第31話
なんかやばいことになってる。
それがユウヒの感想だった。
謎の肉の塊が浮遊してて凄い勢いで骨っぽいものを撃ち出していたのが見えて、しかもニコとシャルルがボロボロになりながらも戦っていたのが見えたので、加勢の為に取り敢えず二人に降り注ぐ骨の弾丸を全部叩き落として二人を守ることに成功した。
というのがユウヒが行った行動。
ユウヒからしてみたら射出されていた骨はあまりにもちんたら動いていたので叩き落とすのは容易であった。何せティアの方が速い迄ある。
「んで、なんで超獣がシティに湧いてんですかね」
『恐らくは指定危険犯罪者”コネクター”の仕業だろうな』
「誰ですかそれは」
『お前……スレイヤーなら少しは指定危険犯罪者のこと頭に入れとけよ』
どうやら空間と空間を繋ぐことが出来る指定危険犯罪者がカテゴリー4を何らかの方法でシティ内に放り入れたのだろう、というのがマオの解答であった。
マオは空を飛んでいる無人機でニコ達の動向を見守っていたようでそのコネクターとやらが出現したのも見ていたようだ。
「とりあえずこいつは殺しますけど、なんか意見ありますか?」
『超獣倒すのに意見を求めるな。適当にぶっ殺せ』
「わかりました。ニコさん、シャルルさんの介抱しといてください。何が起きたのか知りませんけど相当酷い怪我してますよ」
「かしこまりました。…一人で大丈夫ですか? というのは愚問ですね」
服が所々破れて擦り傷などを負ったニコはだいぶ汚れているのだが、それでも気品があるなあとユウヒはどうでもいいことを考える。
「まあなんとかなると思います」
曖昧な答えにニコはクスリと笑うが、それはある意味でユウヒを信頼しているが故の笑いでもあった。
「お任せしました。私の攻撃はあの超獣にはあまり通じないようなので」
「ええ、任せてください」
ユウヒはニコに微笑みかけてから超獣の方に向き直り、地面を蹴る。
超獣は向かってくるユウヒを脅威と判断したのか、更にその形態を変化させた。
穴があった場所から生えてきたのは数え切れないほどの触手。先端に鋭利な爪らしきものが一本生えており、軽く振り抜かれたそれはコンクリートで出来たビルを倒壊させた。
それらがユウヒに向かって殺到する。
ユウヒは直刀を片手に向かってくる触手の群れに突っ込み、そのまま超獣に飛び蹴りを決めた。
ダイヤモンド以上の硬さを誇る超獣の身体が湾曲し、超獣の身体が吹き飛んだ。身体中の穴から体液を吹き出して、叫び声じみた咆哮をあげている。
「マオさん、硬い物質で出来た超獣ってのは嘘ですか? 柔らかいですよ」
『ダイヤモンドだって力いっぱいハンマーで叩けば砕ける。今回はお前がそのハンマー役なだけだ』
事前に聞いてた話よりもこの超獣弱いと感じたユウヒは思わずマオにそんなクレームを入れたが、マオは訳の分からないことを返してきただけであった。
『しかしシャルルとかいうやつの打撃は全く通じてなかったんだがな。お前はなんで攻撃が通用したんだ?』
「ただ思いっ切り蹴っただけですけど」
『ふーむ、わからん。超獣よりお前の方が余っ程わからん』
「悪口を言われた気がする」
地面に叩き付けられた超獣に追撃する為にユウヒは再度地面を蹴って加速する。
地面に倒れている超獣に向かって跳躍し、直刀を振り被る。
超獣は無数の触手をユウヒに向かわせるが、ユウヒはそれら全てを切り落とし、触手の上に着地し道替わりに利用して、超獣の本体に向かって直刀を突き立てた。
ユウヒは突き刺した直刀を再度握り直し、前方。刃が向いている方に向かって走り出した。
超獣の体液が飛び散り、超獣が暴れ回るのもお構いなしにユウヒは直刀を押して、超獣の皮膚を切断していく。
「こいつの核はどこでしょうね」
ユウヒが超獣を切り裂きながら呑気にそう呟いていれば、超獣の触手が一斉に引っ込み、その体表に無数の穴が開く。
それらは全てユウヒを向いていて、射出されてきた骨の弾丸もユウヒに向かって殺到してきた。
ユウヒは超獣に刺していた直刀を引き抜くとそれら全てを薙ぎ払う。
