5 第三回 暗黒闘虫遊戯大トーナメント大会 第二回戦VSキャタピラー柄巻
トーナメントの初戦を勝ちベスト8に成ったあたしは、トーナメント第二回戦ベスト4進出を賭けた勝負に挑む事になった。
対戦相手は幼虫大好きキャタピラー柄巻だ。
『いよいよベスト4進出を賭けた戦いが始まりますね。河北さん』
『そうですねぇ。そろそろ参加者も、新たな闘虫を送り出して来るんじゃないでしょうかねぇ』
『負けたらポイントは手に入らないとは言え、この大会は全国暗黒闘虫遊戯連盟の正式大会ですから、ベスト4でも名誉とチャンピオンシップポイントは得られますからね』
『チャンピオンシップポイント次第で、全国大会への出場も掛かってますからねぇ』
おいっ、全国暗黒闘虫遊戯連盟って何だよ!?
しかも、全国大会とかチャンピオンシップポイントとか知らないんですけど!!
『ベスト4を賭けた初戦は、キャタピラー柄巻と狂犬玉瀬との対戦になりますが、河北さんは如何思われますか? 私はキャタピラー柄巻の、多彩な技に注目したいですね』
『ほう、水沢君は、柄巻氏の多彩な糸捌きが気になりますか。僕は、玉瀬氏のオオスズメバチが気になりますね。そろそろ出して来るんじゃ無いでしょうか?』
キャタピラー柄巻の糸捌きねぇ、柄巻の幼虫は糸を吐くでも使えるのか?
ポ〇モ〇かな?
体育館が暗くなり、ドン!チャチャ~とBGMが流れ出す。呼び出しのコールをしていた人も審判もマイクを持っている。ここからは、皆マイクを持って登場演出ではBGMも流れるのか、もうまんまTV格闘技番組だね。
『選手入場!』
あたしにスポットライトが当たる。今度はあたしが東だからな!
『赤コーナー! 狂犬! TA☆MA☆SEェェエ!!!』
いや、東じゃねぇのかよ!
「玉瀬ー! 期待してるぞぉー!!」
「貴重な女子選手だ。玉瀬には頑張って貰いたいぞ!」
「「「玉瀬お姉さまー! こっち見てー!!」」」
「「「姉さん、頑張ってください!!」」」
「「「フレッ! フレッ! 姉さん! がんばれがんばれ、姉っさん!!」」」
取り合えず、観客の歓声に応える様に手を振る。
笹傘に恨みを持っていた男子と観客の女子達が、何時の間にかあたしの応援団を結成していた。
へへっ、照れるぜ!
『玉瀬選手凄い人気ですね~』
『それはそうでしょう。闘虫界隈では貴重な女子選手ですし、性格はともかくビジュアルも最高ですしね』
『玉瀬選手が活躍して、闘虫に興味を持つ女子がもっと増えて、人気も出てくれると嬉しいんですけどねぇ』
何か水河コンビが、古参の実況と解説をしている人見たいな事言ってるけど。
お前らあたしと同じ小学生だろ! しかもまだ、この大会三回目だよ!?
あたしが闘技場に入場して来た方とは逆方向にスポットライトが当たる。
『青コーナー! キャァータピラァー! TU KA MA KIィィイ!!!』
青い髪に青い瞳、青白い皮膚に酷い目の隈。汗ばむ事も珍しくないこの季節に、黒のコート姿の男子が姿を見せる。
ざわざわ ざわざわ ざわざわ まるでカ〇ジ見たいな空気になる。
「柄巻の奴、いつもいつもインキくせぇな! 幼虫はキショイしよぉ!」
「相変わらず、何考えてるのか分からねぇ目をしてんな柄巻」
「何言ってるんだ。あれこそ技の開発に明け暮れる、玄人の姿だろうが!」
「そうだ。幼虫は闘虫の原点だろう! その研究の代償がアレなんだ! 馬鹿にするな!」
アンチとファンが場外乱闘を始めてしまった様だ。
如何もキャタピラー柄巻には、熱狂的な信者とアンチが居る見たいだなぁ。
信者もアンチも嫌だなぁ~。
『技巧派で知られる柄巻ですが、幼虫使いな事もあってかアンチが多いですね~』
『全くですね。幼虫だからこその、玄人味も有って良い物なのですけどねぇ~。やはり見た目の印象は、大事という事でしょうね』
暫くすると乱闘騒ぎをしていた者達が大会運営委員に連れていかれる。
『では両選手、闘虫を放しなさい』
柄巻が床に手を置くと、コートの袖から何かの幼虫がうぞうぞと出て来る。
Σおまっ、そんな所に幼虫入れてんのかよ!? 気持ち悪っ!!
