140字小説 まとめ4

晴れ時々雨

最近は公園に呼ばれることが増えた。安全性、老朽化、色々な理由で撤去に追い込まれた遊具に張られる黄色いテープ、僕はその中にだけ留まっていられる存在になってしまったので助かる。妖怪界に新たに加えてもらった「立ち入り禁止小僧」とは僕のこと。オモイデ達が僕に寄ってくる。僕は吸い込む

#呟怖



人々の喋る、99%の言葉の意味がわからなかった。たまに交わす挨拶は共通言語だったが、他は同じ言語にも関わらず、聞き取れはするが殆どが意味のわからない単語ばかりだった。自分に分からないということは他人が私を理解できないのは当然だった。素晴らしい孤独。意外と明るい銀河系を漂流する。

140字小説 カプセル



そういえばさっきから足の親指が痛かった。親指の先に灰色の虫がとまっていた。虫は細長く、六本の足と艶やかな上翅を備え、横山さんにそっくりな顔をしていた。横山さんは申し訳なさそうに私の親指を齧っている。私より一回りは歳上なのに腰の低い、いつもの横山さんだった。

#140字小説 横山虫



石をけりけり歩いていくと知っている子のおうちに着いた。蹴っていた石を拾ってその子のおうちに投げつける。賑やかな音をたてて窓が割れ、怒ったおうちの人に首根っこを掴まれた。割れてしまったガラスよりゴミのように運ばれる私を破れた窓からあの子が見てた。違うの石を見て。変わってるのとても。

140字小説 そうしなくちゃ届かない



行く先々で悪いことをしまくった。二人で居ることが全てで怖いものなんかなかったから。私たちは止まらずに突き進んだ。追いかけてくるものから逃げ、楽しいことだけを探して。一本道の終点がどこであろうと構わない。アクセルを踏んづけた時からバックはしないってのがルール。だから駐車場は真ん中。

140字小説 世界はずっとお天気



街から戻ると母が庭でゾンビを洗っていた。林に引っかかっていたゾンビを助けたらついてきたらしい。野生のゾンビは山一つ向こうの廃工場の汚水からまれに生まれると云われている。助けるのもどうかしているが洗うのもどうなんだ。

「わーおもしろい」

水道の水圧で背中の腐肉が抉れ、水が貫通する。

140字小説 半顔ゾンビ



買い主の落胆が空中から伝わる。あと数回残された私の呼吸が敏感に落胆を摂取する。店先で主になる前の客と目が合ったときから、自分にはない責任を感じて気が重かった。客は私につけられた札を見逃したのだろう。それか勝手に解釈したのだ。私は蕾のまま枯れる花。咲かない花。ごめんなさい。さよな

140字小説 蕾花 ¥500



薬屋へ行って馬鹿になる薬をくれと言うと店主が鼻で笑った。ような気がしたが実際は困った顔をしていたので違う店へ出向き、あらゆる棚から一個づつ取った薬をレジで精算した。大量の薬を前にレジ係がどんな顔をするかと見張ったが、スーパーで見切り品を会計するときみたいに表情を変えなかった。

家に帰り着く前に、公園かどこかの店のトイレ、ここでもいいが、そこで今買った全部の薬を服用しようと思う。用法用量なんか構わない。食後はたっぷり過ぎている。


俺は何故人を殺したくなるのか考えるようになり以前のように楽しく殺せなくなってしまった。おそらく、少しだけ何故か賢くなったのだ。

一度芽生えた考えは廃墟の壁を伝う蔦の蔓のように俺の心臓にはびこり、あちらこちらで花を咲かせ、そいつらは草なのに俺に向かって口をきいた。考えたことも無いようなことを考えさせた。いつ頃そうなってしまったか探ろうとまでして、俺は頭を壊そうと思った。