しかし超獣の猛攻は止まらない。
ユウヒは面倒くさそうな顔を浮かべると腰に背負っていた二本目の直刀を引き抜いた。
『お、いつ使うのか楽しみにしてたんだ。データをくれ』
「データ取るの趣味なんですか」
『お前の戦闘データは興味深いからな』
ユウヒは二本目の直刀の柄部分についているトリガーを引きながら、それを振るった。
光。
その光は超獣の体表を切り裂きながら降り注ぐ骨の弾丸を全て打ち返す。
超獣の身体は巨大な光の刃に切り裂かれ、ゆで卵を二つに切断したかのように割れた。
そしてついでのように射線上にあった高層ビルが真っ二つに切断され倒壊を始めている。
『馬っ鹿、出力は抑えろって言ったろ』
「いや最初から最大出力になってるとは思いませんよね」
ユウヒも驚いたように左手に握っている直刀に目を落とした。赤熱色に発光する機械仕掛けの刀身から空気を排出する音ともに
『お前が倒したカテゴリー5の因子から作った武器だ。ティアの持つASWの指向性光刃技術を真似して作ってみたんだが……やっぱ欠陥は多いな』
マオは困ったとでもいいだけにそう話す。
指向性光刃技術は十年前の遺産のひとつだ。ユウヒが知っていることと言えば、すごい技術でエネルギーを凝縮させてすごい技術でそれを射出しているということだけ。
超獣技術の応用の果てに生まれたそうだが、「マジック」が使えるニューなら似たような技術をなんのエネルギーもなしに利用出来るし、それを刃にするくらいなら銃型にした方がいいのでは? と言われて光線兵器に遅れを取り、今となっては浪漫を求めるスレイヤーくらいしか使っていない。
ただし戦闘面においては比較的優秀。
超獣の素材を利用した刀身と、指向性光刃技術で発生するエネルギーのシナジーは高く、先程ユウヒがやったように強力な一撃を放つことが出来る。
勿論、比例するように消費するエネルギーも増大するためほとんどが使い捨てか、エネルギーを補充する方式となっている。
「試作機を実戦で試す癖やめた方がいいですよ」
『生憎試してくれるのがお前だけだからな。お前が結構な頻度で
「前向きに検討しておきます」
ユウヒはマオの我儘よりも亡骸となっているカテゴリー4の死体に目を向けた。先程間違って撃った光刃の影響で既に虫の息。
液体のような姿になって泥のようになった体表から弱々しく泡が吹き出ている。
『カテゴリー4は核にトドメを刺した方がいい。以前、カテゴリー4を捕獲したシティが、カテゴリー4の自爆で壊滅したって話があるからな』
「超獣は所詮、超獣ですか」
ユウヒは溶けた超獣の内部から露出している核を見つけると、それを直刀で切断した。
超獣の脈動が停止し、液体のようになっていた体が凝固すると岩に楔を打ったかのように崩壊していく。
超獣の反応が消え、鳴り続いていた警報がようやく静まる。
超獣に勝利した。勝利したのだが、あまりにも勝った気がしない。それは大通りに転がる無数の死体が影響している。
老若男女問わずに転がる死体は、もしユウヒが天啓姫を護衛していなかったら救えたかもしれない命だった。
しかしユウヒが天啓姫を護衛していなかったら天啓姫が死んでいた可能性がある。
ユウヒは少しだけ目を細めて、自分は見ず知らずの人間の死を痛むほど心は広くないと言い聞かせていた。
「マオさん、とりあえず何もないようだったら本部に戻りますけど─────」
「マオ? 今、マオって言った?」
ユウヒはその声でようやく自分の背後に人間が立っていたことに気づいた。
振り向いてみればそこにいたのはアルミナ。
目を見開いて、明らかに憎悪の浮かぶ目でこちらを見ている。
なんでこんな所にいるのかユウヒには理解し難かったが、ユウヒはアルミナの左目の眼帯が外れていることに気づいた。
その双眸は藍色と紅色。
それを見たユウヒは臨戦態勢を取った。
なにせ話に聞くテロリストと同じ目の色をしていたからだ。
「…アルミナさん? 何故ここに?」
「質問しているのはこっちだよ。貴方は確かに今、マオという名前を口にした。貴方は何処に”あいつ”がいるのか知っているんだよね?」
