案·兄弟

斑鳩:………ただいま、愁…日向さん。俺……今日さ、日向さんそっくりの人に出会ったんだ。


姿も、相手を捕まえる時に舌を巻き付けてくるのも……全く一緒でさ。ははっ………おかしい、よな?


確かに俺の腕の中で……死んでいった、のにさ……。思わず目の前で泣きそうになった。


(斑鳩は一人で、二個の小さな額縁に向かって喋っているようだ)


俺さ……思わず拘束を解いて逃げちまった。怖かったんだよ。詰られる気がして……!


"お前のせいで私は死んだ。弟も見殺しにした。盾の守護者とは笑わせる……"


ずっと頭の中でこだましてる。歪んだ声で……うっ……


なんで俺……惨めに生きてるんだろうな。今更責められることを恐れてるんだろうな?


あん時俺は、皆を失うくらいなら死んでもいいやって…無我夢中で食って掛かってからの記憶が無かった。


気づいた時には……全て遅かった。


あの後何度自害しようとしたか、途中から数えるのも止めてしまった。


そのくせ人並みに死ぬのを……いや、巧くは言えねえけど恐れてて……なんか意味わかんねぇな。そのまま絞め殺された方が、楽だった筈なのに。


?:…………へぇ。まさかあの子の知り合い、だったなんてね。道理で効かないわけだ。


斑鳩:……………………?(今………誰かの声が…………)


(斑鳩が振り向いた瞬間、背後にいた"それ"は不気味な笑みを浮かべて挨拶した)


?:えーっと……初めまして、かな?僕の名前は一ノ瀬。うちの子が世話になったようだからついてきちゃったんだ。


斑鳩:("ついてきちゃった"……って、まさか今までの事聞かれて……!?)


なっ………何の話をしてる……?俺は……あんたの知り合いなんか知らない……!


一ノ瀬:とぼけないでくれるかな。本人も一緒だから言い逃れできないよ?


……さあ…出ておいで、卯月君。君の読み通りみたいだよ。


(一ノ瀬の陰から姿を表したのは……先程拘束を解いて斑鳩が逃げた"彼"だった)


斑鳩:!?うっ…………嘘…だろ……?(知り合いって……この人の事だったのか?)


卯月:先ほどは……どうも。"戦神の斑鳩"君。漸く貴方の事を把握できましたよ……


この、裏切り者が。


よくも、よくも兄を………殺しましたね!


斑鳩:………兄……?それじゃあんたは…日向さんの………弟なのか?(兄弟が居るなんてそんな話、一度も聞いたこと無いぞ…?


でもあの人は、俺と日向さんの関係を知っていた。やっぱり、本物なんだろうか……)


卯月:私は最初反対しました。兄が光の戦士と行動を共にすることを。隙を見て命を奪うつもりだと何度も進言しました……!


なのに日向は聞き入れなかった。その結果があれです。力ずくでも止めれば良かったと……


ずっと自分を責め続けました。そして誓ったんです、兄を奪った斑鳩という戦士を……この手で始末すると。


それが今の私にできるせめてもの贖罪だと。


斑鳩:……………聞かせて、くれないか。さっき俺を捕まえたとき、何を聞こうとしていたんだ?


卯月:今更貴方に言う必要はありません。……死になさい。日向の、兄の仇です!


(卯月は斑鳩に向け舌を激しく叩き付けた。斑鳩は抵抗する様子もなくされるがままになっている)


斑鳩:……………………う……っ。


卯月:どうしました?兄を殺したように、私の前でも暴れたら良いでしょう!抵抗なさい!


斑鳩:………嫌…だ。


卯月:何ですって?声が小さくてよく聞こえないです。言いたいことがあるならもっと大きな声で言いなさい!


斑鳩:……………。(もう……二度と、戦神の力は…………)


(答えない斑鳩に業を煮やした卯月は、首筋に舌を巻き付けると締め上げていく)


卯月:さようなら……戦神(いくさがみ)の斑鳩。あの世で悔いて詫びなさい!


"待ちなさい、卯月!"


卯月:……………!?だ……誰、です?


"私はそんな事、望んでいません!だからもう……止めなさい、卯月!"


卯月:ひ………日向……?日向なのですか?姿を見せてください!


一ノ瀬:(確かにこの声は、日向君のものだ。何で……急に?)


"私は此処に居ます。さあ…彼を、斑鳩君を、放してくれませんか?"


(突如斑鳩を護るように、死んだはずの日向の姿が現れた。何故かその姿は透けているようだ)


卯月:日向……!


(日向の姿を見つけた卯月は、斑鳩の拘束をあっさりと解いた)


斑鳩:………(どうして……急に離れていった…?)


一ノ瀬:あの子が遺した残留思念か……。

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