第7話

 『その話が本当なら、その小説は破滅する世界って事よね』


 ぽつりとルブックバシーが言う。そうだと私は頷いた。レイリーの手紙にもそう書いてあった。いったいどんなジャンルの本なのだろうか。タイトルからすると、ファンタジーのようだけど。


 『彼女は、それを回避する為にこの世界を出たのかしら』

 「うーん。話を知っているなら言われた通りに交換召喚しなければいいだけだと思うけど、ただ母親にひどい目に遭わされていたみたいだし、その交換召喚を持っているせいで恐れられたとも書いてあったし、ここに居たくなかったのかもね」


 だからといって、私と交代しなくてもいいと思う。


 『ところでなぜ龍を交換召喚する事になったのかしら?』

 「なぜ? 理由までは書いてなかったけど、召喚された代わりの龍を倒して英雄になったらしいけど……」

 『あり得ないわ』


 ですよねぇ。何せ平和の象徴なんだから。それがなくなったら平和ではなくなるという事。それなのになぜ?


 『それ、本当にこの世界の事なのかしら?』

 「私も疑問に思う。レイリーが残した手紙があれば見せたんだけど、ベッドに置いておいたから回収されちゃったみたい。もうきっと、捨てられていると思うわ。少しは手がかりになったと思うんだけど。ごめんね」

 『そう。だったら仕方がないわ。それにクリスリンのせいでもないわ。ただ問題なのは、龍を倒さなくてはいけない状況になるのかもしれないって事よね』

 「そんな事があるの?」

 『ないと思うわ。でも本に手がかりがあるかもしれないから読んでみて。私が説明してもいいけど、どうせ暇でしょう』

 「そうね。読むわ。龍の事を知りたいから」


 とんとんとん。

 読もうと思ったら扉がノックされ、侍女が部屋に入って来る。


 「夕飯のお時間です。ここでお食事なさいますか? それとも……」

 「ここで……」


 侍女は、それではと出て行く。

 そういえば、メアリーさんを見かけない。私の侍女のはずよね? なぜ?


 「失礼します」


 侍女は、テーブルに食事を並べている。


 「あの……えっと、茶色い髪の人は? 私を見つけてくれた人」

 「メアリーですか?」


 私はそうだと頷いた。


 「彼女は辞めました」

 「え!」


 辞めたってなぜ? あ、私専属なのに私が行方をくらまして大変な事になったかだわ。記憶喪失だもんね。彼女に悪い事をしたかも。でも仕方がなかった。


 「気になさらないでください。しばらくは、私がお嬢様のお世話を致します。アンナです」

 「………」


 この人、マリッタさんの言いなりの侍女じゃない。というか、普通はそうなのかな?


 「さあ、どうぞ」


 私は、本をテーブルに置いて食事を始める。

 アンナさんは、傍に控えていて、いやジッと私を観察している感じ。気にしない。気にしない。

 ふと、アンナさんが近づいてきた。なんだろうと思ったら本を凝視して、青ざめている。

 気が付いちゃったのね。子供向けじゃないどころか、一般人向けでもない事を。


 「これ、読めないですよね? 読めそうなのに交換して……」

 「ダメ! これ気に入ったの!」


 慌てて本を手に取る。これを戻されたらルブックバシーも向こうに戻ってしまう。

 私は、両手で本を抱きしめ、ベッドへと向かった。


 「わ、わかりました。取り上げる事は致しません。どうそ、お食事を」


 よかった。これは食事が終わったら読むことにしよう。

 そのまま、ベッドに本を置き、テーブルへと戻る。


 「後で、他の本もお持ち致します」


 食事が終わり下げる時にアンナさんはそう言って出て行った。そしてしばらくすると、『黒龍と聖剣』と見た目が似たような本を持ってきた。それは絵本のようで、もちろん薄い。『龍の加護』というタイトルだった。きっとこの世界の本は、龍が付くタイトルが多いのだろうなぁ。

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