3 第三回 暗黒闘虫遊戯大トーナメント大会 受付と予選

 放課後あたしは、DOBCポイント優勝者総取りの大会、第三回暗黒闘虫遊戯大トーナメント大会に参加するため、体育館に訪れる。あたしは、大会に参加する為のDOBCポイントを節約するため、纏めて買うとお得な『うんめぇー棒! 明太チーズ味』三十本入りを、先生に見つからない様に体操着入れに無理やり突っ込んで、現物を体育館に持ってきたんだ。ふぅ、苦労したぜ。


 大会会場である体育館に入ると。マッシュルームカットに、眼鏡と蝶ネクタイが印象的な大会運営委員が、DOBCポイント又はお菓子の現物の300円相当の物を、大会参加費として提出する事を求めて来る。優勝しない限り、300ポイント損する事が確定のヤバい大会なんだぜ。もちろんあたしは優勝するつもりだぜ! ちなみに真美ちゃん情報だと、参加費の1/3は運営の懐に入るらしいんだ。


「ほう、『うんめぇー棒! 明太チーズ味』三十本入りを、現物持ち込みですか。あなた、中々チャレンジャーですね」


「ふっ、これ位あたしに掛かれば如何って事無いね!」


「その態度、相当自信が有りそうですね。今回の大会、僕はあなたに賭けさせてもらいますよ」


「へぇ~、あたしに目付けるとは、なかなか見所が有るな。ま、あたしに掛けて損はさせないけどな!」


「期待してますよ」


 あの運営の眼鏡、如何やらあたしに賭けるみたいだ。中々見る目が有るじゃん。

 会場となる体育館には巨大モニターが設置されており、各試合を分割で映し出す事も出来るそうだ。それに、今回の第三回暗黒闘虫遊戯大トーナメント大会だけではないが、大会参加者の誰が優勝するかの賭け事も行われているのだ。業が深いぜ!


 大会会場に足を踏み入れると。大会参加者達と大会観戦&賭け参加者で、かなりの人数が集まってる。


 な、なんて事だ! あたし以外の大会参加者は皆虫を籠に入れて無いだと!?

 あたしはメイン闘虫のカマ助と、サブ闘虫のオオスズメバチのさっちゃんを、黄色い虫籠に入れて来たと言うのに!


