第6話 新人戦と体育祭

 実に間抜けな話なのだが、夏季合宿の間に、新人戦の受付が始まっていたようだった。


 つまり将吾がコンビニにアイスを買いに行っている間、そして僕が女子とへらへらトランプをしている間に、先輩方は新人戦に参加する部員の登録を済ませ、九月への準備をしていた。僕たちがその事実を知ったのは夏休み明けすぐだった。


「これは、あれだな」

 将吾が観念したように晩夏の空を見上げた。

「今退部したら新人戦の受付処理を自分でしろって言われるな」

「それは面倒だな」

 実際面倒だった。この頃にはもう部活の練習が面倒なのはもちろん辞める手続きさえ面倒、もっと言うなら剣道部という存在さえ面倒という「面倒のスパイラル」に陥っていた。


 そういうわけで消極的にだが新人戦に出ることになった。当たり前だが僕と将吾はやる気がない。そしてつい二週間ほど前に彼女が出来た塚本くんは当然ながらそれどころじゃない。試合は団体戦。五人一チームで戦う。その中の三人がポンコツなのだ。どう考えても勝てるコンディションじゃない。でも奇跡は起きた。


 基本的にどのスポーツもそうだと思うのだが、公立高校はひっくり返っても私立高校には勝てない。だが僕たちはその日、ひっくり返ってさらにひっくり返って、要するに華麗な三回転半捻りを決めて着地した。公立高校で何年かぶり……下手したら何十年かぶり……に強豪私立の一角を撃破してベストエイトへと進んだのだ。


 残念ながその直後に県内一位の学校と当たってしまったので惜しくもベストエイト止まりとなってしまったが、試合のスコアを見ると県内一位に肉薄したのは僕たちの高校だけだった。県内一位は王者たる実力を存分に見せつけて他校に圧勝していたのだが、僕たちとの試合でのみ、大将戦にまで試合がもつれ込んだ。快挙だった。


 そういうわけで結果を出してしまった。辞めづらくなる。特に僕と将吾は、四試合中三勝一敗という好成績を残してしまったので先輩たちも「お前たちになら後を任せられる」なんて涙を浮かべる始末だった。こうなると何もかもが面倒である。


 面倒事はまだあった。体育祭である。

 僕の高校の体育祭は自称「日本一の体育祭」だった。まぁ、それは派手にやる。僕は流されやすかったのでそのお祭りには乗っかったが、将吾はひどくつまらなそうだった。


 この体育祭では多くのカップルが生まれる。実際僕も二つ上の先輩といい感じになったがその女子はリストカットの癖があったのでこちらからご遠慮願った。将吾がどうだったのかは知らない。クラスが違ったからだ。でもあいつは背も高いし勉強もできるしモテたんじゃないかな。ベストエイトだし。実際のところは知らないが。


 そんな激動の九月を過ごし、十月になった。部活は面倒な気分のまま何となく続けて、一応だが結果を出した僕は先輩たちに文芸部での活動を認められた。同じ時期に、文芸部の伝手で新聞部に入った。この活動も剣道部の活動の妨げになることは間違いなかったが、何せ県内八位だ。文句は言わせない。


 そういうわけで、僕の初めての長編ミステリーが公開された。

 公式に、「小川将吾」として活動したものではない。

 でも二人の初めての合作が、世に出た。

 秋が深まって来て、僕たちはカーディガンを着ていた。

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