第5話
私は、ルブックバシーが宿る『黒龍と聖剣』の本を手に取り見つめていた。
うーん。何か忘れているような。
バン!
突然扉が開き、部屋の中に光が差し込んだ。目を細めて扉を見ると、マリッタさんと侍女が立っている。
「出ていいわよ」
「………」
もう出してくれるんだ。1時間も経ってないけど。
驚いていると、連れられて来た時と同じように侍女に手を取られる。
ルブックバシーはいつの間にか消えていて、私はルブックバシーが宿る『黒龍と聖剣』の本を手にしたままで、部屋から引っ張り出され自室に連れ戻された。
何か焦っているみたいだけど、なんだろう。
「さっさと着替えさせて。到着してしまうわ」
「はい」
侍女がマリッタさんの指示に頷くと、本を取り上げテーブルの上に置く。
「汚れてしまったので着替えましょう」
「………」
お父さんが帰って来るのかしらね。もしかして、お仕置きはお父さんには内緒なのかもしれない。
汚れた寝間着から綺麗な寝間着に着替えさせられた。
どこかに連れていかれるのかと思ったけど、ベッドに寝るように言われベッドにもぐりこむ。
やっぱりあの紙はなくなっているわ。
読めないとは思うけど、異国の字だとは思うわよね。疑われたりしないだろうか。ルブックバシーには一発でバレたけど。精霊だからかな。
トントントン。
「入るぞ」
男性の声だ。
部屋に居た侍女が慌てて頭を下げる。
「おかえりなさいませ。だんな様」
やっぱりレイリーのお父さんだわ。
レイリーのお父さんクリーチュさんは、想像と違って青空の様な髪色に紺の瞳だった。両親の色をまったく受け継いでいないのね。そういうもんなのかな?
クリーチュさんは、チラッと侍女を見るもそのまま私に向かって来る。その後ろを私を睨みつけるように見つめるマリッタさんもいた。
きっと何も話すなって事なんだろう。
「大丈夫かい?」
「………」
どうしたらいいんだろう。とりあえずは、布団でもかぶっちゃえ。
「あなた、この子は記憶喪失らしいのです」
「なんだと! なぜそうなったのだ。いなくなったと聞いたがそれは聞いてない」
「すみません。お忙しいと思い帰って来てから詳細を話そうと……お医者様のお話ですと、精神的な何かがあったのではないかと。服も違っていましたし……かどわかされて何かをされ……」
「滅多な事を言うな! まさか……」
ちょっと。何を言い出すのよ。ちゃんと隅々まで確認したでしょうが! というか、今5歳なんだけど。
「また、私を疑いなのですか? あの服を……」
「はい、奥様」
何だろうとそっと覗くと、険しい顔つきでクリーチュさんはマリッタさんを見ていた。二人の仲はあまりよくなさそう。
それにまた疑うって何? そういえば私を見つめながらもそんな事を言っていたわよね。
侍女が持ってきたのは、召喚されてた時に来ていた私のパジャマだ。白とピンクとストライプ。前にボタンが付いている普通のシンプルなパジャマ。
「この辺りでは見ない生地に作りです。しかもズボン……」
「こんなものを着ていたというのか」
「はい。私がこれを手に入れ着せたとでも?」
「………」
うわぁ。やっぱり向こうの世界の服装は変なのね。というか、それを着ていた事がマリッタさんが関わっていない証拠になるとはね。まあ関わってないみたいだけど。
「はぁ……。もういい。わかった。うん? これはどうした?」
なぜか私が持ってきた本に目を留め、不思議そうに言った。
「そ、それは。お嬢様に元気になってもらおうと倉庫からお持ちしました」
とっさに侍女がそう嘘を言うと、ふむとクリーチュさんは頷いた。
マリッタさんが、にっこりと侍女に微笑む。侍女を褒めたんだろう。
いったいこの夫婦はどういう事になっているの。どうせならそこら辺の解説を書いて残してほしかったよ。
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