第3話 お忍び偵察

「…………てことはやっぱりで間違いないんだな」


 俺は目の前に広がるビル街を見ながらそうもらす。

 俺は現在日本の首都である東京に居る。

 報告とMAPによってある程度予想はしていたが、やはり自身の目で確認するまでは確証が持てなかったのだ。


 ただその確証があるかないかで今後の動き方が大きく変わる事から、態々確認しに来たのである。

 とは言えこれでも俺は国家の主。


 自身で確認しに行くなんて事が簡単に許されるはずがない。

 なので誰にも言わず、バレないように一人で抜け出してきた。

 今頃エビータ辺りがかなり騒いでいるかもしれないが、そこは親衛隊の副隊長であるラニエーリが何とかしてくれているだろう。


 ザハール程ではないが、ラニエーリもかなり優秀な逸材だからな。

 まぁ隊長であるエビータや俺に振り回されてかなり苦労はしているだろうが、何だかんだ言いつつもこなせている辺り凄い奴だよ。


 にしてももっと懐かしい感じがするかと思えば、そうでもないんだな。

 それ程までにあっちの世界で濃密で色濃い時間を過ごしてきたという事なんだろうが、これは喜べばいいのか悲しめばいいのか……


「はぁ~」


 そんな事を考えながらため息をつく俺を、通行人達は全く気に留めない。

 それを見て俺は自身にかけた認識阻害魔法が正常に発動しているのだと確信する。

 MAPもそうだが、俺はかなりの数の魔法を使うことができる。


 現にここまで飛行魔法を使って飛んできたわけだからな。

 そしてそれ程までに数々の魔法を使えるのは、俺が異世界に転生した時に持っていた固有魔法が関係している。


 固有魔法とは先天的あるいは後天的に獲得するもので、世界に同じ固有魔法は二つと存在しない。

 そんな固有魔法の中でも特殊と言わざるを得ない程の物を俺は持っている。


 その名は

 読んで字のごとく、この固有魔法は新たに魔法を創り出すことが出来るものだ。

 勿論制約は存在するが、それを考慮しても比類なき魔法だと断言できる。


 この魔法のおかげと言うかせいと言うか……まぁこの魔法によって今の立場になってしまったのは間違いないだろう。

 そして今新たに発動している魔法は二つ。


 先に述べた認識阻害魔法と、変身魔法の二つだ。

 それにより今の俺の見た目は魔族としての特徴の角は消え、スーツ姿のどこにでもいるような普通のサラリーマンのような見た目になっている。


 認識阻害魔法だけでなく変身魔法まで使っているのにはしっかりと理由がある。

 まず認識阻害魔法に関してだが、これはある程度自由度のある魔法だ。

 今回は俺を認識できないようにしている訳では無く、俺という存在は認識できるが、俺が引き起こす事象を認識できないように設定している。


 何故そんな面倒な設定にしているかと言うと理由は簡単で、記憶と記録に齟齬が生じないようにする為だ。

 認識阻害魔法は知覚に干渉する魔法なのではないかと俺は考えており、つまりは映像として記録するカメラ等には意味が無いのではないかという結論に至ったという訳だ。


 けれどそう言った記録媒体で試した訳ではないので、そうであると断言はできない。

 何せ俺の転生した世界は魔法という摩訶不思議なモノがあったせいで、科学技術の発達が著しく遅れている。


 なので可能性がある以上、二重で魔法をかけておく方が安全だと考えたのだ。

 後々調べられた時に面倒が起きないようにしておかなければ困るのは俺個人ではなく、国家の主としての俺なんだからな。


「とりあえず確認……いや、確証は得た」


 これでこちらから仕掛けない限りほぼ戦争になる事はないだろう。

 とは言え流石に無断で抜け出しておいてこれだけしか情報を得られなかったでは話にならないだろうな。


 もう少し情報が必要だ。

 となると行く場所はあそこだろうな。

 俺はそう考えながらある場所に向かって歩を進める。


ーーーーー


「……政府は太平洋上に突如として出現した大陸に関して、近日中に調査部隊を派遣すると決定した模様です」

「……突如として現れた新大陸の衛星写真がこちらになります」

「……突如現れた大陸に対してSNS等ではアトランティスではないかという声が聞こえており……」


 俺の目の前にある幾つもの液晶パネルから流れる映像と音声を同時に聞きながら、俺は冷静に情報を処理する。


