第9話
私は、本をテーブルの上に置いた。
「うむ。それ気に入ったのかい?」
クリーチュさんに問われ、はいと頷く。
「そうか。でも読めないであろう」
「………」
それが読めちゃうんだなぁ。私は、にへらっと返した。
「そうだ。今日は、レイリーを連れて出かける」
「まあ、どちらへ? 昨日あんな事があったのですから家でゆっくりやすまれた方が宜しいのでは……」
「問題ない。一応、医者にも見せる」
じろっと見ながらクリーチュさんが答え、それならとマリッタさんが頷く。
しかし、こんなに仲が悪そうなのによく二人も子供を産んだわね。貴族の世界って大変なのね。なんとなく、レイリーが逃げたくなった気持ちがわかるわ。
朝食を終えた後、クリーチュさんに連れられて馬車で出かけた。その時も本を持っていくと――。
「よほどその本が気に入ったようだな。それを入れる鞄を買おうか?」
「え? 本当?」
実は、地味に手がだるくなっていた。
私が嬉しそうにすると、クリーチュさんも嬉しそうに微笑んだ。
2時間ほど経つと景色は、少し変わった。大きな建物ばかりの街についたみたい。住んでいる街もそれなりに大きいと思うけど、ここってもしかして王都かも。遠くにお城が見える。
「あの城は、リピリノア王国城。そしてここが王都、ロモノーク」
私が、窓にかじりついて城を眺めていたからか、クリーチュさんは教えてくれた。
ここは、リピリノア王国っていうのか。聞いた事がないから本はやっぱり読んだことはなさそうね。
それにしても本当に異世界なのね。街を歩く人々の髪がカラフルな事。
「ちょっと寄り道して鞄を買っていこう」
「ありがとう!」
やったぁ。
って鞄一つ買うのにすごく高そうな店に入るの? 子供の本を入れる鞄だよ?
そう思ってもただ黙ってついて行く。もしかしたらこれが普通なのかもしれないし。
「これは、イヤーレッド伯爵。今日はどのようなものをお探しで」
伯爵!? 結構位が高いのでは……。お金で苦労はしなさそうだけど、教育面では大変そう。
「この子が今持っている本を入れられる鞄がほしい」
「何色が好きかな?」
「………」
どうしたらいいかわからず、クリーチュさんの後ろに隠れた。レイリーの好きな色なんて知らないし。
「すまない。人見知りなんだ。色は何でもいいが、一点もの鞄をお願いする」
「かしこまりました」
一点もの! それって高いんじゃないの? 別にありふれた鞄でいいのに。
「こちらはどうでしょう。このふたの裏に名前を入れられます。生地は頑丈な割に軽い素材です」
ピンクのパステルカラーの肩掛け鞄。ぱたんとふたを被せるタイプ。そのふたの下の中央には、白い龍がステッチされている。
ここにも龍だよ。
「ではそれにしょう。名前を入れるのに時間はどれくらいかかる?」
「今日中にはできます」
「では後でとりにこよう。いくらだ」
値段を知らないで注文しないでよ……。
「一万ラムでございます」
「意外と安いな。そうだ帽子などあるか」
「ございます。こちらです」
一万ラムの価値がわからないけど、たぶん高い。ちらっと横にあった商品の値段をみると1,000ラムもしないんだけど。
結局あーだこーだと、1時間以上店にいた。
帽子は、かぶって行く事になり、鏡の前でかぶせてもらう。
「いかがですか。お嬢様」
「………」
髪より黒い帽子? たしかこれってキャペリンっていうんだっけ。つばが広くて、やや下むきに広がっている。鞄と同じ淡いピンクのリボンがついていてかわいい。
私が微笑むと、二人も満足そうに微笑んだ。
「では、両方で11万ラムになります」
11万ですとー!! 帽子たか! たがが帽子。されど帽子。ブランド品なんだろうか……。
「レイリー。外に出かける時は必ずかぶりなさい。いいね」
私は、わかったと頷いた。
風に飛ばされないようにしないと。なにせ鞄の10倍だ。
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