第8話
龍は、人々に愛されこの世界を見守り、ずっと邪気を浄化してくれていた。それは愛され感謝される事によって力が増す。
だが龍が邪気を浄化してくれる事が当たり前になり、感謝の気持ちが薄れていき、邪気を浄化する力が衰えると世界が荒れ始めた。
そして、龍が邪気に包まれてしまう。
神は、それを払う為の道具を人間に与えた。それは聖剣と呼ばれ、人間の代表が龍の邪気を払う事が出来るが、人間が龍に感謝をしなければ効果が薄い。
勇者は、世界中の人間に言った。
「龍に感謝を捧げよ」
世界中の人が、祈りを捧げる。愛しています。どうか見捨てないでくださいと――。
な、なんだこれは……ずいぶん都合がいい人間たち。って私も人間だけどさ。
寝転がりながら『黒龍と聖剣』を読んでいた。
ううう。面白くもなんともない。わかってる。別にこれファンタジー小説とかではなくて、この世界の神話みたいなものを記した本だって事は。
でも私、あまり小説って読んだ事なかったから……はぁ。
まあ挿絵があるのが救いかな。文字だけならここでパタンと閉じていたかも。
挿絵は、白い龍に黒い霧の様なモノが巻き付いている図。
うん? あれ? 黒龍じゃないんだ。
……もしかして、諸説が色々あってそれが書かれているのだろうか。
「無理……」
『眠いなら寝たら』
「うん……」
ルブックバシーを抱きしめたら一気に眠気が襲ってきた。あぁ本閉じてないけどいいか。
◇
私は、久しぶりに夢を見た。どうせなら幸せになれる、ううん、せめて元気になれる夢を見たかった――。
本当の両親が5歳の私と一緒に楽しそうに食事をしている。でもその5歳の私は、おかっぱではない。胸まである長い髪。
その子は、私ではないわ。入れ替わったレイリーよ!
お父さん、お母さん。私はここよ!
お願い! 私に気が付いて!
でもその声は届かない。
「無駄よ。聞こえるわけがないわ。だってあなたは、違う世界にいるじゃない」
レイリーがにっこり微笑んでそう言った。そして、龍をお願いねと――。
なぜ私が、あなたの身代わりをしなくてはいけないのよ!
そこで目が覚めた。最悪な気分。
やっぱりレイリーの部屋。全部夢だったらどれだけよかったか。
「失礼します。お嬢様。朝でございます。着替えて朝食を食べましょう」
アンナさんが、ベッドに近づいてきた。そして、本をぱたんと閉じサイドテーブルに置く。
「昨日持ってきた絵本を後で読んで差し上げます」
え? 急になに?
私を着替えさせながらアンナさんが言った。
「まだ字が読めなかったのを忘れておりました」
なんですとー!
レイリーってこっちの字をまだ読み書きできなかったの?
そういえば、絵本はまったく見ていないから置きっぱなしだったわ。それでそう思ったのかも。『黒龍と聖剣』の本も挿絵のところが開いたままだったし。
朝食は、部屋ではなくて専用の部屋に行くみたい。
「それは、置いていかれた方がよろしかと思いますが」
私が大切に抱きしめている『黒龍と聖剣』の本の事だろうけど。聞こえないふりをする。もし私がいない間に、持っていかれたら困るからね。
その態度に、ため息をつくアンナさん。
「失礼します。レイリーお嬢様をお連れしました」
テーブルを囲んで……ではなく、なぜか全員が背を向けて座っていた。窓の景色を眺める感じで。両親の間に赤い髪の子が座っている。あの子が弟なのかな?
「あ、レイリーお姉ちゃん」
振り返りにっこり微笑む瞳は、透明感のあるブルー。
弟のルークは、両親の色を受け継いでいるではないか。なぜ
私は、クリーチュさんの右隣に座らされた。
クリーチュさんがルークを見る顔は、にっこりとしていて笑顔。昨日、マリッタさんに向けていた顔つきとは全然違う。
そして、その笑顔を私にも向けてきた。
とりあえずは、父親であるクリーチュさんには好かれているみたいで一安心ね。
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