 そう。

 俺が来た場所は近くにあった家電量販店だ。

 流石に突如として大陸が現れればニュースで取り上げられるだろうと考えたのだが、その予想は的中していた。


 そして得られた情報をまとめると


・どうやら日本政府は近日中に新大陸に自衛隊を派遣し調査する予定であること

・日本以外の国々も新大陸の調査を行う予定であること

・新大陸に関して日本国民は不安よりも好奇心が優っている事

・衛星写真では大陸の形は把握できるが何故か全容は全く分からない事


 という四点になる。

 まず一つ目と二つ目、正直これは何としてでも避けたい。

 俺達の大陸に関する情報を渡したくないというのも勿論あるが、それ以上に危険だからだ。


 何せ俺達の大陸にはと呼ばれる普通の生き物とは異なる生物が存在する。

 奴等は魔法によく似た、けれど全く異なる力を使って襲ってくる。


 訓練された兵士が万全の状態で挑めばそこら辺に居る魔物程度であれば何とかなる可能性はなくもないが、苦戦は必須。

 仮に危険度の高い魔物に遭遇した場合魔法が使えない上特殊武具を持っていないとなると、生き残るのは絶望的だ。


 しかもこの世界の兵士達が用いる銃火器も無限に使える訳では無い。

 強力ではあるが弾がきれればただの鉄の塊と化す。

 そうなった場合そこら辺に居る魔物にすら全滅させられるだろう。


 その責任を後々こちら側に追及してくる可能性は十分にあるし、最悪それが引き金になり戦争にまでなりかねない。

 そうならない為にもこちらから先に接触し、俺達の大陸に近づかないよう明言しておくべきだろう。


 仮に近づいた場合は命の保証は出来ないと予防線を張ったうえでな。

 これに関しては帰ってから即ザハールと話を詰めるべきだろうな。

 そして最初に接触する国は今決まった。


 その国は……だ。

 これは別に前世の祖国だからとかそういう理由ではない。

 得られた情報の三つ目を考慮しての事だ。


 本来突如として現れた未知の大陸何て恐怖と不安の対象でしかないだろう。

 それが不安よりも好奇心の方が優っているのは、この国でアニメや漫画の文化が盛んだからだろう。


 実際両方を知っている俺から見れば、今起きている事はまさにそう言ったファンタジーな展開と言って間違いないだろう。

 そして交渉するならそう言った事を受け入れられ、更には過度な警戒が無く友好的に話を進められる相手が好ましいのだ。


 その点では日本は十分に対象内だ。

 他の国々に関しても可能性はあるかもしれないが、今から態々全ての国を回ってニュースを見て回るなんてことをやっている時間的余裕はない。


 だからこそまずは日本国政府と接触する。

 そして日本から世界に情報を発信してもらう方が賢明だろう。

 よくわからない角の生えた人間よりも、元々存在していた日本と言う国の方が信憑性はあるだろうからな。


 日本とは良き隣人として友好的関係を築くべきだろうな。

 勿論俺達が損しない形で。

 そこら辺に関してはネーナと話を詰めるべきだろう。


 そうと決まれば早く戻ってザハールとネーナの二人を集めて話を進めるべきだろうな。

 因みに得られた情報の四つ目に関しては俺の仕業だ。


 ここが地球である可能性が浮上した瞬間、即対策を講じていた。

 衛生写真などと言う簡単に情報を得られるものに対して策を講じない訳がない。

 なので結界を張り、機械と人間に対しての策としたのだ。


 その結界とは空間に干渉する結界。

 空間を歪め結界外から結界内に入る事は出来ず、更には外からは何もない大地に見えるように設定してある。


 なのでいくら衛星写真を撮ろうとも、何もない大地しか映らないのだ。

 正直この結界のおかげで俺達の大陸に上陸する事は不可能なので得られた情報の一つ目と二つ目に関して無視すればいいと思うかもしれないが、決してそうではないのだ。


 俺が懸念しているのは陸地に居る魔物ではなく水の中……海に居る魔物に関してだ。

 正直今海の中がどうなっているのかは全く分からない。


 調べる事は十分可能ではあるが、多少準備が必要なのだ。

 勿論即調べる事も可能ではあるが、その方法では漏れが出る可能性があるのだ。

 その点も考慮して時間的余裕が無いのだ。

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