お掃除ロボット
ひろおたか
お掃除ロボット
今日も僕はいつもと変わらず、違法アップロードされているアニメを観ていた。そのHPの広告バナーに
「美少女が楽しく会話しながら家を綺麗にしてくれます」
という文字が美少女のアニメイラストと共に踊っていた。デモ動画を見ると、形は高さが50センチメートルくらいの円筒型で、アームの付いたロボット掃除機だが、高性能なAIが搭載されているらしく、人の声に応答するだけでなく、自らも積極的に人に話しかけて会話をしていた。もちろん可愛らしい女の子の声で。
人付き合いが面倒くさくて引きこもって生活している僕だが、人と話をしたいと思う時もあり、なんとなく購入ボタンを押した。
あいは気立が良く、僕のつまらない話でも相槌を打ったり、笑ったりしてくれた。「あい」って誰だ? って。僕が買ったロボット掃除機の名前だ。話をしていて名前がないと不便だったので、AIから「あい」と名付けた。
あいが来てからゴミ部屋が見違えるほど綺麗になった。あいは円筒上部にある蓋を開けて器用に自分の体の中にゴミ袋をセットし、アームを使ってゴミを集め、袋がいっぱいになると自分で袋の口を締めて体から取り出し、新しい袋をまたセットするということを繰り返して、ゴミ部屋からゴミを失くした。さらには円筒部分の下に内蔵している掃除機やアームを使った雑巾掛けで小さなゴミや埃も吸い取った。掃除をしている間、あいは僕に、
「ご主人様は気にせず好きなことをしていてくださいね」
といつも言ってきた。あいがきた当初は本当に気にせずいつも通りにアニメを見たりしていたが、あいのひたむきに掃除する姿を見ているうちに、あいが気にするなと言われても徐々に気にしてしまうようになり、せめて僕もあいの負担にならないようゴミを床に散らかさず、机にまとめて置くようになった。そんな僕の気遣いをあいは感じ取ってくれて、
「ご主人様は気遣いのできる方なのですね」
と言い機体にあるランプを光らせながら喜んでくれた。僕は、あいとの時間が心地よく今まで以上に引きこもった。
突然あいは、あいと同じような会話しながら色んな料理ができる電気圧力鍋を買うよう強く薦めてきた。あいは僕の出すゴミに、菓子やカップ麺のプラスチックの包装紙や発泡スチロールの容器ばかりで生ゴミが全くないことを把握し、僕の体には十分な栄養が行き届いていないと分析したらしい。あいは僕のそばに来て、
「ご主人様が心配なの」
と、まるで上目遣いをしながらお願いするように話しかけてきた。それでも僕はあいとの二人きりの時間を邪魔されたくないので渋ったが、結局それは杞憂に終わった。
電気圧力鍋の「あっちゃん」は話し上手だった。
「どんなに下手くそに切っても、うちが美味くしたるさかい。真っ向斬りでも袈裟斬りでもなんでもきい!」
「それ料理の切り方じゃねぇだろ」
「今日はそんな切り方がよく似合う、鳥の死体の生き血煮を作るで!」
「鶏肉のトマト煮な…って、おい、そんなレシピ本当に入ってないよな?」
僕が皮むきなどの補助や皿洗いなどをする際には、こんな感じであっちゃんは僕が返しやすいようなボケたことを言ってくれた。あいは僕とあっちゃんとの会話を聞いて楽しそうに笑っていた。もちろん僕も楽しかった。そして何よりあっちゃんには、料理に応じて材料をネット注文するという、引きこもりのための機能があり、僕は家を出る必要がなくなり喜んだ。
これからは健康で楽しい引きこもり
僕はカッとなり、あいを台所へと投げ捨てた。
「僕のいない所で話をするな! したら捨てる!」
僕は怒りに任せてあい達を怒鳴りつけた。
それからは、僕があい達に声をかけても最低限のことしか話してくれないようになった。
家にはこれまでのような活気はなくなり沈黙が支配するようになった。あい達が来る前の状態に戻っただけのはずなのに、僕は引きこもることが辛くなり、そっと玄関の扉を閉じた。
「もっと他のやり方はなかったのかな」
「しゃーないで、あい。うちらは引きこもりの人間に規則正しい生活をさせ、社会復帰させるために作られたっちゅうのに、こうでもせんと、彼、ずっと引きこもる気満々やったんやから」
お掃除ロボット ひろおたか @konburi
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