第4話

 「ごめんなさい」


 ドンドンドン。

 ありったけの力で扉を叩いて謝った。何に対してと聞かれてもわからない。けどお仕置きなんだから、何か悪い事をしたのかもしれない。彼女が。


 「開けてってばぁ! ううう……」


 怖いよう。なんで私がこんな目に遭わないといけないのよ。

 手が痛い。これ現実だわ。

 もう家にも帰れない……。


 「うわぁ~ん」


 私は、堰を切ったように泣き出した。

 理不尽すぎる。レイリーは身勝手だわ。小説通りにしない為とはいえ、もっと違う方法があったでしょうに!


 「……どうしたらいいの」

 『大丈夫? ここの主人が帰って来る頃には出してもらえるわ』

 「ひ~」

 『あ、もしかして。私に恐れているの?』


 何この幽霊。なんかおっとりしている? 怖い系じゃなさそう。


 「主人ってお父さんって事?」

 『そう。あなたとそっくりの外見のね』

 「え!」


 私たちが入れ替わっているのを知っている?

 もしかしてそっくりだと思ったけど、やっぱり見る人が見れば、わかるって事?


 『そうね。私の姿が見えた方が怖くないかしら?』


 え……見た目がグロかったらやばいんですけど。


 『うーん。あなたお名前は? 私はルブックバシーよ』

 「私は、栗栖凛……」

 『クリスリン。私と契約しましょう。聞こえるなら出来ると思うの』

 「あ、名前は……うん? 契約? あなた幽霊じゃないの?」

 『幽霊? うふふ。それで怖がっていたのね。私は本の精霊よ』

 「精霊! よかったぁ。する! 契約するわ!」


 うん? うっすらと周りが見えるようになった。なんで?

 そして、目の前にはふわっふわの猫ちゃんが。

 猫にしてはちょっと大きくて、耳と顔正面それに足の先が茶色っぽくあとは真っ白。毛が長くてふわっふわ。まるでラグドールだ。


 「きゃー! かわいい」

 『よかった。元気が出たみたいね』

 「ねぇ精霊って猫の姿なの?」

 『いいえ。あなたが一番安心できる姿を取ったのよ』

 「もしかして記憶を見たとか?」

 『うーん。好きという感情かしら? さあ思う存分抱っこして』

 「うん!」


 私は、さっきまでの恐怖を忘れてルブックバシーを抱っこした。

 5歳児にはちょっと大きいけど大満足。それに安心する。


 「ありがとう。落ち着いたわ」

 『どういたしまして。ここは、倉庫にされている部屋でほとんど掃除をされていない場所なの。でもそうね。本もあるからそれで時間を潰したらどうかしら?』

 「本……」


 読めるのかな? 言葉はわかるみたいだけど。


 「いやそれより、暗くて読めないのでは?」

 『大丈夫よ。本なら暗闇でも読めるわよ。私と契約したからね』

 「さすがね。なんでもありなんだ」


 私は、ルブックバシーを抱っこしたまま立ち上がり、部屋の中へと歩みを進めた。


 『何でもではないわ。私は、ここに縛られているの』

 「縛られているとは?」

 『私が宿った本があってね、それがここにあるからなの』

 「どれ?」

 『あれよ』


 ルブックバシーがあれよと言うと、奥の方で薄っすらと光り輝く。近づけば本。タイトルは『黒龍と聖剣』。


 ここって確か本の中なのよね? 何だっけタイトル。これと似たようなタイトルだったような。うん?


 「あれ? 手紙がない!」


 そうだ。突然マリッタさんが現れたからベッドの上に置いてきちゃった……。やばい。見つかってるかも。


 『手紙?』

 「うん。まあもう必要ないけど。でも本のタイトルぐらいは知りたいかな」

 『本? 世界にある本でタイトルぐらいならわかるわよ』

 「すご。さすが本の精霊。えーと確か黒龍と英雄だったかな?」

 『ないわね』

 「ない!? じゃこの世界には存在しないって事か。うーん」


 それともタイトルが違う? 何とか龍と英雄だったと思ったんだけどなぁ。

 今更だけど、レイリーは母親から逃れたかったのかもしれない。

 私は、ルブックバシーの声が聞こえて一人じゃないけど、彼女は一人独りだったに違いないわ。


 「ありがとう」


私は、ルブックバシーをぎゅっと抱きしめた。

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