「おや? この闘虫界のキングを決める、崇高な暗黒闘虫遊戯の大会に、ド素人が紛れ込んでいる様ですねぇぇ~?」


「なにぃ!? お前、あたしのクラスのアリンコ大好き柿崎じゃねぇか!」

「そう、僕こそが闘虫界にそのひ……!?」

「お前、さっきの大会運営委員と眼鏡被りしてんだよ! 眼鏡外せや!」

「ちょっ、玉瀬!? 何を訳の分からん事を! 眼鏡を外す訳ないだろうが! 眼鏡は顔の一部と言ってだなぁ……!」

「あっ? あたしは分かってるから良いんだよ! 自分で外す気がねぇならあたしが外してやる! よこせや!」

「やめろ! こら玉瀬! や、やめ、やめてえぇぇぇ!!」


 あたしが眼鏡を取ろうとした瞬間、柿崎の髪の毛からアリンコが出て来て眼鏡フレームの上で威嚇する。

 すんっとあたしは表情を無くし、『え!? こいつアリンコ頭で飼ってるのかよ~! 引くわー』と思うのだった。


「な、なんだその眼は!」


 こいつは内のクラスの柿崎 大輔、アリンコが好き過ぎてDr.アントとか蟻司令官アントコマンダー柿崎などの異名を持つ、嫌味眼鏡オールバック白衣の男子生徒だ。

 ちなみに今回の大会は、使える闘虫は三匹まで。だから、アリンコ使いの柿崎は予選敗退するのだった! 南無南無。


「ちょっ玉瀬! お前、僕の未来が決まってて『もう負け確お疲れー』って顔すんな! 僕はまだ負けてないぞ!」

「え? 何の事? あたしはただ、アリンコ頭で飼ってる柿崎引くわーって、思ってるだけだぞ?」

「グハッ!」


 グサッと言葉が心に刺さったのか、胸を抑える柿崎。

 だって、柿崎が負けるのは決まってる事だし、わざわざ考えないよ。

 それよりアリンコ頭で飼うとか、やっぱりないわー。こんなの学校中の女子に引かれるわ。


「くっ! 玉瀬め! この目辱の蟻辱忘れんぞ!」

「はいはい、あたしは綺麗サッパリ忘れるから」

「な!? くぅ~!!」


 柿崎は悔しそうな顔して、会場の奥に走って行ってしまった。よく分からん奴だ。


「あれがうちの小学校の美しき妖精の姿をした狂犬。玉瀬 結衣か」

「ああ、噂通りの可憐さと凶暴さだ!」

「先に柿崎が絡んだのが悪いけど、玉瀬ヤバいっすねぇ」

「しかし、この大会は闘虫の強さを競う大会だ。口の悪さや腕っぷしは関係ない」

「そうだな。玉瀬も所詮は女子、虫の扱いで男子に勝るはずもない!」

「ああ! その通りだ!」


 何やら男子が話しているが、あの大会参加者らしき、男子達の言う通りなのだろう。

 実際、観戦や賭けに参加している女子は居るのだが、大会に参加するのは男子ばかりで女子の参加者はあたしだけのようだ。


「なるほどねぇ~。ならあたし自身に賭ければ、大穴大当たりって事にならないか?」


「玉瀬さん、賭けますか? 1口100DOBCポイントで、今の所玉瀬さんのオッズは、100倍を超える超大穴ですよ?」


 受付にいた男子運営委員に、髪型以外そっくりな女子の運営委員が、あたしに1口賭ける事を進めて来る。


「いいぜ! あたしは自分に1口賭けるぜ!」

「流石は玉瀬さん、噂に違わぬ胆力ですね」


 あたしは貴重なDOBC100ポイントを、自分に賭ける事にしたのだ。


『参加者締め切りの時間です。参加者が締め切りから、10分間までは選手に賭けられます。賭けに参加なさる方は、どうかお早めに』


 漸く参加者が締め切られ、出場メンバーが出そろったと言う事か!

 集まった参加者は48人か。参加費300ポイントの内200ポイントが賞金なり、優勝すれば総取りで9600ポイント。ふふっ、ホールケーキを一人で楽しむか、ケーキバイキングを満喫するか今から悩ましいぜ!


『これより予選を開始します。選手は名前を呼ばれたら闘技場に来てください。来ない場合は失格と成ります。予選を二勝すれば本戦トーナメント出場です。皆さん頑張ってください』


 予選が消化されて往く中、あたしは結構待たされた。


「玉瀬選手こちらへ!」


 漸くあたしの名前が呼ばれたぜ。

 闘技場に行くとあたしの対面側には、ゲ〇ゲの〇太〇にでも出て来そうな出っ歯で、妙にゴマをするポーズが板につく男子がいた。その男子の周りに、何かが飛んでる様に見えるが……?


「先ずは、選手入場です」


 なるほど。何かの格闘技番組を思わせる演出の仕方だな。


「ひーがしぃー! ベルゼブブぅー、やぁーのぉーっ!!」


 運営委員の、選手呼び込みコールの癖の強さよ。


「来たぞ。蠅使いベルゼブブ矢野!」

「矢野は今日、どんな汚い手を使って来るんだろうなぁ」


 ほう、このゴマすり男子、ベルゼブブ矢野というのか。矢野の周りに何か飛んでると思っていたが、蠅が飛んでたのかよ何か嫌だな。

 だってさあ、蠅と言えばう〇ことかに集る虫じゃん? あんま良いイメージ無いんだよねぇー。あっ、だから汚いって事か!? よし速攻終わらせよう。


「にぃーしぃー! きょおぉけぇーんっ! たーまぁーせぇーっ!」


 やっぱ癖強いなぁ~。


命玉いのたまの狂犬、玉瀬か!」

「狂犬と呼ばれる女子の闘虫テクが、どれ程の物か見せて貰うか!」


 狂犬言うな! あたしは誰かれ噛みついたりしてないぞ!

 コールが終わると、審判をする運営委員が前に出て、ルールの説明をしてくれる。


「ルールを説明します。使用可能闘虫は三匹まで。三匹の闘虫が戦闘不能及び死亡するか、対戦相手に負けを認めさせる事で勝利とします」


 シンプルなルールだけど、もしかして試合一戦する事に、三匹の虫が必要だったのか?

 まあ良いか! ようは勝ちゃー良いのよ、勝ちゃーな!


