第4話 交渉に向けて

「あれからそれ程経ってないのに呼び出して悪いな、ネーナ」

「陛下からの呼び出しなら何よりも優先されるから、喜んで来るわ。それよりも用件は? ザハールも居るって事は個人的な話って訳じゃないんだろうけど」


 呼び出しに応じて来てくれたネーナは、何処となく残念そうにそう言った。

 日本で情報を集めた俺は国に帰って即ザハールに得られた情報を元にどうするかを話した。


 勿論その時に無断で単独行動したことをこってりとしぼられたが、ザハールの方が正しいので甘んじてそれを受け入れた。


「いつもの陛下の悪い癖だ」

「あぁ~」


 その一言だけで納得されてしまう俺って……

 まぁ心当たりは嫌って程あるんだがな。


「それで? 得られたモノは何だったの?」

「それは……」


 俺はそう言って日本で得られた情報と俺の考えについて説明する。

 基本的に俺に近しい者達は俺が転生者であることは知っている。

 なので確証を得られた今はそれを含めて全て話し説明した。


「つまりこの世界は陛下が話されていた生前の世界で魔法や魔物は存在せず、代わりに科学と言う別の技術が発達した世界であると?」

「そうだな」

「しかもこの世界の国々が魔法も特殊武具もないのにこの大陸の調査をしようと考えていると?」

「そうだ」

「正直言って、自殺行為だと言わざるを得ないんですけど……」


 俺の説明を聞いたネーナはそうもらしながら、頭を抱える。

 恐らくだがネーナは俺と同じ考えに至っているはずだ。

 それ程までに俺達の住む大陸は危険なのだ。


「俺はそれも同感だ。多分ザハールも……」

「勿論でございます。奴等にいくら鉄の塊をぶつけたところで、魔力のこもっていない攻撃では魔石どころか外皮に傷をつけられるかも怪しいですから」


 そう。

 この世界の兵士では魔物に太刀打ちできないと断言できる理由はそこにある。

 魔物を倒すためには体内のどこかにある魔石と呼ばれる石を壊すか、体外に出さなければならないのだ。


 ただ魔石を壊すには魔力のこもった攻撃を魔石にぶつける必要がある。

 その為に必要なのが魔法であり特殊武具と呼ばれるものなのだ。

 勿論もう一つの方法である体外に出すというのは、体を跡形もなく消してしまっても達成できるので、全く持って不可能かと言われればそういう訳ではない。


 けれどそれを実現するには弱い魔物一体に対して戦車を一台用意するぐらいの戦力でなければ無理だろう。

 何せ奴等の外皮は尋常じゃなく硬く、普通の銃弾程度なら構わず突っ込んでくる可能性があるのだから。


「という訳でそうならないようこちらから先に出向き、我々の大陸に近づかないよう明言し用途考えている。変にこちらに魔物との戦いの責任を押し付けられても困るからな」

「だから私が呼ばれたと」

「先にある程度話を詰めておこうと思ってな。時間をかければかける程面倒な事になるのは目に見えてるし。ザハールに頼んでいた接触の選抜隊も、調査的なモノではなく外交的なモノに変更してもらう予定だ」

「そちらはお任せください」


 ザハールはそう言いながら俺の右後ろで軽く頭を下げる。

 数時間前に指示した事が突如として急な変更が出たにもかかわらず、何の文句も言わず引き受けてくれる。

 かなり悪いとは思っているが、本当にありがたい。


「ザハールの事だから言わなくても大丈夫だと思うけど一応、こちらの力をアピールできる選抜をお願いね?」

「勿論」

「陛下? これは単なる挨拶的な接触ではなく、外交的な接触と考えて問題ないんでしょ?」

「そのつもりでいる」

「なら交渉する上で、国家として譲れない点を決めておいた方が良いでしょうね。それによっては対策も準備するものも変わってくる訳だし」

「そうだな……まずは我々の大陸への上陸及び接近の禁止だろうな」

「それに関しては近づく場合は自己責任であり、こちら側は一切の責任を負わないの方がスムーズに話が進むと思うわ。それと魔物に関しての情報を多少渡すべきでしょうね。しっかりとした理由さえあれば理解は得られると思うわ。それに相手方の国家が全世界に広める事を組み込んでおいた方が良いでしょうね」

「わかった。そうしよう」


 俺がそう言ったと同時に、後ろに居るザハールが紙に何かを記入し始めた。

 恐らく俺とネーナの会話を記録してくれているのだろう。

 後で必要な人員に説明および準備の為に。


「後は技術が欲しいかな。あちらの進んだ科学技術をこちらで使えるようにしたい」

「技術提供ですか……確かに陛下の話されていたようなものがあるとすれば、こちらの技術と合わせる事で更に国家として栄える事は出来るでしょうね。ですがそれには対価が必要であり、恐らく相手側が求めてくるのは我々の技術である魔法に関してでしょう」

「魔法に関してか……どこまでなら話して問題ないと思う?」

「そうですね。我々の行使できる魔法に関して態々開示する必要はないでしょう。ただ固有魔法が後天的に発現する可能性と、多少の魔法制御技術の指南程度であれば問題ないんじゃないですかね。今後もその国と友好関係を築いていくのであれば、の話ですが」

「それで行こう。俺があげるのはこれくらいかな? 他に何かあるか?」

「はぁぁ~~。これだから陛下は付け入られる隙があるって言われんです。我々の主として、もっとしっかりして頂かないと困ります」


 俺の言葉にネーナが盛大にため息をつきながら、そう文句を言ってくる。

 はい?

 何がそんなにダメだったんだ?


 他に何かあるって事なのか?

 俺としてはこの二つぐらいだと思ったんだが……

 違うのか?


「わからないみたいなんで言わせてもらいます。確かに陛下が言った二つも重要であることに間違いはないですけど、それよりも重要な事があるんです。それは我々の立ち位置の表明です」

「立ち位置?」

「そうです。相手側の国は魔法なんて存在しないんですよね?」

「そのはずだ」

「なら突如として現れた我々が魔法を使えるのであればこう考えるはずです。もしかして故意にこの世界に転移してきたのではないか? と」

「!!」


 ネーナのその言葉を聞いて、俺はようやく理解した。

 今後どうなるかはわからないが、例えば地球の元々の国々で魔物が暴れた場合それは俺達が故意にやっているんじゃないかと思われるかもしれないという事だ。


 それは非常に不味い。

 仮に全世界を敵に回したとしても負けない自信はあるが、我々の国にも犠牲者が出るだろう。

 それだけは何としても避けたい。


「わかりましたか? つまり我々の中で最も重要なのは、こちら側も被害者であり協力していこうというスタンスです。ですのでこの転移に関しての情報は積極的に交換していって構わないと考えています。勿論誤解を招かないように言葉は慎重に選ばなければならないと思いますけど」

「確かにそうだな。わかった。その三つを中心に、もう少し話を詰めていこう」

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