第2話 方針の決定

「これより緊急特例会議を始める!」


 そんなザハールの宣言が部屋全体に響き渡る。

 ザハールに指示を出してから既に1時間ほど経過した今、俺は現在集まった情報を元に今後について話しあう為、専用の会議室のような部屋に居る。


 この部屋は俺がザハールに言って作らせた部屋で中央に大きな長机があり、両サイドには椅子が幾つかおかれているだけの部屋だ。


 勿論魔法で外に声が漏れないようにはされているが、それ以外は本当にこれといった特別なモノも事も存在しない普通で簡素な部屋だ。

 こういった部屋を作らせたのには勿論理由がある。


 元々はそういった話し合いに関しては玉座の間で行う予定でザハールは居たみたいだが、俺が却下した。

 何故なら全員が座り、なるべく楽に話し合いを行う方が何かと良いと考えたからだ。


 装飾に関してもこだわらず、居心地が悪くならないものを頼んだ。

 派手でテカテカしたモノは目が疲れるというのをたびたびもらしていたのでそこら辺を配慮してのこの部屋なのだろう。


 何故か俺の座る椅子だけ特殊な装飾等で特別感が出ているが、これは決して俺の要望などではなくザハールの独断だ。

 俺は普通の椅子でいいと言ったのだが、ザーハルに「もう少し王としての自覚を持ってください」と一喝され、渋々容認する事にした。


 王としての自覚を持てと言われるのはいつもの事で、その度にザーハルに正論で殴られるので反論するのを諦めたのだ。


「現状を理解しているものは挙手」

「おいおいザハール。流石にお前や王じゃあるまし、現段階で状況を理解してる奴なんて居るはずがねぇ。勿論首謀者なら別だろうがな?」


 ザハールの言葉に、隣に座る無精ひげの男性が冗談交じりにそう返す。

 隣に座る彼の名はブラム・モージー。

 陸軍総責任者にして、肉弾戦最強の男。


 そんな男に同意するかのようにその場に集まった者は誰一人として手を挙げない。

 当たり前だろう。

 何せ事が事だからな。


「わかりました。それではまずは現状の認識統一から始めましょう。まず我々が住まうこの大陸は現在、未知の場所へとさせられました」


 ザハールの言葉に集まった者は一瞬首を傾げたが、瞬時に状況を理解しこの会議の重要性を理解したかのような表情へと変わる。


「ザハール殿、よろしいでしょうか?」


 ザハールはその言葉の主に対して構わないという目配せをする。

 声を発した主はブラムの隣に座る、首元から鱗のようなものがうかがえる男性。

 彼の名はアオードル・カレ。


 海軍総責任者にして、水の魔法を使わせたらこの国一の男。

 因みにブラムとは犬猿の仲で、よく口論になっている。


「決して否定する訳ではないのですが、その根拠を教えていただけますか? 私には到底そんな事が可能だとは思えないのです」

「根拠はナタリアとスキングストン両名協力のもと、大陸周辺の偵察を行った結果を元にそう結論付けました。詳細に関しては偵察に出た本人に説明してもらいます、スキングストン」


 ザハールがそう言うと、アオードルの隣に座る幼さを感じる少年が立ち上がる。

 彼の名はスキングストン・コサロタ。

 空軍総責任者にして、風を操り空を自在に駆ける空の支配者。


 基本的に物静かなのだが、興味のある事に関しては饒舌になる子供のような人物だ。

 そして見た目は幼いがあれでも大人であり、本人はそれを非常に気にしている。


「……元々周辺に在った大陸はどれもなくなってた。勿論あの王国があった大陸も。代わりにここから距離はあるけど初めて見る島は確認できた。それとその島には今まで見た事もないような建造物があるのも確認した」