「答える筋合いは今の所ありません。それよりもアルミナさん、なんでこんな所にいるんですか。理由次第では攻撃しますよ」
殺すつもりはないが警告しておく。
ユウヒにアルミナは殺せない。それはユウヒがアルミナを気に入っていて、アルミナがユキと知り合いだからだ。
「…もういい。それが答えなんだね。…ごめんね」
霧。
白くて深い霧が徐々に周囲を覆い始めた。
それと同時にアルミナの身体が徐々に消え始める。まるで霧の中に溶け込むように。
ユウヒは咄嗟にアルミナの身体を掴もうと地面を蹴るが、それよりも早くアルミナの身体は消え失せ、ユウヒの手は虚空を掴む。
「今度会う時は敵同士。その時は…死んで貰うから。…本当にごめんね」
「…」
アルミナの気配が完全に消え失せる。
ユウヒは無言で虚空を睨みつけていたが、ため息をつくと直刀を収めた。
霧が晴れていく。
やはりこの白い霧はアルミナの能力なのだろう。ユウヒはそう断定した。
白い霧が出ている間はアルミナの姿は見えない。そして何よりアルミナが立ち去って直ぐに晴れたことから局所的なものでもあると推測できる。
「マオさん、彼女は貴方のことを知っているようでしたが」
『……ああ。心当たりはある』
「相当恨まれているようでしたが」
『…そうだな』
マオの声音は何処か全てを諦めているような、力のない声をしていた。
『何れ、お前にもわかる時が来る。私がとてつもないろくでなしであることがな』
「……」
ユウヒは勘が鈍い訳ではない。
だが確証が得られない以上、ユウヒはマオにその事を問い詰めることが出来ない。
ユウヒがマオに送る言葉に迷っていると、Stecからマオとは別の通信が届く。それはティアの声であった。
『へい先輩。私がいない間に楽しいことになってたみたいですが調べ物は終わりましたよ〜』
「ご苦労様です。結論からどうぞ」
『せっかちですねぇ。背後にいるのはチゥアンシィンという中国発祥のASWや軍事産業を手がける大企業でした。ただその更に背後には中国政府の影があります。ランク一桁の先輩を勧誘したいのでしょう。その為には先輩のお姉様を誘拐し、人質にすることが手っ取り早いとも』
どうやってそれだけの情報を手に入れたのかは聞かないでおくが、ティアが優秀だということだけはよくわかった。
『さて、本題ですが、今先輩のお姉様は傍にいますか?』
「いえ、普通に家に帰らせました」
『あら、残念です。多分誘拐されましたねぇ』
「………は?」
『奴らはテロリストと繋がってました。テロに便乗して先輩のお姉様を誘拐するメールが先程届きました。多分それは既に実行されています』
なんてことがないようにティアから告げられたその言葉はユウヒの思考を一瞬真っ白に染めた。
ユウヒは慌ててティアとの通信を切るとユキの携帯端末に連絡を試みる。
1コール、2コール、3コール……。
いつまで経ってもユキは電話に出ない。いつもなら2コール目で出ると言うのに、ユキは電話に出ることはなかった。
ユウヒの顔から血の気が引いていく。
目の前が暗くなっていくような感覚と、胃の内容物がせり上がってくるような気持ちの悪い感情に思わず口を手で覆った。
『…話は聞いた。とにかく今は戻れ。お前を手中に収めたいだけならユキはまず無事だ』
マオがユウヒにそう語り掛け、ユウヒは力が抜けかけた脚で何とか踏ん張っていた。
それと同時に溢れてくる怒りの感情。
しかし頭は冷静で、負傷しているニコとシャルルを本部まで送ることを先決にしようとする自分もいる。
事実それが正しい。スレイヤーズ程の組織ならチゥアンシィンに抗議することも可能だ。何せ法律を犯しているのは向こうなのだから。
だが過去のトラウマがユウヒの精神を蝕んだ。
目の前で姉を連れ攫われ何も出来なかったあの過去の記憶が蘇る。
また失うのか?
そんな恐ろしい考えがユウヒの冷静さを欠かせていた。
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