第17話 ホームズ、推理しろ

 二人でたくさん話した。もちろん小説のことだ。

 ただ残念なことに、この頃は病気がひどくなり始めた頃なので記憶がない。

 ただ記録がある。何について話していたのか、推測しよう。


 二人で話していた小説のタイトルは『センセイとボク』だ。


 どうやら「ご近所さんが殺人鬼だったら」というような話を書こうとしていたらしい。登場人物設定があって、それは女子高生ながらにバラバラ殺人を起こした恐ろしい子だ。その子はずっと主人公の日常に潜んでいて、主人公にとっても親しい存在だった。しかし主人公は葛藤の末その子の犯行を推理する。しかしその子の裏には、「センセイ」と呼ばれる黒幕がいて……? 


 この「センセイ」が何者かは全く分からない。ただ設定上は、「女子高生が犯行声明を出す」そして「その犯行声明文に明らかに続きがあるのにマスコミが公開しない」さらに「主人公たちが犯行声明文の下書きを見つけ(筆跡をごまかすためにパソコンで書いたのか手書きで意味不明な文字を書いたのかは分からないが)、『センセイ』という黒幕がいることに気づいたところで『センセイ』が主人公たちの背後に立ち尽くしている」ことまで決まっている。


 設定は細かくて、登場人物設定はもちろん、主人公たちの通う高校、高校の部活や委員会やクラス編成、そして高校のある街の地図、様々な小道具が作られていた。


 こういう細々した設定を作るのが好きなのは僕なので、おそらく僕が作ったのだろう。ただ「犯人Aがいてその裏に犯人Bがいる」というような流れは明らかに将吾が好きそうなものだ。


 残念なことにトリックの詳細がない。多分将吾が持っているのだろう。ストーリーラインは大まかなところ「バラバラ殺人の死体がとある高校で見つかる」「高校が休校になる」「被害者の知り合いだった主人公たちが主人公たちなりに気持ちの整理をつけるために動き出す」「犯人が次々に犯行声明文を出す」「(何らかの推理を経て)犯人の女子高生を見つけ出す」「犯人を警察に明け渡して事件解決と思いきや……」


 この「センセイ」には何か秘密があったらしい。登場人物設定の一番下の行に「ブルーバード」と書かれている。これが何を示すか全く分からない。


『センセイとボク』は未完のままお蔵入りとなった。何でかは分からない。病気のせいで記憶がないのだ。ただ、その直後に……ファイルの作成日付が近い……作られた物語がある。


 それが『ホームズ、推理しろ』だ。

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