「スキングストン、ありがとう」


 スキングストンはザーハルの言葉に頷き席に座る。


「以上の事実を元に我々の住まうこの大陸が転移させられたと結論付けました」

「あまりにも信じられなかったのでつい要らぬ質問をしてしまいました。申し訳ありません」

「大丈夫だ。正直俺も信じられずにいる」


 申し訳なさそうにそう言ったアオードルに対して、俺は安心させるようにそう言葉を投げかける。

 実際話を聞いても尚まだ半信半疑なんだからな。


「だが信じられないからと言って現実を見ずに手をこまねくのは違うだろう? だから今は転移させられたと仮定し動く。そしてその場合どう動いていくべきかを話し合うのがこの場だ」

「「「「「「「「ハッ」」」」」」」」


 俺がそう言うとこの場に集まった全員がそう答えながら軽く頭を下げる。

 本当にどうして俺なんかにここまで忠誠を誓ってくれているのやら。

 まぁ思い当たる節はありまくるんだがそれは置いておこう。

 それよりもこの忠誠に報いれるように俺自身頑張らなくてはならない。


「まずは先の大きな揺れによる被害報告を頼む」

「調査の結果先の揺れによる死傷者はゼロ、怪我人は軽傷者・重傷者含め約50人程度です。怪我人に関しては既にイミーナ指揮のもと治療済みで、重傷者に関しても3日以内に元通りの生活に戻れるとの事です。建物等の被害は主に建設途中の物が倒壊した程度で収まっております。ただ後々になって倒壊する恐れもありますので注意は必要かと」

「わかった。倒壊に備え迅速に動ける一時的な部隊の編成と選抜をザハールに一任する。頼んだぞ」

「かしこまりました」


 俺の言葉に了解の意を示したザハールはそう言って俺に対して軽く頭を下げる。

 にしても死傷者がゼロなのは一先ず一安心だ。

 とは言えまだ完全に安心できたわけではない。

 懸念材料はまだまだあるのだからな。


「イミーナ、怪我人迅速な治療よくやってくれた」

「労いの言葉ありがとうございます、陛下」


 そう言って頭を下げるのは俺から見て左側の手前から2番目の席に座る女性。

 彼女の名はイミーナ・ログハルド。

 国民から聖女と崇められる治癒魔法のエキスパートであり、怪我の治癒や回復に特化した治癒部隊の総責任者。


 普段はかなりおっとりしているのだが怪我人等の治療の際はまるで別人化のように冷静にして迅速に事に当たる。


「怪我人の治療に当たった際国民はどうだった? やはり不安がっていたか?」

「ほんの少し不安を抱いている者はおりましたが、それよりも圧倒的に陛下なら何とかしてくださるだろうと安心している者の方が多かったです。ですのでご安心ください」


 イミーナは微笑みながら俺に向かってそう言ってきた。

 こんな雰囲気で怪我人に対しては親身に接しながら怪我を完全に治療してしまうんだから、聖女として崇められるのもわからなくもないんだよな。


「わかった、ありがとう。一応国民が不安がらないようにこの場での話し合いの一部を喧伝してくれて構わない。それに関してはイミーナに一任する。頼んだぞ」

「かしこまりました」

「次は内ではなく外の問題だ。スキングストンの話にあったが未知の島に未知の建造物があったという事は、ある程度の知能を持った生き物が存在しているという事だ。その生き物が俺達に対してどう動くかわからないが、どちらにしても後手に回るのは避けたい。皆の意見を聞かせてくれ」


