第11話 再会

 それから酒浸りになった。酩酊状態で大学の一限目の講義を受けに行ったこともある。ダーツバーでダーツをしようとしたら手が震えて、近くにあったウィスキーを飲んだら震えが止まった、なんてことも経験した。飲んでいないと不安だったし、飲んでも罪悪感で狂いそうになった。


 この頃の僕は本当に最悪で、授業態度を指摘してきたドイツ語の先生と口論して落第ギリギリのD判定を食らったり……テストの点数的にEにはできなかったらしい。先生はひどく悔しがっていた……心理学基礎の統計学の授業ではテスト当日に関数電卓を二度忘れて、その二度目の失敗では持っている限りの数列と順列の知識を使って筆算でテストを受けたり、まぁとにかく散々だった。


 それでも小説の方は何となく続けていて、フロンティア新人文学賞では三次選考まで進んだし、このミステリーがすごい! 新人賞でも三次選考まで進んだし、小説現代長編新人賞でも二次選考まで進んだし、要するに応募した文学賞全てで二次選考以上にまで進んだわけで、まぁ、今僕が入り浸っているTwitterのワナビ界隈が聞いたら羨ましがるような成績をいくつか出した。でもこの頃が人生の絶頂期……僕個人の成績では……だった。


 結局何をやっても中途半端なのだ、僕は。


 責任転嫁をするなら酒が全てを狂わせていた。この頃ようやく「イオンの酒はまずい」ことに気づいて親父の隠し財産であるシーバスリーガルやバランタインに手を出した。これが最高に美味くて、しかも僕の苦い思い出も全部焼いてくれて、最高で最高に最高な気分になれたのでほぼ毎日飲んだ。そして罪悪感で夜中に吐いた。ただ漠然と、ブレンディッドスコッチが好きなことは分かり始めた。


 そうして九月。


 僕の母校では、卒業後も下の代の体育祭を観に行く、という文化があるのだが、それに倣って僕も後輩たちの体育祭を観に行くことにした。そこで声をかけられた。


「小川くん!」

 雪の妖精だった。


 大学に入って化粧を覚えたからだろう。彼女はますます美しくなっていた。僕はと言えば半分アル中状態で後輩の体育祭観戦にもポケットボトルのウィスキーを持ち込んでいるくらいだったのだが、彼女は健康そうで、輝いていて、大学生活を楽しんでいる気配だった。


 焼け木杭には火が付き易い、というやつだろう。

 愚かにも、僕はまた雪の妖精に夢中になった。体育祭が九月半ばくらいなのでそこから三カ月くらい、僕は四回目の片思いに苦しんだ。


 雪の妖精とメールのやりとりはしていたし、電話もしたことがあるのだが何せ僕は酒浸りだった。そのことを隠しながらやりとりをするのも苦痛だった。拷問だった。


 多分大学二年の秋頃まで続いた拷問だったと思う。


 そんな拷問の最中、具体的には大学二年の春、僕はあいつと再会した。


「一緒に小説を書こう」


 一年浪人して広島の大学に進んだ、将吾だった。

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