しかも、幼虫がコートの袖から這って出て来るのを、ニチャっとした笑顔で嬉しそうにニヤニヤ見てるし、流石にこれは受け入れられないわー。
さて、あたしもどの闘虫を出すか決めないとな。
『カマ助、さっちゃん、今度は如何する?』
『拙者、腹が少々膨れておるので、今回は遠慮しよう』
『あら? そうなの? なら今度は、あたいが腹ごしらえさて貰おうかしら』
あたしの闘虫は、オオスズメバチのさっちゃんに決まりだ。
虫籠からさっちゃんを解き放つ。ブーンと言う音立て、空中にホバリングするさっちゃん。
『それでは、出そろいましたね? 闘技開始っ!!』
「ふん、先行は僕が貰う。僕の幼虫達旋律を奏でよ!『
柄巻の指示を聞いた幼虫達が、頭を上下に揺らし五つに枝分かれする糸を吐く!
「さっちゃん!」
『お嬢、心配なんて必要ないよ! こんな糸、あたいには止まって見えるねぇ!』
幼虫達が放つ糸をブン!ブン! と残像を残し回避するさっちゃん。
『おおっと! 開幕一番、キャタピラー柄巻の『
『オオスズメバチのさっちゃんですか、なかなかの敏捷性ですね。しかし、キャタピラー柄巻の技はこんな物では無いですよ!』
「僕の幼虫達の糸を躱したつもりか? 違うな躱させたんだ。その証拠がこれだ!『
「Σな、なんだって!?」
いつの間にか闘技場の至る所に糸が張り巡らされ、さながら巨大な蜘蛛の巣の中に入り込んでしまったかのようだ。
『へぇ、このおチビちゃん達、なかなかやるじゃないかい』
「さっちゃん脱出だ!」
「させると思うか!『
闘技場の上空しか逃げ場はなく、柄巻はそれをちゃんと計算して『
上に逃げたさっちゃんは、『
『計算された柄巻の技が、玉瀬選手を追い詰めるぅ!』
『流石柄巻氏ですね見事なコンボです。しかもこれをやるのが、幼虫だと言う事がポイントですね!』
くっ、見事なまでに防戦一方だ。『
仕掛けるしかない!
「さっちゃん、兎に角まずは一匹仕留めるんだ!『
『任せなよお嬢!』
『
床にいる一匹に狙いを定め『
『玉瀬選手の、オオスズメバチのさっちゃんが逆襲の一撃だ!』
『これは効きますよ!』
「ギィッ……!」
さっちゃんの一撃を受けた幼虫が苦しそうに仰け反る。
「僕の幼虫達の、どれか一匹が犠牲になる事は想定内だ……!」
「想定内だと!?」
『
さっちゃんとさっちゃんが刺した幼虫アンジェロを、『
そう床にいた幼虫アンジェロの周りには、いつの間にか捕縛用の糸の罠が仕掛けられていたのだ!
「床にいた幼虫は囮だったのか!」
『流石、柄巻クレバーです!』
『最初から、一匹を犠牲にするつもりだったんですねぇ。だとすると、その幼虫は……』
「アンジェロ、君の犠牲は忘れないよ!『
「ギギィィッ!!」
『Σなっ……、こ、この子急に熱くなって……!?』
「さっちゃん!?」
さっちゃんと密着した状態のアンジェロが最後の力を振り絞り熱を発する!