俺は賢くなったまま人を殺そうとした。しかし蔦の花がなんでなんでと風にざわめいて煩い。もう俺は花の首をちょんぎって薬屋に来たのだ。

数え切れないくらいの痛み止めを飲めば痛みに関する全てを忘れられるはずだ。胃薬の粉の山を腹に収めれば良い大便が出尽くして渇きを思い出せるはずだ。

体中に湿布を貼ればどこもかしこも軽くなり、危険物を振り回すのに躊躇しなくて済むはずなのだ。

自分の体の軽さだけ感じて、他人の痛みなどかえりみない。俺は馬鹿になるしかない馬鹿なのだから。


店員から聞き出した洗剤コーナーの脇のトイレの個室で凄い量の包装ゴミを出しながら薬を飲む。

今までかいたことのない汗が服をびしょ濡れにして顎から滴る。

汗で剥がれつつあるが、先に湿布類を貼っといてよかった。こんな時に賢さが俺を後押ししたことに吹き出しながら、ふらつく地面を月面上を行くようにして歩き、洗剤コーナーの近くで品出していた店員に向かって出刃包丁を振り下ろした。

そのときどこかで、あーあ、というでかい声が聞こえ、俺は自分で自分の首を刺した。

『なぜの蔦』



待ち合わせはビルの屋上だった。指定したのは彼だった。ビルは階段式の11階建てだったので予定の時刻より早めに赴いた。季節は陽射しが強まる時期で、屋上までのペース配分を考慮し5階で休憩を挟むとして、階段を昇るのに15分を見積もった。さて5階だ、時間は十分にある。すると彼が追い抜いていく。

140字小説 自殺予告



コンビニでタバコを買ったらレジの人が横にライターを並べた。いるなんて一言も言ってないし買う気もない。どういう意味か量りかねていると、記念ですと店員は言った。どうやらここで買うタバコが1000を数えたらしい。思わず吹き出してそいつの顔に点火した。数を超える力をくれてありがとう。じゃあな。

140字小説 超える



街で見かけたテロリストが母に瓜二つだった。しかし信仰する宗教の違いか洋服の趣味が異なっている。その女は母の顔で国家転覆を狙う謀を練り、同行した男と密接なやり取りをしていた。僕は消されるかもしれない。しかし国家などどうでもいい人間を殺すほどテロリストは暇だろうか。割る口を持たぬ僕を。

140字小説 超平和主義者



ショウウインドゥに飾られた、液に浸る瓶詰めの小人の首を見ていた。あまりにも精巧だから、初めのうちはあれが本物なのか作り物なのか、どこかにそれが判るヒントがないかじっくり探したが、そのうちそんなことはどうでもよくなった。目蓋を閉じているけれどきっと瞳はグリーン。グリーンがいい。

140字小説 ウィンドゥを曇らせる息と非売品を飾る店




部屋で踊っていたら床から槍が突き出した。私はしたつもりはないけれど、階下の住人は挨拶をしたつもりなのだろう。こんな挨拶状はお返しする義理はないからそのまま放って踊り続けた。槍は所在なさげに私の部屋の真ん中に佇み、寂しそうに錆びそうだったので帽子を掛けた。切っ先で帽子に穴が空いた。

140字小説 槍のある住まい



脱衣所で濡れた体を拭く人を見た。ざばざばざばと大まかに体を拭ってから、がしがしがしともう一度シャンプーするみたいに頭を拭くと、ちんちんがふるふると心地よさそうに振れていた。こんにちはというよりか、さようならのおじぎだね。さようならは淋しい響き。だからおやすみって言うよ。

140字小説 ちんちんのおじぎ



みんなほっとした顔してどこへ行くの?すると彼が、みんな家へ帰るんだよ、と教えてくれた。家はそんなにいいところなの?すると彼は、帰る場所なんだよ、と言った。あたしにもある?ときくとあるよと言った。そっかぁ、なんか嬉しくなっちゃうね。そして彼と尾をつないで、いつもの道をゆっくり歩く。

140字小説 帰る



本の中の誰かの人生を読みながらいつの間にか考えごとをしていた。本の中の誰かは退屈な人生を送っていたわけではない。なのにどうして冷蔵庫の中身のことなんかがよぎるのだろう。私の頭は自由なのか不自由なのか、まともなのか阿呆なのか、たぶん阿呆は当たっている。自由に忘れていくだけ、たぶん。

140字小説 すきま



茶色い耳の黒く小さなロップイヤーラビットが軒先にたかっていた。指先大の黒い兎は長い耳を震わせながら、頭上で懸命に巣をこしらえる。被毛のないつるりとした顔に生えたくの字型の触角を左右に揺らすのを柱の振りをして眺める。長く下がった六本の脚を現して飛ぶ、痩せた兎の正体は蜂。

140字小説 軒下の蜂


7/11〜22

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