第5話 入国
辺りから聞こえる驚きの声を煩わしく思いながら、俺は空から地面に降り立つ。
俺の後に続く形でネーナ、イミーナ、ブラムも同じようにゆっくりと地面に降り立った。
現在俺達が居るのは恐らく東京都港区辺りだろう。
ザハールとネーナとの話し合いの結果相手が動く前に手を打つべきだという意見で一致し、その日のうちに即座に日本に対して使いを出した。
内容をまとめるとこうだ
・我々は貴国から見て東に現れた大陸の主である
・我々に敵対の意思はない
・我々と貴国は緊急を要す話し合いの必要がある
・我々は明日、この使者が降り立った場所に現れる
・迅速な話し合いは我々と貴国の友好の為であり、貴国の人命の為でもある
と言うような内容をもっと長ったらしく、面倒な言い回しで日本側に伝えてもらった。
伝えてもらったというのはそこら辺は全てザハールとネーナに任せたから、事後報告として知った感じなのである。
勿論かどが立たないよう穏便に進めてくれたらしいが、詳しい事は教えてくれなかった。
多分だが相手側が魔法に対する対策や知識が一切ないという事で、幻惑魔法なりを使って面倒な手間を省略し、一足飛びに俺達からのメッセージを上層部に送ったのだろう。
俺が行った事と言えば何人かに相手の言葉が理解でき尚且つ話せるようになる翻訳魔法をかけたぐらいだ。
言うまでもないが、俺を含めたここに居る四人にも同じ魔法をかけてある。
正直全て部下任せというのはあまり褒められたものじゃないが、今後の事を考えると時間をかけている余裕はないからな。
魔法を使った事を俺に言わないのは、無いとは思うが気付かれた時に自分達の独断で行ったと言って責任を全て被るつもりだからだろう。
ただそんな事は絶対にさせないし、起こりえない。
因みに今回ネーナは姿を変えており、明らかに出来る女性と言った感じの姿に変わってい居る。
服装もそれに合わせてきっちりとしたものだ。
とは言え角は隠していないので、魔族である事には変わりない。
他の面子も正装で来ており、俺自身もかなり仰々しい雰囲気の服装となっている。
正直こういったのは好きではないが、王として他国と話をするならそれなりの見た目でなければ恰好が付かないからな。
「し、失礼いたしました。我々の国では道具もなしに空を自由に飛ぶことは出来ませんので、驚いておりました」
「構わない」
俺はその言葉に対して軽く左手を出し、問題ない事を示す。
俺に対してそう言ってきたのは少し年の行ったスーツ姿の男性だ。
恐らくだが総理ではなく、何らかの役職を持った政府の人間だろう。
それに空を飛んで現れたのもそうだが、言葉に詰まったのには他の要因があるだろう。
角。
見ただけでわかる普通の人間とは違うそれの方が、理解できない空を飛ぶ技術よりも遥かにわかりやすく、明らかに異なる存在なのだと認識できるからな。
「我々の国の代表は別の場所に居りますので、その場所まで我々の国の移動手段でご案内いたします。ですがその前に、失礼ながら身体検査をさせて頂いてもよろしいでしょうか」
「問題ない」
「ありがとうございます」
スーツ姿の男性はそう言うと、後ろに立っていたSP風の男女に対して視線で合図を送る。
するとその男女が俺達の方に近寄ってきて、「失礼いたします」と言ってから俺達の体を触り危険物を持っていないか確認しはじめる。
正直この身体検査は全く意味が無いんだけどな……
(陛下、失礼ながらこれになんの意味があるんでしょう? 俺達は武器何ていくらでも出せますし、仮になかったとしても魔法があるんですからいくら体を調べても意味が無いと思うんですけど?)
俺がそう思っていると、後ろに居るブラムからそんな念話が飛んできた。
俺も丁度同じことを思っていただけに、ブラムの気持ちが痛いほど理解できてしまう。
(ブラム、相手側にはそう言った知識がないんだ。ここは大人しく身体検査を受けてくれ)
(まぁ俺達からしたらメリットしかないですし、陛下がそう仰るなら俺はこれに関してはこれ以上何も言いませんよ。ですけどこの周りでピカピカ光ってるのは何とかなりませんか? 目障りでしょうがないんですが)
(その意見は私も同感)
(私もです)
ブラムの言葉にネーナ、イミーナの順に賛同の念話を送ってくる。
確かにかなり気になる。
こうなる事はある程度事前に予測していたが、予想以上に記者とテレビカメラの数が多い気がする。
とは言えやめるようにこちらかは言えない。
これは別に日本との関係を気にして気を遣っているという訳ではなく、俺達の為だ。
日本国民には俺達や俺達の大陸の危険性について理解し、世界に広めてもらは無ければならない。
なのでこちらから積極的にテレビカメラ等を受け入れる事はあれど、拒否する事はあってはならないのだ。
けれど流石にこれは気にするなと言う方が無理な話だ。
仕方ない。
俺はそう思いながら左手の指をパチッと軽く鳴らす。
すると先程まで気になっていた光が嘘のように消える。
「い、いかがなさいましたか?」
「癖だ。気にするな」
身体検査をする人間から不安そうに投げかけられた言葉に対して、俺はそう答える。
(陛下! 今ので光を消してくださったんでしょ? 助かりましたよ)
(気にするなブラム。それと消したんじゃなく認識を歪めただけだ。ここを移動すれば多少はましになるだろうから、その時は元に戻す)
(わかりました)
俺の念話にブラムはそう答える。
今俺が使ったのは前に使用した認識阻害魔法だ。
それを今度は俺達がカメラの光を認識できないように設定して使用したのだ。
とは言え光に関する認識を阻害するのはあまり勧められたものではないので、出来るだけ使いたくなかったのだ。
知らないうちに目がダメージを受ける可能性もなくは無いからな。
一応カメラの光だけを曲げて俺達に届かないようにも出来たがやめておいた。
それで変に敵対心を抱かれても困るからな。
俺がそんな事を考えていると、俺達の身体検査をしていた人間がスーツ姿の男性に対して合図を送る。
「お手数をおかけいたしました。では我々の国の代表が待つ場所へとご案内いたします」
俺はその言葉に対して軽く頷き了解の意を示す。
まさかこんな形で総理大臣に会うなんて前世では思いもしなかったよ。
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