 俺はそう言ってこの場に集まった者達に対して意見を求める。

 とは言えまるで未知の生き物かのように言っているが、恐らくそれは人間だろうという事はわかっている。


 だがまだ確定しているという訳ではない。

 何せ俺が直接で見た訳ではないからな。

 けれど九割近くはそうだろうと思っている。


 しかしながらそれを今この場で言う必要はない。

 それを言ってしまえば要らぬ先入観を与えかねないからな。

 何故なら転生した世界では人間と魔族が長い間争っていたのだから。


「僭越ながらまずはこの世界の全容を把握するのがよろしいかと。それが無理だとしてもせめて周辺の正確な地理情報は必須であると考えます」

「ザハールの意見に俺も賛成です。仮にその知能を持った生き物とやらと戦う事になった場合、戦う場所の情報があるのと無いのとでは雲泥の差ですから」

「私もブラムと同じ理由で賛成です」

「陛下! もし戦う事になった場合は、この私を存分にお使いください!!」


 ザハールの言葉にブラム、アオードルと続き他の者達も頷く事で賛成の意を示す中、俺から見て左側の一番手前の席に座る女性が高らかにそう宣言する。

 彼女の名はエビータ・ネルヴィル。


 俺を守る為だけに結成された親衛隊のトップにして、肉弾戦でブラムと互角に渡り合う程の強者。

 彼女は俺が自身で言うのもなんだが、俺に絶対の忠誠を誓い俺の為に生きている、そんな人物だ。


「出来るだけそうならないようにしたいが、もしそうなった場合は頼むな」

「勿論でございます!!」


 俺の言葉に、エビータは嬉しそうにそう答える。

 実際問題、絶対に戦いにならないとは言い切れないのが現状だ。

 もしもに対しての備えは必要不可欠。


「それじゃぁとりあえず地形情報は集めるとして、他は?」

「それと並行して知的生命体と接触を図るのがよろしいかと考えます。仮にその知的生命体と対話可能なのであれば戦いを避ける事も可能でしょうし、対話が不可能であったとしても好戦的でない限りは戦いは避けられるでしょう。どちらにしても相手を知らなければなりません。ただ好戦的である可能性も十分にありますので、ある程度準備は必要かと」


 正直、意思疎通に関しては知能さえあれば俺の持つで何とかなりはする。

 それに恐らく相手もこちらを警戒してはいるだろうが、即攻撃してくるような事はないだろう。


 ただそれはあまりにも楽天的な考えでもある。

 もしもに備えザハールの言葉通り準備するべきだろうな。


「わかった。それで行こう。倒壊に備えた一時部隊の編制と掛け持ちになるが、そちらの編成及び選抜も任せて大丈夫か?」

「勿論でございます、陛下」


 俺の言葉に、ザハールは余裕だと言わんばかりに即そう答える。

 こういった選抜等は基本的にザーハルに任せっきりになっている。

 何せ全ての部隊に対しての知識があり、顔が聞くとなると自然と任せられる人間が限られてくるのだ。


 そしてその中で最も安心して任せられる人間となると、それはもうザハールしか居ないのだ。

 本当にザーハルには苦労を掛けていると思うが、本人は「この程度何の負担にもなっておりません」と余裕の返してをしてくるのだ。


 その言葉に甘えている俺も俺だと十分に理解はしているのだが、中々どうにも変えられないのだ。


「ネーナ。仮に交渉する必要が出てきたら力を借りると思うが構わないか?」

「勿論です。思う存分使ってください。陛下」


 俺の呼びかけに少しチャラい感じでそう答えたのは、イミーナの隣に座る女性。

 彼女の名はネーナ・デュプレシ。

 人心掌握の達人にして、我が国における外交工作の総責任者。


 相手する人間によって態度や喋り方、果ては見た目すら変える程の彼女だが普段はかなり砕けた感じで、チャラいと感じるような雰囲気がある。


 そしてそんなネーナの隣に座るこの会議に集まった最後の一人。

 彼女の名はナタリア・ハワー。

 少数精鋭の特殊な部隊を率いる総責任者にして、他の追従を許さない程の闇魔法の使い手。


 彼女は基本的に無口で感情をあまり表に出さないのだが、唯一好物であるスイーツを前にすれば多少表情が緩むという、なんとも可愛い人物だ。


「では今話し合ったように国家として行動しようと思うが、異議のある者はいるか?」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


 俺のその言葉に対して誰も返答せず、沈黙が流れる。


「いない様なのでこれで決定とする。くれぐれもこちらから先に手を出し攻撃するような事はないよう、徹底せよ。勿論非常時に関しては例外とする。以上で会議は終了とする。各々与えられた仕事を全うしてくれ。頼んだ」

「「「「「「「「ハッ」」」」」」」」

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