第17話

 「そんな事、出来るわけないでしょう!」


 優しいお母さまが、マリッタを睨みつけた。

 私は、お母様のそんな形相を始めてみて、怖くなり泣き出してしまったのです。


 「レイリー大丈夫よ」


 お母様は、私を優しく抱きしめた。


 「あらだったら離婚して、親権を奪い合えばいいじゃない」

 「え……」

 「はぁ。わかった。レーランだけ出てってもらおう。それでいいな?」


 ため息交じりでお父様がそう言うと、お母様が泣き出してしまう。


 「いや! 私、お母様と一緒がいい!」

 「レイリー。今から私があなたの母親なのよ」


 私の前に立ちにっこり微笑むマリッタに私は恐怖した。

 そして、めそめそ泣く私を置いて、お母様は出て行ってしまったのです。

 マリッタは、本当に屋敷にルークと侍女を連れて移り住んだ。


 「お姉ちゃん」


 ルークは、次の日私の部屋へ一人でやって来た。私は、プイっとそっぽを向いて部屋を出ると、ルークもとことことついて来る。

 私としては、お母様を追い出した女の子供としか映っておらず、一緒に遊ぶ気にはならなかったのです。

 だけどどこへでもついて来る。


 「待ってよ」


 ルークがなぜか階段で私を追い越そうとした時、そのルークの足にひっかり数段落ちたのです。

 2,3段だと思うのですが、とっさに掴んだのが手すりではなくルークだった為、二人とも転げ落ちてしまった。まあ数段なので、怪我はする事はなくすんだのですが。

 ただ、その時に頭を打ったらしく前世の記憶を思い出したのです。もちろん、小説の中だとは、すぐには気が付きませんでしたが……。


 「おい、大丈夫か!?」

 「………」

 「うわーん! 痛いよ~」


 うん? あ、ルークか……。

 前世を思い出していたので、フリーズしていた私はルークの鳴き声で覚醒した。

 でもさっき、泣く前に声を掛けられたような……。

 直ぐにマリッタが現れ二人で階段から落ちたと聞き、一緒にお医者様に見て頂いたのです。

 お父様は、マリッタの指示ではないかと怪しんだ。けど、4歳児がするのには手が込んでいる為、否定されるとそれ以上追及できなかったのです。


 前世を思い出した私は、こっそりと証拠集めをしようとしたのですがマリッタに目をつけられ、お仕置きだと閉じ込められたりもしました。

 そんな時、この世界が小説の中だと気が付いたのです。龍がいる世界。リピリノア王国で、黒髪・黒い瞳のレイリー。

 証拠があるわけではない。でもそうだとしたら、もう少しすれば私はここから連れ去れる。確認しなくては!


 確認の方法は、交換召喚を使ってみる。後はご存じの通り、試してみて成功したのです。(たぶんあなたが読んでいるので)

 自分でも驚く事に、魔法陣が頭に浮かんでいたからそれがそうだと思っていました。

 そんなところですわ。

 知っていても避ける方法がこれしか思いつきませんでした。ごめんなさい――。



 クリーチュさんに託された手紙には、出来事がつづられていて一応把握はしたもののため息しか出なかった。

 知ったところで私にはどうする事も出来なかったから。

 地球に帰るのを諦め、レイリーとしてこの世界で生きていく覚悟をする事しかなかったのだった。


 ――それから二月ほど時は流れて5歳の誕生日が訪れお祝いしてもらい、もしかしたら訪れるXデーに震えながら生活していると、いつのまにか6歳の誕生日を迎えていた。

 6歳になったからきっと大丈夫だろうと安堵する。それに、レイリーに弟が生まれた。これでマリッタのつけ入る隙がなくなったはず。正真正銘の子供なのだから。

 これで怯える要素はなくなった。

 私には、ルブックバシーという強い味方がいる。地球が恋しい時は、彼女を抱きしめて寝るのだった――。

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