『何とこれは! 柄巻の幼虫一匹を犠牲にした自爆戦術だぁー!!』
『オオスズメバチに熱攻撃は大変有効です。自然界に於いても日本蜜蜂が熱殺蜂球を作り、致死温度の差を利用してオオスズメバチを仕留めていますからねぇ。効果は抜群ですよ!』
「そうか! オオスズメバチの弱点、熱攻撃か! さっちゃん『
あたしは熱を逃がすため、さっちゃんの外骨格を金属質の物へと変化させ、放熱を促す!
『おおっと! 何だこれは!? 玉瀬選手のオオスズメバチ、さっちゃんの外骨格に、美しい金属質の光沢が出たぞぉ!』
『ほほぅ、メタル化の技ですか。金属の熱伝導を利用した放熱で、熱殺を避ける狙いですね。やりますね!』
もちろん、あたしはこのままさっちゃんに、熱攻撃を甘んじて受けさせるつもりは毛頭ない。
「さっちゃん!『
『ふふっ、お嬢この子、あたいが料理して良いのね!』
幼虫アンジェロと一緒に糸に縛られ、身動きの取れない筈のさっちゃんは、その強靭な顎でアンジェロを解体して往く。
『ああッと何と言う事だぁー!! 身動きが取れない筈のオオスズメバチのさっちゃんが、糸で身動きの取れない幼虫アンジェロを解体して往くぅー!!』
『なるほど。流石はオオスズメバチの顎です。さっちゃんとアンジェロを一緒の糸で縛ってしまった事で、逆に『
『要するに自分の必殺の間合いのつもりが、相手にとっても必殺の間合いだったという訳ですか!』
『ええ、そうです。オオスズメバチにとって、肉団子を作るのはお手の物です。アンジェロの熱攻撃は、不発に終わるでしょうねぇ!』
「くっ、まだだ! まだ終わらんよ!! オオスズメバチはまだ身動きが取れない。こちらには幼虫が二匹まだいる! 二匹が掛かりなら『
確かに柄巻の言いう通り、このままだと幼虫二匹に熱殺される。
だがこちらも当然何もしない訳じゃない。切り札だ!
「さっちゃんのさは殺伐さ、さっちゃんのさは殺戮のさ、さっちゃん『
ギチギチッ!! と言う音を立て自らを縛る糸を噛み千切り、さっちゃんが『
「な!? あの糸はそんな簡単に、千切れる物じゃあないんだぞ!! ディーノ!クリス!『
柄巻は直ぐに残った幼虫に指示を出し、さっちゃんに直接ダメージが期待できる糸の攻撃を繰り出す。
しかし、『
『柄巻、咄嗟に『
幼虫の攻撃を物ともせず、ブーン! とさっちゃんはゆっくりと浮上する。その目は血を求めるかの様に赤く輝き、さっちゃんは殺戮飛行を開始する!!
『
残像を残し消えたさっちゃんは、離れた糸の上に居た二匹の幼虫を、瞬く間に肉団子に変える!
『ゆっくりとさっちゃん浮上したと持ったら消えた!? なんと! いつの間にか柄巻の幼虫達が肉団子だぁぁー!!』
実況の水沢君の声が体育館に響き渡る。勝利が確定した瞬間だった。
『しょっ……、勝利! 狂犬玉瀬!!』
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
「「「玉瀬!! 玉瀬!! 玉瀬!!」」」
『会場が、会場が沸いております!!』
『いやぁ~凄い戦いでしたねぇ。ほんと闘虫って素晴らしい物ですね!』
『次の玉瀬選手の試合も、楽しみですね!』
体育館があたしの名前のコールで揺れている。へっ悪くない気分だぜ!
「僕の負けだよ、玉瀬さん……」
柄巻は膝をがっくりと落とし項垂れる。そんな落ち込んだ柄巻を、コートの中から出て来た大量の幼虫達が慰める。
あたしはそんな柄巻を見て、顔を引きつらせながらも何とか声を掛ける。
「あ、あんたの幼虫は強かったよ。ただ、うちのさっちゃんがちょっと強すぎただけだぜ……」
テイム能力のお陰で、虫に耐性付いたと思ったけど。この大量の幼虫は無理。
と、とにかく、これであたしはベスト4、次は準決勝だ!
次回予告
準決勝に駒を進めたあたしは、
今回はここまでだぜ! 次回も闘技開始!
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