「では。選手は闘技場に入り、三匹の闘虫を放してください!」


 闘技場に選手も入るのか。つまり選手を直接狙うのも有りって事だ。

 だから、対戦相手に負けを認めさせる事でも勝利となる訳か。


 矢野は、デカい蠅を三匹伴なって闘技場に入った。蠅に何か付いている気がする。汚いと言われる矢野が、蠅に何か付けるとしたら、もうアレしかないだろう。


『カマ助、準備は良いか?』


 あたしは黄色い虫籠に入っているカマ助に思念を送る。


『漸く拙者の出番ですか。お嬢』


『ああ、出番だぜ。あの蠅共が、あたしにう〇こを付けに来る前に、チャチャと終わらせてくれ』


『承って候!』


 虫籠のふたを開けると。カマ助は羽を広げ虫籠の外へ飛び出る。さっちゃんは出る必要は無いだろう。


「両選手。使用闘虫はそれで構わないな?」


「ブブ、ええ、もちろんですとも運営委員様。ブブブ、寧ろ相手の女子の方は、その大カマキリだけで良いのでぇ?」


 こいつ!? 喋りに一々ブブとか言って、自分にキャラ付けしてやがるぞ!

 しかも、スリスリ、スリスリとゴマすりポーズがうぜぇ!


「ああ、あたしは構わないぜ!」


「ブブ、試合が始まる前に言って置きますよぉ。ブブブ、私の蠅ちゃんには犬のう〇こが付いているんですよぉ! ブブ、サレンダーするなら今の内ですよぉ?」


「流石矢野汚い!」

「女子相手にも、躊躇せずにう〇こを付けに行く姿勢、見習わなくては!」

「ふふふっ、玉瀬さんの儚げな妖精のような姿が汚されるとは、興奮しますなぁ!」


 おいおい! こいつ等本当に小学生か? 性癖が歪み過ぎてるただの変態だろ!


「バカ言ってんじゃねぇよ! 矢野、お前何て瞬殺だ!!」


 審判があとしと矢野を交互に見て口を開く。


「闘技開始っ!」


 審判から、試合の合図が発せられると直ぐに矢野が動く。


「ブブ、行け私の蠅ちゃん達!『蠅のう〇こ祭りプープフライハイ』! 〇ソ塗れに為るがいい!!」


 なんて汚ねぇ技名だ!


「カマ助、一網打尽にしろ!」


『御意。死蟲鎌流 中伝 真空死鎌鼬』


 矢野の蠅達が汚ねぇパーティーを始める前に、カマ助の見えざる死神の鎌が蠅共の命を刈り取る。

 はらりと、真っ二つになった蠅共が、闘技場の床に落ちる。


「し、試合終了! 勝者、狂犬玉瀬!」


 静まり返る場内、審判があたしの勝利を告げる。


「ふん、予告通り瞬殺してやったぞ。矢野?」


 あたしがそう言うと。ワァーッ!! と体育館に歓声が響き渡る。


「おおおっ! すっげぇ!! 何だよ今のマジかよ!」

「な、なんだ、何が起こったんだ!?」

「おいおいマジかよ、汚くともあの矢野だぞ! とんでもない奴が現れたな」

「宣言通りとか痺れるぅー!!」


 矢野を応援していた奴らも手のひらクルーだ。


「クソッ! クソッ! あり得ない何だそれは! この私が負けるだとぉ! 今月の私の小づかいガアアァァァッ!!」


 おお、おおぅ、矢野が頭を掻き毟りながら発狂してやがる。キャラ付けも忘れてるし、自分に何口も賭けてたのかねぇ? 取り合えず、そんなに頭皮を虐めると将来禿るよ?


 あたしの予選二戦目は対戦相手が試合放棄して不戦勝だ。


「汚いだけとは言え、闘虫四天王ベルゼブブ矢野を瞬殺したんだ。当然の結果だな」

「ああ、矢野を瞬殺する様な奴に挑むなんて、闘虫が無駄死にするだけだしな」

「闘虫を育てるのも、楽じゃないからなぁ」

「ほんそれ」


 男子共の会話からあの矢野って奴が、闘虫四天王とか大それた異名を持っている事が分かっぞ。

 なるほどなぁ。道理であたしが、矢野の蠅をカマ助で瞬殺しただけなのに、会場が静まり返る訳だ。四天王だから注目されてたんだな。

 とにかく勝ったな! ガハハハッ! 次は本戦トーナメントだ!


 次回予告

 等々本戦進出を決めたあたしは、新進気鋭の闘虫士バタフライ笹傘との対戦に挑む! 男子にやけに嫌われている笹傘は、顔は良いが性根の腐った変態キモ野郎だった。そんな女子受け第一の笹傘を、あたしはボコス事にしたのだった。


 今日はここまでだ! 次の話もぜってぇ見てくれよな!

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