寝間着に着替えさせてもらって、本を握りしめ布団の中にもぐる。


 「おやすみなさいませ。お嬢様」


 メアリーも出て行った。

 はあ……。レイリーはこの事を知っていたのかしら? 知っていたかもね。会った事があるって言っていたし。まさか愛人まで人物リストには書かないか。


 「それにしても衝撃だわ」

 『衝撃?』

 「うわぁ。びっくりした」

 『そんなに驚かなくても』

 「ごめん。なんかいっぱいいっぱいで。これからどうなっちゃうんだろう。きっと修羅場だよね……」

 『修羅場?』

 「なんでもない」


 ずっとあの部屋にいたルブックバシーがレーランさんを知っているわけもないし。メアリーに後で聞いたら教えてくれるだろうか。

 大人の事情とかで教えてくれないか……。

 ここに来るまでの嬉しさが、吹き飛んじゃったよ。

 私は、ルブックバシーを抱きしめる。あぁ癒される。今私は5歳。そう難しい事は考えない。わからないフリをすればいいだけ。

 信じられるのは、ルブックバシーだけだわ。よかった。出会えて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る