第8話

 龍は、人々に愛されこの世界を見守り、ずっと邪気を浄化してくれていた。それは愛され感謝される事によって力が増す。

 だが龍が邪気を浄化してくれる事が当たり前になり、感謝の気持ちが薄れていき、邪気を浄化する力が衰えると世界が荒れ始めた。

 そして、龍が邪気に包まれてしまう。

 神は、それを払う為の道具を人間に与えた。それは聖剣と呼ばれ、人間の代表が龍の邪気を払う事が出来るが、人間が龍に感謝をしなければ効果が薄い。

 勇者は、世界中の人間に言った。

 「龍に感謝を捧げよ」

 世界中の人が、祈りを捧げる。愛しています。どうか見捨てないでくださいと――。


 な、なんだこれは……ずいぶん都合がいい人間たち。って私も人間だけどさ。


 寝転がりながら『黒龍と聖剣』を読んでいた。

 ううう。面白くもなんともない。わかってる。別にこれファンタジー小説とかではなくて、この世界の神話みたいなものを記した本だって事は。

 でも私、あまり小説って読んだ事なかったから……はぁ。

 まあ挿絵があるのが救いかな。文字だけならここでパタンと閉じていたかも。


 挿絵は、白い龍に黒い霧の様なモノが巻き付いている図。

 うん? あれ? 黒龍じゃないんだ。

 ……もしかして、諸説が色々あってそれが書かれているのだろうか。


 「無理……」

 『眠いなら寝たら』

 「うん……」


 ルブックバシーを抱きしめたら一気に眠気が襲ってきた。あぁ本閉じてないけどいいか。



 私は、久しぶりに夢を見た。どうせなら幸せになれる、ううん、せめて元気になれる夢を見たかった――。

 本当の両親が5歳の私と一緒に楽しそうに食事をしている。でもその5歳の私は、おかっぱではない。胸まである長い髪。

 その子は、私ではないわ。入れ替わったレイリーよ!

 お父さん、お母さん。私はここよ!

 お願い! 私に気が付いて!

 でもその声は届かない。


 「無駄よ。聞こえるわけがないわ。だってあなたは、違う世界にいるじゃない」


 レイリーがにっこり微笑んでそう言った。そして、龍をお願いねと――。


 なぜ私が、あなたの身代わりをしなくてはいけないのよ!

 そこで目が覚めた。最悪な気分。

 やっぱりレイリーの部屋。全部夢だったらどれだけよかったか。


 「失礼します。お嬢様。朝でございます。着替えて朝食を食べましょう」


 アンナさんが、ベッドに近づいてきた。そして、本をぱたんと閉じサイドテーブルに置く。


 「昨日持ってきた絵本を後で読んで差し上げます」


 え? 急になに?

 私を着替えさせながらアンナさんが言った。


 「まだ字が読めなかったのを忘れておりました」


 なんですとー!

 レイリーってこっちの字をまだ読み書きできなかったの?

 そういえば、絵本はまったく見ていないから置きっぱなしだったわ。それでそう思ったのかも。『黒龍と聖剣』の本も挿絵のところが開いたままだったし。


 朝食は、部屋ではなくて専用の部屋に行くみたい。


 「それは、置いていかれた方がよろしかと思いますが」


 私が大切に抱きしめている『黒龍と聖剣』の本の事だろうけど。聞こえないふりをする。もし私がいない間に、持っていかれたら困るからね。

 その態度に、ため息をつくアンナさん。


 「失礼します。レイリーお嬢様をお連れしました」


 テーブルを囲んで……ではなく、なぜか全員が背を向けて座っていた。窓の景色を眺める感じで。両親の間に赤い髪の子が座っている。あの子が弟なのかな?


 「あ、レイリーお姉ちゃん」


 振り返りにっこり微笑む瞳は、透明感のあるブルー。

 弟のルークは、両親の色を受け継いでいるではないか。なぜレイリーは、髪も瞳も黒なのか……。


 私は、クリーチュさんの右隣に座らされた。

 クリーチュさんがルークを見る顔は、にっこりとしていて笑顔。昨日、マリッタさんに向けていた顔つきとは全然違う。

 そして、その笑顔を私にも向けてきた。

 とりあえずは、父親であるクリーチュさんには好かれているみたいで一安心ね。

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